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 蓮見尋紀はすみひろきが目を覚ますと、白い壁と天井に囲まれていた。

(あれ?)

 記憶が途絶えていて繋がらない。数秒考え込んで、飛び起きた。

「まずいっ!」

 まだ幾分頭がふらつく感じがしたが、大丈夫だ。起き上がってそばに掛けてあった上着を着る。そこへ看護士がやってきた。

「あら? さっき運ばれてきたばかりなのに」

「僕はどうやって?」

「救急車ですよ」

「救急車?!」

 蓮見は頭を抱えたくなった。

(こんな大事なときに何やってるんだ、鷹裕先輩は?)

 またどんなに鷹裕に叱られるかと思いながら、病室を出る。看護士に向かって、

「すみません、急いでいるんであとで精算に来ますから」

 上着から名刺を取り出すと看護士に押しつけた。

「あ、あの」

「すみません、とにかくあとで……」

 そういうと走って病院を抜け出した。

 蓮見が鷹裕と初めて会ったのは、奨学金で入学した私立の名門校だった。全寮制の学校で周りは金持ちばかり。学校に馴染めず、虐められていた。そのときもタチの悪い高等部の先輩に目を付けられ裏庭に連れ込まれて、悪戯をされかかっていた。

 男子校で女の子の居ない、しかも全寮制。下級生に性的な悪戯をする人間は何人か居た。抵抗したところで痩せて非力な蓮見に勝ち目はないのだが、だからといっておとなしくなんかしていられない。そうやって揉めていたところに鷹裕たちが通りかかったのだ。

 人目を引く容姿。鷹裕は背が高く、年齢よりも早熟だった。高校生と言うよりは立派な大人に見える。中学生で幼い蓮見から見たら大人と子供くらいの差があった。

 頭脳明晰で家柄もいい鷹裕を学校で知らぬ人間は居ない。だが鷹裕の方も蓮見を知っているような気がした。ちらっと蓮見を見た目に、何か意味のある光があったのだ。蓮見の思い違いかも知れないが。

「助けて……」

 思わず蓮見は鷹裕に向かってそう言っていた。鷹裕は一瞬目を見張って、それから蓮見に絡んでいた先輩、鷹裕には後輩だが、それを追い払ってくれた。蓮見は脱がされかかった制服のズボンを引き上げながら

「ありがとうございます……」

 そう言ったのだが、すでに鷹裕たちの姿はなかった。その後、蓮見は怖いと思いながら高等部の中を何度かうろついた。鷹裕は三年生ですぐに卒業してしまうのがわかっていた。なんとしてもちゃんとお礼が言いたかった。

 ところが、姿を見つけて駆け寄ろうとしても避けられてしまう。なぜか意地になり蓮見も必死に鷹裕の姿を追い求めた。だがどうしても捕まえられない。蓮見は思いきって鷹裕の住む寮の中まで面会に行った。

 中等部と高等部の寮は分かれていて、さすがに訪ねるのは勇気がいったがどうしてもお礼が言いたい。見知らぬ先輩に鷹裕を呼び出して貰った。やってきた鷹裕は険しい顔をしている。

「あの……すみません。わざわざ呼び出してしまって」

「何の用だ」

 迷惑そうな鷹裕に萎縮しながらも蓮見は勇気を出して言った。

「先日は助けていただいて、あの……きちんとお礼も言えなくて。ありがとうございました」

 丁寧に頭を下げた蓮見に鷹裕はわずかに視線をそらした。蓮見は気づかない。

「それだけか」

「え?えぇ……」

「わかった。だからもう俺の前には現れないでくれ」

「え?」

「もしもどこかですれ違っても無視しろ。絶対に声も掛けるな。わかったな」

「ぁ、あの?」

「わかったな!」

 それだけ言い残すと鷹裕はさっさと自分の部屋に引き上げた。蓮見は取り残されながら自分のなにが鷹裕を怒らせたのだろうかと、その後もなんども考えたけれど答えはわからなかった。

 それから十年あまり。真城鷹裕と言う人間に憧れながら、蓮見と鷹裕に接点はなかった。あのとき鷹裕に言われたとおり、その後蓮見は鷹裕に声を掛けることはなかった。偶然出会ったときは蓮見の方が隠れるようにして過ごした。

 それも鷹裕が卒業していく二ヶ月あまりの間だけだった。あの事件の三ヶ月後には鷹裕は卒業して、アメリカへ留学したと聞いた。蓮見と鷹裕の接点は何もなくなったのだ。

 だが蓮見が鷹裕と再び出会うきっかけが起きた。入社試験に合格して配属された先で蓮見は大抜擢を受けた。M'sコーポレーションで現在進行している大型の新規プロジェクト。その責任者の秘書だった。

 もともと蓮見が大学で勉強していたのはバイオ工学で遺伝子が専門だ。この会社の研究部門で働いていたのに、なぜ秘書なのか。とてもじゃないが畑違いが過ぎて遠慮しようとしていた矢先に、その責任マネージャーの名前を聞いた。

 真城鷹裕。

(鷹裕先輩……)

 憧れていた。あのときからずっと憧れ続けた人の名前だった。もちろん蓮見はM'sコーポレーションが真城コンツェルンの系列だと知っていた。だが鷹裕がこの会社にいることは知らなかった。

(鷹裕先輩、日本へ戻ってきていたんだ)

 あのとき鷹裕から二度と目の前に現れるなと言われ、無意識に鷹裕のことはその情報も含めてすべて避けていた。けれど忘れていたわけではない。むしろ心の中では強く印象に残り、忘れられないで居た。その鷹裕の秘書。

(でも……)

 蓮見は総務へ問い合わせた。このことを鷹裕は知っているのかと。すると会社からの答えは、真城マネージャーからの指名ですと言われたのだ。あの鷹裕がなぜ自分のことを?そう思ったけれど、もしかしたら忘れているのかも知れないし、反対に昔のことを懐かしく思ってくれたのかも知れない。

 それを聞いて蓮見の考えが変わった。全然違う仕事場で苦労するかも知れないが、鷹裕のために働いてみたい。あの学生時代でも圧倒的なカリスマ性があった真城鷹裕の元で。そんな思いになり人事にイエスの返事をした。


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