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歪に素敵な短編集  作者: 啓鈴
気狂わされプログレッシブ
24/46

第弐.伍話 『呪いスカイブルー』












 時間は放課後。世界が血のような赤に彩られる。


 僕は部活には所属していないので問題さえなければすぐに家に帰る。


 家に帰ってもする事は無いのだがこのまま学校に居れば、りるらとかコルヴォに会ってしまいそうで嫌なのだ。


 僕は鞄を持って廊下に出る。それは丁度、その時に感じた。
















「……うへ……」

















 背後から、強烈な視線を感じる。まるで背中が焼けるように熱く感じる。


 視線……いや……これはもっと強い感情。深く濃い――殺意だ。


 頭痛は無い、とすると実際に感じている物になる。僕は自然と足が速くなった。


 そして廊下を曲がって階段を降りようかとした――瞬間だった。
















「うわ!!!」















 僕はバランスを崩して前のめりになった。まるで足元を滑らせたかのように――落下。


 世界がスローモーションで再生される、その間に思考や雑念は全て失せる――消失。


 段々地面が近づいてくる、咄嗟に眼を閉じる――反射。


















 ・

















 ・



















 ・



















「ん……」















 僕が眼を開くと冷たい階段の踊り場に寝転がっていた。


 頭が痛い。


 また異常体質かと思ったが内面が痛いのではなく外面が痛いので単純に外から衝撃を受けたのだろう。


 何でこういう状況なんだろうと思ったのだがそれより先に僕は起き上がることにした。






 ――目の前に確かな不安を感じて僕はその風景の先を睨む。















「おはよう。やっ君」







「もしかして君が???」






「人聞きの悪いこと言わないでよ。





 私は“あれ”みたいな行動や思考はしていないわ――勿論、殺人も」















 そう言うと彼女は僕の頭についている埃を取ってくれた。


 僕には、りるらが一体誰のことを言っていて何の事を話しているのかがよく解からない。


 しかし彼女のいい回しや自分の現状を考えてみて……謎が解けた。


 僕の背中には確かに残っていた。あの感覚……。


 あの刹那、僕は誰かに背中を押された。
















「だから気をつけろって言われたんでしょ。“特に階段には”」






「!!!」















 そう言えばあの青髪に言われた。僕はアドバイスを受けた。


 基礎が不安定だと――階段には気をつけろと。


 まさか本当に言い当てたのか???


 いや、もしかしたら彼自身が僕を突き落として占いどおりにしたのか???


 しかし何の為に……。一体どういう理屈で……。













「別に“彼”は頼まれて突き落としたわけじゃない。単純に貴方が気に入らなかったから。





 勿論、占いどおりになることは重々承知だっただろうけどね。でも押しとどめられなかった。





 彼はそういう人間だから……“人を引き裂く事しか出来ない気狂”だから。





 まだ引き裂かれなかっただけでもマシだと思いなs」





















 僕は彼女が言い終わる前に僕は走った。























 自然と胸騒ぎがする。なんだろうこの感じ……。


 動物は大きな地震が来る前になんらかのリアクションを起こすと言う。


 もしかしてそれと同じなのかもしれない。


 僕はまるで何かから逃げているかのように走る。そして……立ち止まる。


 この曲はショパンだ。だけど僕は音楽は好きじゃないのでただの雑音にしか聞こえない。


 昼休みはあんなに長蛇の列を作っていたのに今は誰一人としていない。


 長い廊下に僕がただ一人ぽつんと立っているのだ。


 僕は扉を開いた。
















「……あれ??? お前は確か」








「……君は……一体何なんだ……???」







「俺か??? 俺は占い師だ」


















 太陽に照らされた教室には不釣合いの青色が眼に入る。


 彼は昼休みと同じように椅子に座ってジッとしていた。


 僕はもう一つの椅子に座ろうとしたが躊躇した。


 僕が思うに彼は僕と同じ。異常体質者。


















「ここに来たって事は占いをして欲しいのか??? それとも俺が何なのか知りたいのか???」








「……未来が見えるって、どんな気分だ」








「別に、俺自身のイメージは見えないから残念だけど役立たずって感じ」
















 他人のことは解かる。でも自分のことは解からない。


 それはまるで僕と同じだった。他人を気にして自分を気にとめない。


 だけどそれは怖くは無いのだろうか???


 未来を見て生活する占い師にとって自分のことが解からないというのは……。
















「まあ困ったことはあったさ。





 誰かは知らないけどカッターナイフで刺された事や金属バットで殴られたこともある。





 階段から突き落とされたこともあった。





 あの時は思ったね。自分の未来を見ることが出来たら全部回避できただろうにって」








「酷く恨まれているね。それはどうして???」








「それは復讐だろ。お前みたいな占い結果が出る物も居れば、親が死ぬ。





 家が焼けるとかそんなイメージが出る奴も居る。





 そいつらは俺がやったと思うだろうね。





 100%の占いは無いって事、もしあるならそれは誰かの仕業だとしか思えないだろ???」














 なるほどなるほど。そりゃそうだ。


 じゃあなぜ彼はイメージすることを辞めなかったのか。僕は考える。


 ――突然と扉が荒々しく開いた。


 僕はその方向を見たが占い師は見ることさえしなかった。

















「そうか――りるらが言ってたのは君の事だったのか……」























 ヒキサキ=コルヴォ

























 コルヴォが居た。そこにはコルヴォが立っていた


 立ちながら彼は僕の真後ろに居る人間を睨み付けた。途端に僕は体が硬直した。


 彼が蛇なら僕は蛙。蛇に睨まれた蛙。


 コルヴォの表情は昼休みのような穏やかな物ではなかった。


 まあ睨んでいるのだから当たり前なのだが、彼の睨みは違った。


 そこには別の感情が混ざっている。それは僕が先ほど感じた『殺気』と全く同じだった。


 それも強烈な殺気。本当に体が内側から爆発してしまうかもしれないほどの視線。


 例えるならそれは重力や圧力の類だろう。押しつぶされるッ!!!















「よお“デレスィオン”」








「なっ……なんだお前!!!」

















 声が震えていた。デレスィオンと言われた青髪は恐怖していた。


 直接に殺気の対称でない僕でさえここまで追い詰められているのに殺気の対象のデレスィオンはどうなのだろう。


 ポケットから手を出すと黒色の革の手袋。――僕を突き落とした手。


 僕は落ちる直前、背中に触れていた黒色の革製の手袋を確認していたのを思い出した。


 コルヴォがデレスィオンに歩み寄り……消えた。


 キエタ??? 消えた。消失した。


















「ウガッ……ウゲェガ」





「……」


















 違う。消えたんじゃない、『加速』したんだ。


 コルヴォは10mはあろう距離を一気に詰めたのだ。それはもう凄いスピードで……。


 それだけじゃなかった。


 コルヴォとデレスィオンの距離が零になった途端にコルヴォの手はデレスィオンの口の奥に突っ込まれたのだ。


 だからコルヴォの手は今デレスィオンの口の中に突っ込まれた状態。


 デレスィオンの口の隙間からかすかに小さな悲鳴が聞こえる。
















「お前に選択肢を与える。生きたいなら右手を上げろ、逝きたいなら左手を上げろ」







「ウゥゥゥ……ッ。ウ」


















 デレスィオンはゆっくりと右手を上げようとした。


 そんなデレスィオンを見てコルヴォが口を開く。


















「いいのか??? お前は今まで“大量の人間を殺してきた”んだぜ。





 自分だけ助かるなんて都合のいい話だな」








「エッ???」


















 僕は小さな声を出した。


 何のことだ??? コルヴォは一体何について喋っているのだろう。


 ヒキサキ=コルヴォ……彼は一体……何なんだろう……。

















「ん??? どうした、まさか今の今まで気がついてなかったわけ??? 自分の異常体質について。





 いいことを教えてやるよ。お前の異常体質はな、未来が見えるなんて綺麗な物じゃない。





 お前はな






















 自 分 の イ メ ー ジ し た 物 を 現 実 に し て し ま う 体 質 な ん だ よ 」

























「ェィォ……ウグ」



















 彼の手が止まった。右手を上げようとしていた彼の意思が……止まった。


 コルヴォの言うことが本当なら火事になった家は“デレスィオンが火事をイメージしたが為に”火事になってしまったことになる。


 親が死んだ。“デレスィオンが親が死んだことをイメージしたが為に”親が死んでしまったことになる。


 なら彼は占いなどではなくなり、それはもはや(のろ)いだ。マジナイだ。


 彼はいろんな人間の未来を潰したのだ。


 火事にならなかった家も火事にして、親が元気だったのに殺した。


 僕だってあのまま家に帰っているのに彼のせいで階段から突き落とされたことになる。


 ――彼がイメージしたことによって。



















「お前は残酷な人間だな。本当に恐ろしい人間てのはそこに意識があるか無いかだ。





 俺みたいに意識があって人を殺している人間より意識が無く、誰かを殺しているのさえ気がついていない人間の方がずっと恐ろしい。





 ああ断言できる。さあ選べ、どちらだ???







                    生 き る か 死 ぬ か ? ? ? 」













「……ナエ……デ」


















 彼の瞳から涙がこぼれる。


 自分のしてしまった事を悔いるように、――まるで今からそれを報いるように。


 そして彼の手が挙がった。

























 左手だった


























                  ミチミチミチミチミチミチ

























 とても耳障りな音が僕の耳を支配する。


 無理矢理に力ずくに何かを突っ込んでいる音。


 コルヴォの右腕が奥へ……奥へと進む。


 デレスィオンの口元から、だらしなく涎が垂れている。


 どんどんどんどんと進む。


 コルヴォは――笑っていた、ただただ愉快だと、まるでゲームに没頭する子供のように。


 手首は完全に見えなくなり、次には腕の関節が見えなくなっていた。


 既に器官に入っているのだろうか??? 僕は恐怖で全身が震えていた。


 この破壊行為よりも……コルヴォを見て。

















「キヒヒヒヒ 案外入るものだな。喜べ、お前の望みどおりに キヒッ 死ねるんだからな」







「~~~」







「んん……これ以上先に進めないぞ。 キヒヒヒ 」



















 コルヴォの腕は一瞬、止まり後退した。まさか……




















 止めろ、そんな事をしたらッ!!! 止めろ!!!



















 ――コルヴォの腕は一気に進んだ。


 尽き手のように進みながら一気に進むより、一度退いてから一気に進む方が威力は格段と上昇する。


 デレスィオンの口から大量の血が噴出される。その血はコルヴォの体に赤く染める。


















「~♪」







「ガフッ……ブ……」

















                        ブチャ!!!















 デレスィオンの体内にある行き止まり。コルヴォはそれを破壊して進んだのだ。


 そして新たな器官を破壊し、また次の器官へ……破壊、破壊、破壊。


 実際の時間はどの程度だったかは解からない、だけど僕には永遠にも感じられた。


 デレスィオンの眼からは涙が分泌されて居る事から、まだ生きていることが解かる――まだ痛みがあることが解かる。



















「キヒヒヒヒヒ・・・。そろそろ キヒ 飽きた キヒヒ な」
















 すでにコルヴォの肩付近まで腕が入り込んでいる。その姿はとても残酷だった。


 そしてあたり一面が彼の血で染められて地面には血の海が広がる。


 ――突然とコルヴォの行動が止まった。
















「……コレガ“命”カ」















 コルヴォは何かに触ったのだろうか。いや、握り締めているのだろうか。


 ドクンドクンという音が僕にも聞こえる、あれは――心臓だ。


 心臓を守り抜いていた肋骨もさっきバキボキと言う音を立てて破壊された。


 コルヴォはニヤリと笑った。























「死ね」





















「                    」




















 グチャ。
















 デレスィオンは力なくその場に倒れた、コルヴォは自分の腕を引き抜いてバキボキと骨を鳴らした。


 全てを破壊したあの腕。真っ赤に染まっていた、血に染まっていた。


 コルヴォは振り返って僕を見た。その表情は昼休みの時と同じで穏やかだった、全くの別人。
















「俺はな。お前も今すぐ殺したい、壊したい。……俺の異常体質は知ってんだろ???」








「ゥン」













 ――教室の扉が開いた。















「お疲れ様。コルヴォ」


















 りるら。

















 この教室に今居るのは僕とコルヴォ、そして無残にもコルヴォに殺された一体の死体。


 広がる血の海。


 滑稽だった。その様は哀愁さえ漂っていた。


 今度はゆっくりと扉が開き、赤色の髪の少女が居た。りるら



















「お疲れ様。コルヴォ」








「これでよかったのか???」














 もしかしてこれはコルヴォの独断ではなく、りるらも関わっていたのか。


 こんな少女がこんな残酷なことを……。


 僕の胸の奥から液体が込み上げてくる。気分が悪い、死んでしまいそうだ。


 りるらは僕の背後から近づいて僕の背中を撫でる。















「怖がらないで、確かにこれについては私がコルヴォに頼んだ事よ。でも私は貴方の敵じゃない」








「触るな!!!」















 僕は彼女の手を払いのけて教室の隅まで逃げる。一部始終をコルヴォは黙ってみている。


 彼女は立ち上がって僕に近づくのではなく、僕を見つめる。睨むのではなく、見つめる。


 その姿が怖かった。僕は怒鳴る。

















「何でこんなことを!!!






 デレスィオンはそこの殺人鬼みたく人を殺したくて人を殺してたんじゃないだろ!!!」









「落ち着いて。深呼吸をしてみなよ。凄く落ち着くよ」







「落ち着くだと!!! ああ、落ち着いているよ!!! 僕は落ち着いているさ!!!」








「落ち着いてないじゃない。言っている事がよく解からなくなってるもん。大体何よ



















     デ レ ス ィ オ ン っ て 人 を 殺 し て た の ? ? ? 」


















 僕は黙り込んでしまう。え??? 今なんて言った???


 りるらがコルヴォと関わっていたのなら、デレスィオンが自分の異常体質を勘違いしていた事も知っているはずだ。


 僕の中で疑問が残った。


 本当にデレスィオンの異常体質はイメージを現実にする事なのだろうかと。


 ――まさか。まさかまさかまさか。


 僕はコルヴォを見る。ニヤニヤと笑っている。
















「ああ、あれは嘘だ。あいつの異常体質は“未来を見る”であってるよ。





 イメージした物を現実にするって言うのは俺が適当に言ったのさ」







「何だ……と……」















 もしかして……もしかしてもしかしてもしかして、単純にあれはデレスィオンを追い詰める為に


 デレスィオン自らが死にたいと思わせるために言ったのか……???


 ――恨めないじゃないか。彼は自分を殺した相手を恨めないじゃないか。


 今まで散々恨まれ続けて、自分は最後には恨めない。こいつらは本当に。















「狂ってる……お前ら狂ってる」







「うん。知ってる」





















 いつの間にかショパンの音色は聞こえなくなっていた。


 もう学校には他の生徒は居ないのかもしれない


 僕らは学校に取り残されたのかようだ。


 そして彼は永遠にここに取り残されてしまうのだろう。


 深呼吸をする。オーケイ、大丈夫だ、落ち着いてきた。














「落ち着いた???」







「ああ、落ち着いたよ。大丈夫だ」















 僕はりるらに質問をする事にする。

















「何でデレスィオンを殺したんだ???」







「ここね。私達の部室なの」
















 私達の部室……ああそう言えば以前にりるらは僕をその部活に勧誘したっけ。


『気狂プログレッシ部』。当たり前だが決して表向きならない非公開の部活。


 そう言えば昼休みにここを去るとき、壁にそれらしき文字が彫られていたっけ。














「でも一週間ほど前からここにデレスィオンが来て、占いを始めたの。





 おかげで暫くクラブは休部にしたわ。だけどまだ殺すまでの条件じゃない。





 私は1週間の猶予を与えることにしたの。





 本来なら猶予なんて無く殺しているけど彼は異常体質者だったから観察したかったの。





 観察してたけど彼は他の異常体質者とは違って奇妙だった。





 考え方が違ったのよ。当たり前のことだけど、それが普通じゃなかった。





“自分の力で他人を助けよう”としていたのよ、異常体質者の癖に。





 だからすぐに飽きた、彼は異常体質者じゃない。ちゃんと人間の心を持ってるもの」








「だから殺した???」








「いや違う。勧誘しようと思わなかったって事。





 殺した理由は単純、部室を返して欲しかったから」
















 そうだ。彼は人間の心を持っていた、それが僕は引っかかっていた。


 僕なら恨まれたらすぐに占いをやめてしまうだろうけど彼は違った。


 その辺りが異常体質者らしくないと言っているのだろう。


 確かにそれはそうだ。自分やコルヴォと比べてみてもよく解かる。


 生き物の半分は自分の土地を汚されると敵として対処すると聞く。


 それは当たり前なのかもしれない。


 僕達のような異常体質者は人間じゃない。だから敵として対処した。


 彼女はそう付け足した。





 ……あれから1時間が経過した。















「しかしまあ……」















 僕はいまだにこの教室から出れずに居た。


 あの二人は随分と前に出て行ったのだが僕はそれについていかなかった。


 どうやら明日から部活は再開されるらしく、興味があるなら仮入部でもいいから着て欲しいとりるらは僕に言った。


 興味は無いでも無かった、僕の同類には非常に興味がある。















「君ならどうしたんだろうね」













 壁にもたれかかるようにして静かにしているデレスィオン。


 血の海は乾いて赤黒く変色を始めている。


 瞳孔は開いたままで僕は眼を閉じればあの破壊行為が再生されるのだ。


 ヒキサキ=コルヴォ。


 彼も異常体質者、人を殺さずには居られない。誰かを引き裂かずには居られない。


 僕の体質よりもっと重症――突然と頭痛が襲う。


























『俺ならきっとあいつ等には関わらなかっただろうね』














『そもそもお前は彼女と始めてあったときに縁を切る事が出来たはずだよ???』







「まあそれはそうだけど」







『俺ならその段階でまず彼女との関わりは作らない。





 彼女が自分の席に座っていたんなら俺は迷わず家に帰っただろうさ』







「出た不良行為」
















 そりゃ言いすぎだけどなと血まみれのデレスィオンは笑いながら言う。


 彼の綺麗なスカイブルーの髪は赤色に染まって台無しになっていた


 しかし彼の言う通りなのだろう。


 今思い直せば彼女との縁を薄くすることも出来たし彼女との縁を作らなかったことも出来る。


 なのに僕はそれをしなかった。なぜか???


 同類に合えたという。喜びの感情が少しでもあったから。














『喜びさえしたのか。そりゃまあお前のことを疑っちまうな……。





 解かってると思うがこの先は地獄だぜ??? 地獄よ地獄。光なんて少しだって入らない闇の世界。





 今ならまだ引き返せるぜ。光の世界とまでは行かないが灰色の世界にとどまることは出来る』








「……そうだな。俺は灰色で満足しようかな」








『ああ、そうしなよ。そうすればお前はまだ狂わないで居られる』















 僕の答えは決まっていた。こうして彼と話すことは無くとも。


 そう言えば気になることがあった、それを彼らに聞くことは出来なかったんだけど。
















「何で俺ヤックンって呼ばれてんだ???





 俺はあいつらに本名を教えたことないし、一文字もあってないし」








『ヤマアラシだからだろ』















 ああなるほど。と僕は頷いた。


 僕は自分を偽っている。嘘つきだから偽名を使って学校に在籍している。


 自分の本名……思い出したくも無い。
















「お前、これからどうなるんだろな」








『というと???』








「死体だよ。公にメディアに取り上げられるんだぞ」








『それはないな、あの部員達を舐めたら駄目だ。





 明日になったら誰も俺のことを覚えてないし俺は産まれてすらないことになると思う』
















 それも誰かの異常体質によるものなのだろう。


 それ程まで気狂プログレッシ部とは強烈な組織なんだなと僕は思った。


 関わったらとんでもないことになりそうだ。


















『さてもう話すことも無いだろう。この辺でサヨウナラだ』








「そうだな。楽しかったよ」








『結局あいつらの組織とは関わらないのか???』








「当たり前だ。炎に突っ込む虫は居ないだろ」





















 窓からは月の光が入らずに光なんて少しだって入らない世界を演出していた。


 それはきっと彼の言う通り地獄なんだと思う。一度入れば引き返せない。
























『お前は酷い嘘つきだな』
















「まあね」


























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