第Ⅹ話 『 』
僕はネット小説にはまっていた。
もともと本が好きだったのもあり、何しろ自分自身が好きなように物語を作る事が出来るからだ。
それは冒険でもいい、ファンタジーでもいい、学園モノも面白い、推理小説も凄い。
僕は初め学園モノを作った。
転入生が来て~と言う誰でも思いつくような小説。
初めは自分の世界が一つの物語になる感覚が凄く嬉しかった。
しかし段々とつまらなくなってきた、毎日学校に登校して、仲間と遊び、所々に学園祭や体育祭などの行事を入れはしたがつまらなかった。
薄っぺらかった??? いや、何か違う。
そう、言うなればそこに僕らしさが無かった。
僕と言う個性がその小説には全く無かったのだ。
自分の満足の行く小説が作れなくなっていたある日。
取りあえず誰かの意見を聞いてみよう。
そこで現代文の先生に面白い文学とはどういう物か聞いてみることにした。
「先生。面白い文学作品ってどういう物なんですか???」
「そうだな、名作は“作者らしさ”と言うのが評価されて名作と呼ばれている。
“作者らしさ”と言うのは簡単に言えば個性だな。もっと言えば癖と言ってもいい」
「そうですか。解りました。さようなら」
別に僕は名作を書きたいわけではないのだが、どうやら物語には作者らしさが必要らしかった。
僕の個性とは一体何なんだろう???
取りあえず僕は家に帰ってパソコンを付けて僕の物語を見る。
……つまらない。確かにこれに僕の個性とやらは見つけられなかった。
ただ単純にキャラクターが生活しているだけの薄っぺらい物語。
僕の個性というのを見つけないといけない。
「あ」
そこで僕は気がついた。
――僕の個性ではなく、登場人物の個性を強くしてみよう。
よく見てみればどれもこれも似たり寄ったりだった。
登場人物の個性と言ってもある程度、こいつはバカキャラ、こいつは無口キャラとある程度イメージは決めていた。
取りあえず少し変えてみる。
「内気でビビリキャラを……番長キャラにしてみよう」
彼は学校に釘バットを持ってくる。ヤンキーになった。
うーん……と言ってもまだありきたりじゃないか???
もっと強烈な個性が欲しい。
誰もがこのキャラは面白い!!! と思うくらいの。
「……そうだ!!!自殺志願者にしてみよう」
彼は授業中にハサミを見たらニヤニヤしてしまう自殺志願者になった。
おお!!! ちょっと個性が出てきたかもしれない!!!
僕は久しぶりに小説を書いて達成感を感じていた。
■
数時間後、僕の小説は個性に満ち溢れていた。
人間は本来液体であり、人間と言う服を着ていると信じきっている少年。
多重人格者の狂人。
人生を売った男。
死を知りたがる小学一年生。
誰もいない世界のバイオリニスト。
僕の小説は個性に満ち溢れていた――そして狂気に満ち溢れていた。
「ミンナノハンノウガミタイナ」
『コメント一件』
くりっく
名前:四川
キャラクターの個性が強すぎてきもちわるい。
名前:妖怪だし
駄作。つまらない。
名前:タイダン
気味が悪い。キミが悪い。
・
・
・
今日も教授の部屋に来ていた。個性は強くしたのに今いち反応がよくない。
やはり小説を書く上で他人の評価は気にしてしまう物だ。
これは小説に限ったことではない。
人間である以上、誰かの評価なくして自己を確立する事は不可能なのだ。
勿論、アンチと言う存在は認める。
だから彼らにも認められるようにこうして教授の意見を聞きに来たのだ。
「うーん……これは随分気持ち悪い作品に仕上がってるね……」
「どうしたら良くなるかご意見をお聞かせください」
「まあでも前よりはよくなった。内容も悪くないし、何より訴えかける物を感じるよ。
だけどそこに問題がある。話が飛躍しすぎているのさ。
内容を見ても“死んだらいい”だとか随分と論理的なことを言い過ぎて相手に考えを押し付けすぎてしまっている。
別にそれ自体は悪いことじゃないさ。自分の意見を言う事は非常にいいことだよ。
だけどやっぱり内容が気味が悪い。もう少し見れた内容にした方がいいよ」
なるほど、どうやら今度は内容がまずかったらしい。
確かに僕はキャラクターは変えたのだが、小説の内容までは変えはしなかったのだから。
家に帰ってすぐに修正しよう。
あ れ ? ? ?
僕 一 体 ど ん な 内 容 の 小 説 書 い た っ け ? ? ?
▲
僕は家に帰って内容を見てみる。
なるほどなるほど確かにこれは気味が悪いしおぞましい。
主観ではなく第三者の目線でこの物語は構成されている物語の小説ではなく短編集。
しかしどことなく違和感を覚える内容。
ただただ見れば一方的に作者が読者に向けて思想や理想を語りかける哲学めいた小説だから当たり前かもしれないが。
だがこの違和感はそんなことではない。それが解らない……“故の違和感”
僕はその違和感を感じつつも指をキーに添える。
「サアツギハドンナモノガタリヲツクロウ」
僕はキーを叩く。
まるでピアノの演奏者のように、その様はステージの上のピアニスト。
音色は文字となり、観客者を引きつけるように。
そこに僕の意思はなく意味もない。
ただ並べられた、羅列されたキーボードを意味もなくたたきまくる少年を演じる。
永遠と……永遠と。。。僕の世界を作る。
狂 う
ふと、耳元で懐かしい声がした。
『ミミミミミミミミミミミミミミミミミミミミミミミミミミ』
「結局はダね、君はヤマアラシなんだヨ」
「ダかラネ」
ふと、背後で気配を感じる。
ゆっくりと首を後ろに回してみれば、世にも恐ろしい形相の彼女、“りるら”
その時の僕はどんな表情をしていたのだろう。
にっこりと笑う彼女を前にして、僕に一歩ずつ歩み寄ってくる彼女は。
「久しぶりだね、ヤッくん」
「な……で、ここ……」
「うん、不思議そうな顔をしているね。
不死烏は元気??? コルヴォをどこへやったの???」
「シ、らな……」
「そっか、その中にいるんだね???」
「 私 から逃 ゲラ れ る とデ も 思 っ た ? ? ? 」
パリン
ウケカカケカウキ
今日は悪寒がしたんだよ、まるでこの世の全ての不幸を僕が背負っているかのように。
朦朧とする意識の中でふと目を開けて見ると、ぼろぼろと涙を流しながら手を真っ赤に染めているりるらがいた。
うん、これはきっと僕の血かな??? 少し頭が痛いシ、今日はもう寝ヨウかな。
頭が少しダけぬるぬるシていルからシャワーを浴びた方ガ良いかもしれな イ。
あァ、でも、面倒くさィなァ。
そうして僕は、深く落ち行く世界の中で意識を手放した。