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歪に素敵な短編集  作者: 啓鈴
歪な愚形の果実共
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第六話 『???』




 疲れた。この世界に疲れた。






 男は今日もそんなことを言いながら仕事から家に向かって歩いていた。


 そんな事より彼は疲れていたのだ。どうしようも無く堕落し、壊れて、欠陥がある世界。


 別に何か失敗したとか絶望したとかそんな小さな理由ではない。


 それはもう地球規模で表す位の大きな問題だった。


 ふと歩きながら彼はこう考える。














『死ぬ』とは何なのだろうか???














 心臓が止まる事??? 生きていない事??? 生体反応が消える事???











 どれも正解。どれも『死ぬ』事、だけどどれも違う気がする。


『死ぬ』とはもっと違う何かの気がする。


 例えば――電池が切れたような。その程度の事。


 そんな事を思考しながら彼はあることに気がついた。


 ここは毎日通る商店街なのだが今朝見た時にはあのような店は無かった。













 店の看板には『Answer Shop』














 何かに引き寄せられるように男はその店に入っていった。
















 ・














 ・














 ・















 店の中は古びれた様子で棚に穴が開いていたり、地面に亀裂が入っていたり、とにかく壊れかけていた。


 棚の商品は全て白い箱に詰められている様子で何なのか解らない。


 すると店の奥から一人のお爺さんが出てきた。











 いらっしゃいまし、何の『答え』をお探しですか???

















 ■
















 答え???




 その通りでございます。ここには全ての『回答』を販売しております。




 面白い。じゃあ何か売ってもらうとしよう。









 面白い。私は単純にそう思った。


 ただただ愉快だという感情が湧き上がってきた。


 俺の望んでいる回答なら何百と何千といや何億とある。まず手始めに……。











『死ぬ』とは何なのだ???







 ……料金は2000円です。

 貴方の真後ろの箱を開けて御覧なさい。








 男は店の店主に2000円を渡すと真後ろにある箱を探した。


 一つの箱には『悲しみ』一つの箱には『笑う』一つの箱には『絶望』そして最後の箱には『死ぬ』


 男は『死ぬ』箱を開いた。


 中には黒い塊。ずっしりと重いその塊を手に取る。



















 拳銃だった。


















 男はその拳銃を握り締めて振り返って商店街を歩いていた女性に照準を定める。


















 ばぁん!!!!

















 鮮血。女は何の前触れも無く、何の抵抗も無く、何の意思も無く、その場に倒れこんだ。


 男はその女に歩み寄って見る。そのとき、何か感じる物があった。













 これが『死』なのか。













 その通りでございます。



 死ぬ事に絶対に必要な物は『生きる事』です。



 生があって死がある。死があるから生がある。



『生きていることこそ死』なのです。









 俺は思った。


 つまり俺はこの女を死なした訳じゃないのだと。


 この女はずっと死んでいたんだと。












 単純にこの女の電池が切れてしまったのだと。











 そこで男は疑問に思った。











 店主。『生きる』とは何なのだ???


















 ・
















 ・
















 ・

















 男はありとあらゆる答えを求めた。


 希望とは何か??? 絶望とは何か??? 失敗とは何か???


 気がつけば店の中の商品は残りが少なかった。


 そして男は気がつく。










 あの奥のショーケースの箱には何が入っているんだ???









 ああ、あれには『世界』が入っております。



















 ■

















『世界』……???








 その通りでございます。あの箱には『世界の答え』が入っております。








 これが男が待ち望んだ答えだった。


 この堕落し、壊れて、欠陥だらけのこの世界の答え。


 そして男自身がこの世界をどうしたいのか――救いたいのか??? 壊したいのか??? 支配したいのか???


 男はその箱に歩み寄る。


 値札には100万と書かれていた。


 男は財布を漁る。出てきたのは12円だった。









 店主!!! この商品は俺が買う!!! 今すぐ家に帰って金を持ってくるから!!








 お買い上げありがとうございます。










 男はAnswer Shopを飛び出して自分の家を目指した。


 気がつけばもう朝になっていて商店街は警官達でいっぱいだった。


 とにかく走った。あの箱の中身を見たい!!! 俺は世界をどうしたいのか、その答えを知りたい。


 だが男が商店街に戻って来た時にはもうそこにAnswer Shop は存在しなかった。


 男はその日からあの店を何年も探し続ける事になる。



















 ・
















 ・















 ・
















 あれから16年が経った。そして男はついに店を発見した。


 場所はロサンゼルス、本当にこの16年はいろんなところを行ったり来たり。


 金が無くなる度に『  補  充   』した。


 男は店に入る。
















 いらっしゃいまし…………おや、貴方は……













 16年前に世界の箱を買った者だ!!! さあ早くあれをよこせ!!














 荒々しくそう言うと札束を投げるようにして店主に投げつけてショーケースを叩き割って世界の箱を手に取った。


 これをずっと望んでいたのだ。この答えをずっと待ち望んでいたのだ。


 男は箱の中身を開けた。













 これが……世界……???














 世界の箱の中身であった地球儀は動いていた。


 ドクン、ドクンと脈を持っている心臓のように動いていた。


 そして箱の奥には鋭利な刃物が入っていた。













 俺は……世界を壊したいのか……フフフ!!!










 …………さあ貴方の答えはそのナイフです。











 男はナイフをつかんだ。






















 ▲



















 男はナイフを掴んでその刃を高く振り上げる。


 心臓のように脈打つ地球儀目掛けて――振り下ろした。






















 ぐしゃあああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ!!!!




















 男の腹部から大量の血が噴き出した。


 そのまま力を失ったようにその場に倒れこんでしまった。


 店主は地球儀からナイフを引き抜いて男の体に向かって言う。













 貴方は世界を救いたいわけでも壊したいわけでも無い。



 飽きていたんでしょうこの世界に???



 貴方の答えはこの『世界から消える事』



 この世界の外側、何も無い世界へと逝く事。



 それが貴方の『答え』


















 店の扉が開いた。



















 い ら っ し ゃ い ま し ・ ・ ・ ・ お や 貴 方 は ・ ・ ・ ・ 




















 8 年 前 に 世 界 の 箱 を 買 っ た 者 だ ! ! ! 
















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