8日目 Mother
バスにゆらり揺られてロビィの実家に到着した。
「うそぉ・・・・」
そこにはロビィからはどう頭をひねっても出てこない立派な日本家屋がそびえ立っていた。
「HereがMeのOld homeだよ!Great grand father~~~!!」
ロビィは叫びながらその日本家屋の中に飛び込んでいった。
「あぁっ、ロビィ!!Wait~~!!」
香もロビィの後を追って走って行ってしまった。
奏海はどうすれば良いのかわからず、立ち尽くしている。
「奏ちゃん、俺たちも行こう!!」
「え、あ、はいっ」
奏海は秀と一緒に炉火井家の門をくぐった――
(それにしても広いなぁ・・・)
炉火井家の庭はフジヤマ学園の中庭に匹敵する大きさだった。
「にぃ様!」
「OH!!!Takako!!!」
(お兄様!?まさかこの子が・・・!)
ロビィを“にぃ様”と呼ぶこの少女はどうやらロビィの妹のようだ。
「Cuteねー!ロビィのSisterなの?」
香が少女の頭を撫でながら尋ねる。
「はじめまして、炉火井 多可恋です。」
縦ロールの髪を揺らしながらまだ幼い少女は自己紹介をした。兄とは違い、妹は綺麗な日本語を話す大和撫子の様である。縦ロールだけど。
「Oh!それよりTakako!!Great grand fatherは!?」
ロビィは妹に尋ねた。
「ひぃおじぃ様は腰が痛くて、寝ています」
「What!?いったい何のSicknessだい!?」
ロビィは妹の肩を揺さぶった。
「ぎっくり腰ですわ。にぃ様落ち着いて・・・」
「Oh・・・・!?」
ロビィは妹の言葉に拍子抜けして真っ白になってしまった。
「多可志ちゃん!?」
なが~~~~~~~い廊下の向こう側から声が聞こえた。
「Oh!Mother!!!」
ロビィは目を輝かせながらその女性の元に走って行った。が。
「何しとんじゃおんどりゃー!!!ひーじいちゃんが倒れた言うとんのに遅いやないかー!!」
まるで極○である。
「No!Mother!!近○Busは本数Fewなんだよ!!」
「問答無用やー!!」
ロビィの母と思われるその女性は、ロビィをきれいに投げ飛ばした。
「ぐ、Greatな燕返しだよ、Mother・・・・・ぐほっ」
ロビィは息絶えた。
「お、おかぁ様・・・・・」
ロビィ妹が震えながら見つめている。
「あらっ、私ったら!?まぁ、多可志ちゃん、どうしたの!?大丈夫!??!?いったい誰がこんな!??!?」
(あんたがやったんだよ、あんたが・・・)
一同ドン引きである。
奏海一行は和室に案内された。
「驚かせちゃってごめんなさいね~。私は多可志の母親、炉火井 多可枝です。いつも息子がお世話になっております~」
ロビィ母は平常時は優しそうな女性である。
「あら私ったらいけない、お茶も出さないで!ちょっと待っててね~」
そう行ってロビィ母は出て行ってしまった。
「おかぁ様はいつもは優しいんですけれど・・・おにぃ様にはちょっと厳しくって・・・」
ロビィ妹は母の豹変ぶりについて説明する。
その時遠くの方で声が聞こえた。
「こらぁ多可志ー!!いつまでこんなところで寝とんねんー!」
先ほど気絶したロビィを全員が忘れていた。このままではロビィが危ない!
4人は急いでロビィの元へと向かった。
「おかぁ様!落ち着いて!!」
ロビィ妹が一生懸命説得する。
「そうですよ、ロビィはもう限界ですよ!?」
秀は親友を庇う。
「あのっ!お母様!!!!私っ!!!比良山香っていいます!!!」
何を思ったか、今このタイミングで香はロビィ母に自己紹介を始めた。
(た、大変だわ!香がロビィのお母さんに殺されるかもしれないっ!!)
奏海の目には極道の女にしか見えないロビィ母はついさっき実の息子を瀕死にさせたばかりである。
「Oh!?Kaori!!Dangerだよ!?」
恋人の身の危険を察知してか、ロビィが目を覚ました。
そんなロビィの叫びも虚しく、ロビィ母は既に香を投げ飛ばす体勢に入っている。
「うらああああああああああああ」
炉火井家にロビィ母の叫びがこだまする。
「No~~~~~~~~~!!!Kao~~~ri~~~~!!!」
ロビィは香と母の間に割って入ったが、
「ステキ・・・!お母様!!!弟子にしてください!!!」
香はあろうことかロビィ母に弟子入りを志願した。
「あんさんホンマか??」
ロビィ母が香に尋ねる。
「はいっ、お母様・・・・いえ、師匠!!!!)
(わあああああああ、大変なことになっちゃったよー!?)
奏海は心の中で叫んだ。しかしその思いは誰にも届かない。それどころか・・・
「香ちゃん、君はなんてすばらしい人なんだ!奏ちゃんも弟子入りしなよ!!」
秀がとんでもない提案を持ち掛けた。
「よーし、ほんなら今からあんたら2人はウチの弟子や。覚悟しいやー!!!」
ロビィ母は何やら意気込んでいる。
「Oh~~~、Motherの弟子なんてHardだよー!!」
「何言ってんだロビィ。俺たちは応援するんだぞっ」
とんでもない展開に奏海はその場に崩れ落ちた・・・
「そんじゃぁ、これで廊下を掃除してね♪」
奏海と香はロビィ母に雑巾を渡された。
「あの・・・廊下って・・・ここですよね・・・?」
奏海は足もとを指差した。
炉火井家の廊下ははてしな~~~~く長いのである。
「Oh!?Corridorは100mあるんだよ!?」
そこを雑巾がけしろというのだ。
「アンタには言うてへんやろ、多可志ー(発音↑)!」
香は黙って廊下の先を見つめている。
「ねぇ、香、無理だって。やめようよぉ~・・・」
奏海はつぶやいた。しかし・・・
「やるわ」
「え??」
奏海が聞き返した時には既に遅かった。
「うぉりゃあああああああーーーーーーーーー!!!!!」
香は長い廊下をドタドタと雑巾がけした。
「ふむ。なかなかイキのええ子や!」
ロビィ母は“感心、感心”と頷きながら香を見ている。
「さぁ、奏ちゃんもLet's Go~!」
なぜか張り切る秀。
「あんた・・・ウチの言うことが聞けへんのか?弟子やのに??」
ロビィ母に目を付けられた奏海は反射的に受け身の姿勢をとったが、
「気に入った!!!!」
予想外の言葉が返って来た。
「え~~~~~~~~~~!?」
雑巾がけでとお~~~くの方へ行ってしまった香が慌てて戻ってきた。
「あんたを多可志のフィアンセにする!!!!」
「「「「え~~~~~~~~~~~~っ!?」」」」
「What!?Wha~~~t!??!?!?」
奏海はめまいを覚えた。自分がロビィのフィアンセ???え???ふぃあんせ????
「No!Mother!!MeにはSweetheartsがいるんだ!」
ロビィはたまらなくなって叫んだ。
「Meです!お母様!」
香もたまらなくなって叫んだ。
「あかん!香ちゃんはお手伝いさんとして雇わせてもらうわ!」
(ロビィ先輩のお嫁さん・・・!?)
奏海の脳裏にはロビィとの結婚式が思い浮かんでいた。
もう想像するだけで気絶寸前である。
「じょ、じょ、冗談やめてくださいよー!?(泣)」
奏海は叫んだ。倒れそうになるのを必死にこらえて叫んだ。
「冗談やないって~!多可志、この子はえぇ嫁になるでぇ!!」
一同、止まらないロビィ母を見て絶句している。
「ロビィMother!!!奏ちゃんは渡せない!!」
秀は1人立ち上がった。
「秀先輩・・・!」
「そうだよMother!!Cute girlはShuの・・・!」
秀に続いてロビィも反撃しようとした。しかしロビィ母はなかなか強敵だ。
「多可志ちゃん・・・・お母さんの言うこと・・・聞いてくれないの・・・?」
今度は泣き落としにかかるロビィ母である。
「No!?Momー!!!そんなことなっ・・・・・Oh!?Kao~ri!?」
ロビィは“そんなことない”と言いかけたが、香がすんごい勢いで睨んでいるのに気づいた。
「あのっ、私っ、宗教上の理由で両親が許してくれないと思いますっ!!」
もう半分泣きながら奏海はわけのわからないことを言った。
「大丈夫!ウチが説得してみせるわ!!」
(あぁ・・・・もうダメ・・・・!!)
奏海があきらめかけたその時である。
「Mom!MeはKaoriにLoveなんだよ!!!!」
ロビィは鬼気迫る顔で母に訴えかけた。
「Meは!!!Kaoriでないと!!!!OtherのGirlではNo!!!!」
「ロビィ・・・・!!!」
香とロビィは見つめあっている。
「多可志ちゃん・・・・あなたそこまで香ちゃんを・・・?」
「Yes!そうだよMom!!!だからMeはCute girlとは・・・・!」
「わかったわ、多可志ちゃん。お母さんが悪かったわ」
「Mom・・・!Thanks・・・・!!!!」
どうやら親子は和解した様である。同時に奏海の炉火井家嫁入り話も消滅した。
「わ、私はこのへんで・・・帰ろうっかなー・・・」
奏海はロビィ母の人格が再び豹変する前に帰りたかった。
「あ、じゃぁ俺も・・・・」
それは秀も同じだった様で、2人は一足先に炉火井家を後にした。