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 新しい朝だった。まぶしい光がカーテンの隙間から漏れている。嵐のような昨日の出来事を、まるで憑きものが落ちたように蓮見は感じていた。

 やめて─────

 僕は汚いからっ─────

 そう叫ぶ蓮見の言葉を聞かずに鷹裕は一晩中蓮見を求めた。汚くない、汚くないから。そう言って。最後に愛してると言ってくれた。

 愛してる─────

 どういうことなのか。すべてに混乱したなかでその言葉がぐるぐる回っていた。止めて、汚れた自分を許して欲しい─────そう思った。

 大丈夫、大丈夫。愛してるから、もう離さない。あの言葉は?あれはどういう意味なのか。

 明るい日差しを見つめて空っぽになった頭で考えてもわからなかった。隣で鷹裕が寝息を立てていた。うつぶせて乱れた髪がいつも落ちついて冷静な印象の鷹裕を若く年相応に見せていた。

 そう言えば。昨日の鷹裕はまるで別人だった。あれは誰だったのだろう。優しかった。許す─────って。では自分は許されたのか。鷹裕を不幸にしたことを。義父に汚され続けたことを。鷹裕は許すと言ってくれたのか。

 何もかもが夢のようで信じられない。義父に蹂躙されることとは違う、大事に優しくされた行為。同じもので全然違うもの。鷹裕には何度も謝られた。

 なぜ……なぜ鷹裕が謝るのか、なぜあんなに辛そうな顔をするのか。不思議だったけれど、それがもしも、自分のせいなら許せないと蓮見は思った。自分は幸せになってはいけないような気がする。

 蓮見はするりとベッドを降りた。鷹裕が蓮見のアパートから運んでくれた服を羽織って、寝室を出るとそのまま玄関を出た。

 広い廊下は他にドアも見あたらない。エレベーターで下りる。ドアが開くと広々としたホテルのロビーのような場所だった。

 正面にカウンターがあり、その奥で人の気配がする。本当にホテルのようだと思わず見回してしまった。出口はどこなのだろう。大きなガラスの仕切りが右手に見える。

扉らしきものが見えたのでそちらに向かって歩を進めたとき、カウンターの奥から声がして人が現れた。

「蓮見さま……ですよね。真城さまの所の……」

 その人にいきなり名を呼ばれてビクッとした。

「なぜ……」

 なぜ自分の名を知っているのか。茶色い髪の長身の男だった。まだ若い……とは言っても自分よりも年は上だろう。ギャルソンのような服を着ている。ただし、まだ身支度の途中なのか、着崩していると言うよりはまだきちんと身につけていないといった感じだった。タイも中途半端になっている。

「俺は納得しないからな、ゼッテーにっ!」

 そのときもうひとり奥から現れた。

「あれ?あんた?!」

「君は……」

 鷹裕の部屋で目覚めたときに付いていてくれた少年だった。相変わらず渋谷かどこかにいそうな軽いファッションとカウンターの中に立つ姿が不釣り合いだった。どういう関係なのか未だよくわからないまま立ちつくしていると、少年の方が蓮見の方へ駆け寄ってきた。確か名は千冬と言った。

「もう大丈夫なのかよ」

 派手な姿とは別に心配そうに覗き込む姿は可愛らしかった。よく見れば、色が白いと言われる蓮見よりも更に色は白く、病み上がりの蓮見よりもさらに痩せている。

「君こそ……」

 大丈夫なのか?と続けようとして、その先を遮られた。

「蓮見さま、真城さまに外出の許可は取られたのですか?」

 最初にフロントから出てきた男がすぐ側に立っていた。もうすでにきちんと服装が整っている。

「許可?」

 疑問に思って逆に問いかけると、

「真城様から蓮見様をひとりで外へ出さないように言いつかっています。真城様からお聞きではありませんか?」

「いいえ……」

 どういうことだろうと首をかしげていると、

「尋紀っ─────」

 エレベーターの扉が開いて鷹裕が血相を変えて飛び出してきた。今起きた、と言う格好の髪も乱れたまま、まさにベッドから飛び出してきたという様子だった。

「鷹裕さん……」

 その様子に蓮見の方が唖然とすると、目の前の千冬も「スゲー格好……」と呟いたまま大口を開けて見ていた。





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