第十五話 『人形がついて来る!!!』
このお話は私が8歳の誕生日を迎えたときから始まる。
忘れたくても忘れられない。今までも……これからも……。
その日は寒い冬の日で朝から私の住む地域では大雪が降っていたのを記憶している。
私はまだ小さな子供だったので朝から誕生日プレゼントを買ってくるであろう父の帰りを心待ちにしていた。
しかし、いつになっても……いつになっても父は帰ってこなかった。もうとっくに夜中の2時だというのに……。
仕方なく、私は眠りに落ちた。
――そして次の日の朝のこと。
目覚めのよい朝だった。ふと隣を見ると父の布団は膨らんでおらず、そこに父の姿が無いことを確認する。
その時、私は違和感を感じたことを覚えている。丁度私の頭上……つまり枕の少し上の辺りから……『視線』を感じるのだ。
誰かが私をジッと見ているような……それも強烈な視線が……。
恐る恐る。私は寝転がって、頭上を見てみる。
「キャ……ッ!?」
そこには一体の西洋人形が立ち尽くしていた。金色のブロントに青色の眼、華やかなドレス。
私はその人形を抱え込みながら考えた。誰もが不思議に思うだろう。
はて??? この人形はどこから来たのだろうか???
もしかしたら、父が私の誕生日プレゼントを渡せずにここに置いておいたのかも知れない。うん、きっとそうだ。
私はそのことを母に報告する為に、布団から出てリビングに向かう。
――リビングの中心。そこに母は座り込んでいた。
放心状態というのだろうか??? まるで魂が抜けてしまったかのように、とにかくいつもと様子が可笑しかったのだ。
私が話しかける前に、母は言う。
「お父さんね。。。昨日の夜中に……殺されちゃったの……」
え ? ? ?
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母は泣き出してしまい、私はその言葉に困惑させる。
そんなまさか……。父が遅かった理由は殺されていたから……???
誰が??? どうやって??? なぜ???
次々と疑問があふれ出てくる。当たり前だ、八歳の少女が人が人を殺すなんて知ってるわけもない。
その時、私はふと思い出した。さっきから手に握っていたこの人形の事。
じ ゃ あ 一 体 誰 が こ の 人 形 を ? ? ?
私は気味が悪くなって人形を押入れの奥にしまっておいた。
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その後警察署に行った。父が死んだ事についていろいろと聞かれた。
聞きたいのはこっちの方だ。だけど教えてくれたのは父が死んだと言うことだけ。
あの晩。温度は1℃くらいだった為、父はナイフで刺された後、傷口は閉じたものの大量出血のために死亡。
神経は温度の為に鈍り、かなり苦しんだだろうと必要も無い事も言われる。
母は殆ど喋らなかったから私が説明してた。我ながら良く出来た子供だったと思う。
きっと母はこの時からおかしくなっていたのだろう。丁度私が中学三年生の時に精神病院に入院する事になるのだから。
「○○ちゃん!!!」
後ろから私の名前を呼ぶ大きな声がした。私は振り返るとそこにはさっきまで話していた警察官の人が居た。
そして私の目の前に立って、何かを差し出してくる。
――私は血の気が引いた。
「このお人形。○○ちゃんのだね、忘れ物は注意しなきゃ駄目じゃないか」
「あ……はい……」
私は人形を受け取った。
その時、人形は少し笑ったような気がした。
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私の家の裏には大きな川が流れている。確か歪川だったかな
川自体がぐにゃぐにゃと曲がっている事から歪川らしい。
それよりそこの周りは草むらになっていて立ち入り禁止になっているのだが、私は家に帰る途中、そこに人形を投げ捨てた。
母はもうこんな状態だし、周りに人が居ないのでここに人形を捨てたのは私しか知らない事になる。
とにかく気味が悪かったのだ。一体あの人形は誰が持ってきたのだとか、なぜ父の死んだ日になのだとか、とにかくいろいろと……。
これで私は恐怖から逃げ切ったつもりだった。
物語はここで終わると――そう思っていた。
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それから数年後――私は高校一年生の誕生日を迎えていた。
高校は近くの公立高校に通っているが寮暮らし、別に家でも良かったのだが……。
丁度一年前に母親が精神病院に入院を始めてから家には一人なので寮で生活する事を決めた。
時刻は10時半。さっきまで私の誕生日をクラスの友達に祝って貰っていた。
時間が時間なのでお開きにして今は散らかった自分の部屋の掃除をしている。
ふと、壁とタンスの小さな隙間から金色の糸のような物が落ちているのに気がついた。
私はそれを手繰り寄せてみる。糸の先に何かあるらしく重量がある……勢い良く引っ張った。
タンスと壁の間から出てきた物――
「キャアアアアアアアアアアアアアアア!!!」
あの人形だった。金髪のブロントにあの瞳……華やかなドレス。
私は驚きの余り、人形を持つ手を離す。
その時、私は直感する。ここに居ては危険だと――
勢い良く私は外に飛び出した。行く当てもないのに、逃げた。
部屋には金色の人形だけが取り残されている。
走った……とにかく走った……。
息が切れるまで走っていた。向かったのは友達の家。
あの部屋では生活したくなかった……、とりあえず今は泊めてもらう事にする。
友達はすんなりいいよと言ってくれた。やっぱり持つべき物は友だ。
私は安心したせいか、すぐに眠りについた。
朝起きると、違和感に気がついた。
自分の腹部に……何か違和感があるのだ。
私は布団を捲り上げて見てみる。
「キャアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア!!!!!!」
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一年後。場面は切り替わって病院
ベッドの上で座っている女性と看護婦さんの話が聞こえてくる。
女性はどうやら今日で退院するらしい。
「ほら言ったとおりでしょ???
人間って言うのは外部より内部を破壊した方が後にも先にも有効なのよ」
「でも何でなんですか??? 私はただ貴方の『娘』さんの近くに人形を三回ほど設置しただけですよ」
「貴方は本当に頭が悪いのね。私が作ったシナリオはね。
まず父親を殺して、あの娘にプレゼントを与える。あの娘はきっと『父親がくれた』と少しでも思ったでしょうね。
でも父親は死んだわけだから人形は一体誰からのプレゼントか……要するに人形を持っているのは恐怖になってくる。
後はあの娘が人形を捨てた後に人形が『ついてくる』用に誤認させたのよ。それを繰り返せばいつかは人間は壊れるわ。
そして私の父親も子供も居ない自由な人生が待ってるってわけ」
「へぇ……だからわざわざ貴方は気が狂ったフリをして、物語の登場人物から外に出たってわけですか……」
女性はそういう事♪と言うとニッコリと笑った。
彼女はゆっくりと扉を開けて出て行く。
残された看護師は新しく入ってくる一人の少女の為、部屋の掃除を始めた。