第八話 『リアル箱庭』
リアル箱庭セット
それがその商品の名前だった。場所は学校のすぐ近くの裏路地、状況は帰宅途中、値段は15600円なり。
勿論僕がその商品を買う必要はどこにも無い。
だけど僕は少なからずこの商品を欲しいと言う気持ちがあった。
だが、この頃の僕は小学校5年生だったからそもそも『箱庭』と言うのがどうもしっくりこなかった。
しかし僕はこの商品に魅入っていた。あるいは魅入られていた、その日から僕は帰り道を変えてこの店に来ることにしていた。
店の店主は着物を着た若い女。だけどいつも僕に気が付いているのか気が付いていないのか解らないほど上の空だった。
そんな日が10日ほど続いた、ある日。
「君はいつもこの商品を見に来ている。それはなぜ???」
「……欲しいから……かな???」
「この商品を欲しい??? 確かに君はそう思っているの???」
「……はい」
僕とその女の人が始めて言葉を交わした。
すると相手はニッコリと笑って立ち上がり、リアル箱庭セットの箱を僕に差し出してきた。
僕は相当驚いた顔をしたと思う、勿論僕がお金を払ったわけじゃない。そもそもそんなお金を小学生が持っているはずが無いのに。
僕はリアル箱庭セットを受け取る。ずっしりとして当時の僕には少し重たかったことを覚えている。
「何で……???」
「この商品はね。お金じゃ買えないの、例え私は一億と言う大金を貰ってもこれを渡すことは出来ない。
この商品はね、本当に欲しい。とても欲しいって人にしかあげられないの。
だからこれは君の物。他の誰のものでもない」
それが僕と彼女が交わした最初で最後の言葉。
■
僕は家に帰ってきて、真っ先にリアル箱庭セットの中身を開けた。
中身から大きなガラス製の半円で直径が1m位の物体が出てくる。外側の形は野球盤みたいな感じだと思ってくれたらいい。
そしてその中身には何も入っていなかった。これが野球盤なら少なくとも人形の野球選手が入っているのだが……。
リアル箱庭セットの外側の出っ張った部分『OPEM』と言うボタンと『CLOSE』と言うボタンの二つがあった。さすがにこれくらいの英語は読める。
僕はもう一度、リアル箱庭セットが入っていた箱の中身を確かめると付属品らしい物を入れた箱が二つ出てきた。
真っ白の箱の一方には『創造』そしてもう一つには『破壊』とシールが貼ってある。
取り合えず取り扱い説明書を読むことにした。
「えーっと……」
『リアル箱庭セット
この玩具はあなた自身が“神”になって箱庭の中に自分だけの世界を作ります!!!
付属品の創造の箱には様々な動物のフィギュアや植物の種が入っています。
さあ貴方も自分だけの世界を作ろう!!!
※注意※
リセット、セーブ機能はございません。
もしやり直す場合は『破壊』の箱をお開けください』
何だか良くわからないが面白そうだ。僕は取り合えず『創造』の箱を開けてみる。
中には小さな植物の種やいろいろな動物の小さなフィギュアが出てきた。なるほど、これで僕の世界を作っていくのか。
僕は『OPEN』のボタンを押すとワールドの中に付属品の植物の種を蒔いた。次に動物を置こうかと思ったがふと思う。
さすがにまだ動物は早すぎる、まず環境を作らなければ。
「ごはんよーー」
「今行くよー」
僕は『CLOSE』を押した。
▲
「ふー、お腹いっぱいだー。ワールドはどうなってるかな……っ!!!」
僕が夕食から戻ってきて部屋の中心に置いてあったワールドの異変に気が付いたのはすぐだった。
確か僕はついさっき植物の種をこのワールドに入れたのを思い出した。勿論本物の種ではなくプラスチック製だ。
ワールドの中には大自然が広がっていた。
「これが……僕が作る世界……アハハハハ……アハハハハハハハハハ!!!!」
なぜだろう。なぜこんなに楽しいんだろう。
心地よい、気分がいい、愉快。もう全てだ!!! これが神になるという事なのか!!!
僕は考える。動物に必要な物は何か??? 洗面所から水をコップ一杯すくってきてそれをワールドの中の一部に流し込む。
するとその部分には水溜りが広がって、やがてそれは湖へと変わっていく。
「さあこれで準備は整った!!!」
僕はワールドの中に動物のフィギュアを入れていく。
ゾウ、キリン、ライオン、シマウマ、トリ、ムシ、サル、サカナ
気が付けば日付が変わっていた。なるほど……何だかとても眠たい。
しかし神はそんな事は言ってられない。洗面所に行って顔を洗い、自分の部屋に戻ってきた。
そこにはサバンナ如く、動物達が繁栄していた。
独自で繁殖し、進化を経て、様々な種類へと派生していた動物達のフィギュアが並んでいる。
僕は初めてこの世界が素晴らしいと思えた。これが世界なのかと初めて実感できた。
そんな事を考えながら僕は睡魔を感じ、その場で寝てしまった。
・
・
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朝。目が覚めるとシマウマの群れを囲い込むように6頭のライオンが“狩り”をしていた。
うーん。弱肉強食。
取り合えず僕は学校に行く用意をしながらふと見た。いや見てしまった。
人 間 が 居 る 。
●
なぜここに人間が居る。
僕は考える。……サルから進化したのか……。
人間達は鋭利な槍のような物を構えて1頭のライオンを10人で囲みこんでいた。
僕は何だかとても腹立たしく思った。自分の世界を壊されていると、そう感じ取った。
「 平 和 を 壊 す 者 は ・ ・ ・ 死 ね ば い い ! ! ! 」
僕は怖い声で吐き捨てる。
しかし、僕が直接出来ることは無い。フィギュアを取ればいいと思ったのだが実は盤上のフィギュアは取れなくなっている。
僕は『神』であるが傍観者だ。大丈夫、奴らは必ず滅びる。
悪は昔から死ぬと決まっている。
そう自分を納得させてから学校に行った。
・
・
・
学校から帰ってきた僕は自分の部屋に走った。
人間達は死んだ後、どうするのか??? これ以上無駄な生物は生まれてこなかったか???
僕は勢い良くドアを開けて部屋の中心を見る。
「 な ん だ よ ・ ・ ・ こ れ ・ ・ ・ 」
そこに広がっていたのは高層ビル、そして地面は整えられたセメントの道路、電車の路線。
人間のフィギュア。人間のフィギュア。人間のフィギュア。人間のフィギュア。人間のフィギュア。
人間のフィギュア。人間のフィギュア。人間のフィギュア。人間のフィギュア。人間のフィギュア。
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人間のフィギュア。人間のフィギュア。人間のフィギュア。人間のフィギュア。人間のフィギュア。
僕は部屋の入り口に立ち尽くした。
一体なぜ……???
「 違 う 。 こ れ は 僕 の 世 界 じ ゃ な い っ ! ! ! ! 」
◆
これが世界。これが今の世界。
人間の文明が発達し、全てが人間のために回っていく世界。
今朝広がっていた大自然は灰色の地面に変わり果て、動物はほとんど絶滅。
唯一残された動物達は動物園で人間達の笑い者になっている。ふざけるな、貴様らは『神』になったつもりか。
神は僕だ!!! お前らはそうやって世界を壊すつもりなのか!!!
湖は長い年月で海へと変わっていてそこに船が幾つ物が浮かんでいる。
そこで僕は初めて気が付いた。
「 も う こ の 世 界 は 駄 目 だ 。
せ め て こ い つ ら を 殺 さ な い と 」
僕は『破壊』のシールが貼られている箱を開ける。
そこからいくつものドラム缶のフィギュアが転がってくる。
これが世界を直す力。これがリセットボタン。これが……。
ドラム缶に何か書いてある。
「なぱーむ???」
僕は『OPEN』のボタンを押して、人間共の世界にそのドラム缶を投げ入れる。
箱の中身が無くなるまでナパームを全て投入する。僕が神だ、だからどうするかは僕が決める。
壊すんだ。こんな腐った世界なんて!!!
「壊れろおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!!!!!!!!!」
・
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・
『臨時ニュースです!!!!
先ほど日本の東京が滅びました!!!
詳しいことは解っていませんがテロリスト集団の犯行であると思われます!!!
900~1,300度で燃焼し、広範囲を破壊された事により東京を破壊したのは『ナパーム』の可能性が極めて高いとされています。
政府は非常事態宣言を発令し、まだ仕掛けられている地域が無いか、全力で探して居るとの事です。
繰り返します』