第十四話 『殺言葉。リターン』
俺はこういう話を聞いたことがある。
『人間は唯一誰かを憎む動物である』
はて??? これは誰の言った言葉だったかな……。何処かの学者??? あるいは学校の先生???
……まあいい。
取りあえず俺には今、この通りに憎んでいる奴が居る。憎悪して、殺意に目覚めている。
相手の名前は萩原 俊二。俺と同じクラスの奴だ。
さて、ここでなぜ俺が奴を殺したいと思っているか――。
奴は俺にとって『何もしていなかった』。親友でも友達でも虐め相手でも無かった。
そうだ、奴は俺にとって本当に、何の意味もなく、そこに何の意義もなく、『何もしていない』存在なのだ。
関わったことはなく、触れたことはなく、喋ることはなく、目をあわすこともなく……。
奴は俺の人生に一切関わらなかった。もしかしたら奴の視界の中に俺は映っていなかったのかもしれない。
勿論、そんな人間を憎んでいるわけは無い。ただ、奴を殺す事が俺と奴の初めての関わりだと思えたのだ。
殺す事で初めて、二人の物語はスタートする。
だから消すことにした。殺そうと思った。
「殺すにしても、どうする??? 最近の警察は少しの痕跡で犯人を探し当てることが出来るらしいし……」
困ったのが殺害方法。シンプルにナイフで一刺しするにしても、そのまま殺してしまえば確実に見つかってしまう。
何かアリバイのような物が必要になるのだ。じゃあどんなアリバイ工作をするか??? 何かカラクリ道具で時間差で殺害するか???
そもそも俺と奴の関係が零なら疑われないのではないだろうか???
……うーん。殺人とはどうも難しい。
そんな時、俺の耳にある噂が入ってきた。
「ねえねえ!!! 知ってる!? これ4組の子が言ってたんだけどさ!!!
夜中の3時33分に突然と携帯に無言電話が掛かってくるんだって!!!
それでね、誰かの名前を言うの――そしたらその人は3時33分きっかりに……」
死 ぬ ん だ っ て
・
・
・
俺はその晩、奴をどのように殺してなおかつ自分はどのようにして罪を逃れるか計画していた。
誰かに罪を擦り付けるか??? その人物は一体誰が相応しいのか???
ちなみに先ほどを台所に向かうとそこには5本の包丁があったので一番殺傷能力が高そうな銀色の包丁を盗んだ。
大体のことは決まったから後はどうやって奴を呼び出すか……。
ピロリロリロリロ♪ピロリロリロリロリ♪
机の上に置いてあった携帯電話が鳴り響いた。
時刻は――
3時33分
■
俺は恐る恐る携帯電話を手に取った。体の奥底から恐怖と言う感情がこみ上げてくる。
ここで俺が恐怖したのは二つの理由がある。
まずこんな時間に電話が来ることは生まれて初めてだ。人間と言うのはどうも初めてには弱いものだ。
そしてもう一つ、先ほど聞いたあの噂。
『夜中の3時33分にかかってくる無言電話。
そして誰かの名前を言えば――その人間は――
死 ぬ 』
俺はゆっくりと携帯を耳に近づけてみる。
――無言電話だった。。。
勿論あんな噂を信じているわけではない、だから俺はゆっくりと電話を切った。
一体誰がこんなデマを流したのかは解からない。一体何の為なのか??? しかしそんな暇つぶしに付き合ってる暇は無い。
さて……明日の学校が楽しみだ――。
・
・
・
結論から言えば、奴は次の日学校を休んだ。
体調を崩したのか。単なるサボリなのかは定かではないのだが、計画が先送りになったのが残念でならなかった。
その日の帰宅途中。
明日の今頃は奴を殺しているだろう。そして初めて奴との“関わり”が生まれる。
もし奴は殺されたとしても俺に“殺された”と言う関わりを得る事が出来る。
もしも殺した後に何の変化も無かったら俺と奴はその程度の“関わり”だったという事だ。
そう考えると――
「うわっ!!!」
――俺は一瞬の判断で人間の急所である心臓の部分。肋骨の辺りをガードした。
すると腕に鋭い痛みが走って血が噴出した。何かが刺さった感覚。
小道から誰かが飛び出して俺に向かってナイフを刺してきたのだ。
反射で閉じた右目だけうっすらと開いて状況を確認する。
そこには萩原 俊二が立っていた。
▲
血まみれの腕を抑えながら俺はあの場所から全力疾走で逃げてきた。油断していた……奴も俺を殺そうと考えていたのか。
よくよく考えれば当たり前のことなのだ。別に奴が俺を殺そうとすることもありえない事でもない。
後ろを見ても奴が居ないことから追跡は諦めたようだがこれじゃ一筋縄じゃいかないらしい。
少し作戦を変える必要があるかもしれない。
俺はまた今日も徹夜して計画を考えることにした。
・
・
・
「……奴を誘い出す手は無理となると真っ向で勝負するか???
いや……奴のナイフの腕も中々のものだった……これじゃ最悪、奴に殺される」
奴もわかっていたのだろう。俺が奴の人生にまったく関与していないことに。
殺した始めて俺と言う一人の人間が奴の人生に関わることが出来るのを――解かっていての行動だと思う。
今頃、奴も俺を殺す為に計画しているだろう。
もしかすると明日の朝には決着が付いているのかもしれない。どちらが食うか??? 食われるか???
ピロリロリロリロリロ♪ピロリロリロリロリロ♪
俺はハッとまた恐怖を味わう。恐る恐る時計の時間を見る。
3時33分
俺は耳にゆっくりと携帯を近づける。
――無言電話。
俺は時間を無駄にしない為に電源を――電源を……
「萩原 俊二」
電話の奥で声がした。
「
キ
ヒ
ヒ
ヒ
ヒ
ヒ
」
●
俺は気が狂ったのかと思った、自分でも情けなく思う。あんなことに付き合ってしまうなんて……。
一体誰がこんなデマを流したのかは解からない。一体何の為なのか??? しかしそんな暇つぶしに付き合ってる暇は無い。
さて……明日の学校が楽しみだ――
ん……???
俺は気が付いた。
一体誰が……こんなこ…………t…………お???
「もしかして……●●●で……■■■で……▲▲▲だから……???」
次の日。一つの街で同じ時刻――3時33分に死んだ二人の少年が見つかった。
二人は同じ学校に通っていたのだが余り関わりが無かったらしい。
二人の関わりと言えば両方の携帯に全く同じ時間――3時33分に着信履歴があったことぐらいだった。
「
キ
キ
キ
キ
キ
キ
」