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小説家の夢  作者: いう
1/1

小説家の夢1

教室のカーテンから光が漏れている

教卓の上では教師が数式を黒板に書き写している所だった。

シンとした教室、響き渡るのはシャーペンの先がノートをこする音とチョークの弾ける音だけだった。


いちばん後ろの席で忠邦はボーッと教室の端に据えられた時計を眺めていた。

ノロノロと動く秒針が眠気を誘うだけだった。

忠邦はノートに目をおとす。彼のノートに数式は書かれていない。


「ある少年のノート、彼の構想する小説の設定」

・主人公・・・・一郎(小説家を目指す。やんちゃな少年。高校生。)

・脇役・・・・・優、秀一、朱莉

・全体的ストーリー構成

 一郎の書く小説の出来事が実際に起こり始める。

 混乱しながらも仲間と協力、真実にたどり着く??

 

「おい、忠邦、この問題解いてみろ」

急いでノートから顔を上げる。教師、生徒の視線が一斉に忠邦に集まっていた。

しまった。集中しすぎて聞いてなかった。

嫌な汗が流れる。

「アッ!アノッすいません・・・聞いてませんでした」

なんとか声を搾り出す。変な声が出てしまった。

「そうか、もういい、次、大沢この問題頼む。」

教師がため息混じりに言った。

一息ついてから忠邦は同じく教室のいちばんうしろの席に座っている秀一に目を向けた。

意地の悪い笑みを浮かべている。

嫌な奴だ。


授業が終わると秀一がかけ寄ってきた。

「どう?どんな感じ?どれぐらい書いた?」

早口にそう言うとノートを覗き込んできた。

「まだ構想の段階だよ。登場人物とかの設定とか。」

「おっ!ちゃんと俺を登場人物として出してくれてんじゃん。

 大活躍させてくれよ」

秀一は嬉しそうに言った。


忠邦と秀一が仲良くなったきっかけ、それは小説だった。

忠邦は幼い時から小説家に憧れ、自分で小説を書くようになった。

それこそ家にいるとき、学校にいるとき、いつでも考えることは小説のこと。

机に原稿用紙を広げ一心不乱に文字を綴る忠邦を同級生が「変な奴」に認定するのは早かった。

冷たい目で見られた。いじめの標的にもなった。だが気にせず小説を書く。とにかく書く。

自分から小説を取ったら何も残らないような気さえした。それでもいいと思った。

小説の世界では全てが自分の思いどうりに動く。それがたまらなく痛快だった。


忠邦は完全にクラスから孤立した。そんな中秀一が転校してきた。

秀一は忠邦とは正反対の性格であったものの、小説好き、というところは同じだった。

ある日クラスで独り黙々と小説を書いている忠邦に秀一は気まぐれに話しかけた。

「お前、何書いてんの?」

しばらく間をおいて忠邦は答えた

「小説」

「ちょっと読ませて。」

いやいや忠邦は原稿用紙を渡した。秀一はしばらく読みすすめてから忠邦に言った。

「お前、才能あるよ。」

それからというもの、忠邦が小説を書き、秀一が読み、時にはダメだし、時にはアドバイスをするのが二人の日課になった。


「ふ~ん今回はミステリーと推理ものを混ぜた感じ?」

ノートを読み終えた秀一が言う。

「そう。夢想小説みたいだけど最終的には全て現実、身近な人が事件を起こしていた、って感じかな」

「なるほどねェ・・・こうゆう小説書くと頭がおかしくなるって言うから気をつけろよ」

そう言い残すと忠邦は教室を出て行った。

忠邦はノートに書き加えた。


・主人公・・・・一郎(小説家を目指す。やんちゃな少年。高校生。)

・脇役・・・・・優、秀一(かませ犬で死亡?)、朱莉

・全体的ストーリー構成

 忠一の書く小説の出来事が実際に起こり始める。

 混乱しながらも仲間と協力、真実にたどり着く


これで良し。忠邦は独り笑いを堪えた


忠邦は家に帰ると荷物を玄関に投げ捨て階段を駆け上った。

今回はいい小説が書けそうな気がする。

机に座るとパソコンを起動する。彼の愛機だ。これがあればちまちま文字を原稿用紙に書かなくても

スムーズに小説を書ける。

短い起動音のあとパソコンが息を吹き返した。

ワードをクリックする。忠邦は深く想像をふくらませた。

題名は・・・そう「小説という悪魔」にしよう。

キーボードを叩く。



「小説という悪魔」

作 只野忠邦


chapter1,born the evil


小説は良い。自分の頭の中をさらけ出せる。他人にむき出しにできる。

一郎はこれまで何個も小説を書いた。サスペンス、ホラー、恋愛、SF、とにかくなんでも書いた。

自分の想像が活字でこの世に残る。こんなに素晴らしいことはない。

賞にも何度も応募した。しかしそれらしい賞を受賞することはできなかった。

それが一郎の唯一の悩みであった。


「オオイ!一郎!待て!」

後ろから呼ばれて一郎は振り返った

教室の廊下を優が走って来ていた

「今日どうする?俺たちまた行こうと思ってんだけど」

息も切れ切れに優が言った。

「また行くのかよ。今度はバレるぞ。二回連続で万引きはまずいって」

一郎が言うと優ががっかりしたような顔をする。

「いつからそんな弱虫になったんだよ!お前の小説朱莉に見せるぞ」

朱莉は同じクラスの女子だ。一郎が密かに好意を寄せていた。

どこでそんなこと知ったんだろう?

「バカ、やめろって、分かったよ。行くなら秀一も連れて行こうぜ」

「分かった。今日の五時いつもの場所で集合な」

そんなこんなでまた集団万引きに参加することのなってしまった。

授業開始のベルが鳴った。


雨だった。その日もいつもどうり「ブツ」を盗んで優の家で宴をあげるはずだった。

しかしその日は違った。優がビールを懐に入れようとしたその時、

「君、盗ったよね。」

四十歳ぐらいのおじさんが近くに走ってきて言ったのだった。

ずっと棚の影から見張ってたのだろう。変装した店員かもしれない。

「逃げるぞ!」一郎の隣にいた秀一が言った。

優の腕をつかみ秀一が走り出す。一郎も慌てて走る。

一斉に店から駆け出した。


三人はそれぞれ別の方向に逃げ出した。こうゆう時のためにどこにどのように逃げるか、

脱走経路は決められている。一郎は独り曲がり角を曲がった。このまま橋まで走る。

そして橋の下に隠れて二人に連絡を待つ。それが一郎の役割だ。

雨が服を濡らす。下着を濡らす。肌を濡らす。

走る。走る。走る。

橋の下に着くと一郎は雨水を吸って重くなった上着を投げ捨てた。

二人は無事だろうか・・・

まさか捕まってないよな・・・

携帯が鳴った。優たちだ。


「大丈夫か!?」

返事がない。

「おい!」

「大丈夫・・・」

優の苦しそうな声が聞こえた。

「これからどうする?」

「とりあえず今日は各自の家に帰ろう。今日のことは誰にも言うなよ」

分かった。一郎は答え携帯を切った。

まさかこんなことになるとは・・・

ふと顔を上げて橋の下を眺めた。



時間が止まった



向こう岸に誰かいる。それを俺は知っていた。

黒いフード付きコート・・・・・・フードからから流れ出る長い髪の毛・・・見えない顔・・・

こっちを見ていた。身動きせず、まるで置物のようにこっちを見据えていた。

典型的悪役、殺人鬼だ。何も知らない人が見たら笑うかもしれない。

でも俺は笑えない・・・

知っている・・・・こいつの事を・・・俺が作り出したから・・・

嘘だ。自分の書いた小説の登場人物が目の前にいる。嬉しいくはない。

怖い。こいつの恐ろしさは誰よりも知っている。


気がつくとまた走っていた。逃げる。逃げる。

さっき走ったばかりなのに自然と足に力が入った。

家に着いて後ろを向くとそこには誰もいなかった。

雨が降っていた。



キーボードから手を離し、時計を見る

もう六時を過ぎている。忠邦は椅子から立ち上がる。

そろそろ夕食の時間だ。窓を見ると雨が降っていた。



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