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歪に素敵な短編集  作者: 啓鈴
歪な愚形の果実共
13/46

第十三話 『神のお話』






【神のお話】










『貴方は神を信じますか???』










 私はそんな看板を駅前で見た。つくづく人間は馬鹿だと思った。


 神が居るから何だというのだろうか???


 人は神に縋るとは前々から聞いていたのだがここまでとは思っていなかった。


 教会で懺悔する。人に褒められることをする。神を信じて祈りをささげる。


 神だって何でも出来るわけじゃない。神に出来る仕事なんてたかが痴れてる。


 しかし彼らは居るのかもわからない神に縋って助けを求めている。それがどれ程馬鹿なのか気が付いていない。






「俺の知らないところで祈りをささげられても……みてねぇんだから……」






 紹介が遅れた。俺は『神』だ。


 ん??? 神様のくせに髭が生えていないし、普通の服だって???


 ふざけるな!!! 俺は19歳だし、かっこつけてキャーキャー言われたいわ!!!





「……本当に……馬鹿だよな……」





 神の仕事が何なのか知らないのに……。


 褒められることはしていない。本当は憎まれるべきなのに。


 人間など作るべきではなかったのかもしれない。こんな生物……。












 ・












 ・













 ・













 俺は家(4畳半のアパート)に戻って寝転がる。つくづく狭い部屋だと思った。


 部屋には何も無い。何か置くだけのスペースが無いからだ。


 ふと、俺の部屋のドアが開く。


 そこからそれこそ人間が思い浮かべる『神』にふさわしいような白髪、髭、杖を持った老人が入ってくる。







「……仕事、か……???」






「ええ、今日のノルマは560人です」







 その言葉を聞くと、いつも思い出すことがある。


 あれは俺が神様としての初仕事だった時の事……。















 6年前の寒い冬の日。あれは確か俺が『神』の研修だった時。












「良いですか??? 『ナナシ』は神である知識は十分にあります。



 後は感情を全て捨てる事。可哀想だとか、罪悪感だとか、全て捨てなければなりません。



 勿論、貴方になら出来ると思いますが……」






「うるせぇ、んな事何回も聞かされてるよ」






 俺は『ナナシ』。


 名前は無いから『ナナシ』。


 感情が無いから『ナナシ』。


 神じゃ無いから『ナナシ』。


 ……何も無いから『ナナシ』。


 場所は空、不思議に聞こえるかもしれないが文字通り空に漂っている。


 相手は現在の神だが後数日で神の期間を終えて、天国ではなく地獄へと墜ちる。勿論、地獄で裁かれるだろう。







「んで??? ターゲットは誰よ???」











「あそこに二人の恋人が居ますね??? その内の一人を……





















 2 7 時 間 以 内 に 殺 し て く だ さ い 」




















 神の仕事。それは殺す事。


 まるで狂った兵器のようにひたすら人間を殺す事。


 それがたとえ子供でも、女性でも、老人でも……。


 神はその人間達を選ぶ。誰がどうやって死ぬのかを選ぶ事。


 具体的には毎日、指定された数の人間を殺さなければならない。


 そしてその数に達さなかった場合、無理矢理バランスを戻す為に『戦争』を起こさなければならない。



 なぜか???



 例えば、毎日800人殺せといわれて半分の400人しか殺さなかったとする。


 これが一週間続くと仮定しよう。すると2800人の人が死ななかった事になる。


 この2800人を殺す為に『戦争』をしなければならない。


 とんでもないシステムだと思う。














 そうか……これは俺が神にふさわしいか試しているのか……。


 もしどちらかを殺さなければ俺は『神』にはなれない。


 殺す覚悟があるのか……試しているのだ。








「どうしました??? 貴方は今何を考えているのですか??? まさか感情が無いくせに……」






「黙れ。ちょっと考えているだけだ」







 俺には感情が無い。
















 俺には感情が無かった。悲しいだとか嬉しいだとか勿論慈悲の心も持ち合わせていなかった。


 だから俺は周りから『神』にならされた。感情が無かったから。


 勿論今だってあの二人の事を可哀想などとは思っていなかった。


 視線を降ろし真下のビルの屋上に居る二人の男女を眺める。年齢は……20歳くらいだろうか???


 何の話をしているのか解からない。解からないが……。





















 二人ともとても幸せそうだった。




















「さて期限はまだ26時間と58分あります。どちらの方が必要ないのか決め次第、消してください。



 でわ」







「…………」







 そう言って彼は消えた。まるで手品のように。


 視線を再び下ろして考えてみる。


 もし男を殺せば??? 女は悲しむだろう。だが死ぬ事は無い、俺が操れるから。


 じゃあ女が死ねば??? 男は嘆くだろう。だけど……。


 ……俺に感情は無かったはずだ。可哀想だとか思うわけが無い。


 だから『神』に相応しかったんじゃ無かったのか???


 じゃあこの気持ちは何だ???




















 な ぜ 俺 は 迷 っ て い る ん だ ? ? ? 











 ・











 ・











 ・













「ねえ、裕二は神様って信じる???」




「そうだな~……あんまりそういうの信じないからな……。可奈は???」




「私は信じるよ……神様が居るなら……運命も……あると思うから」




「最後の方聞こえなかった。もう一回言って」






 彼らの後ろを俺は追っていく。この行動に何の意味があるのかは解からない。


 いつもの俺ならあの場ですぐにどちらかを殺していたと思う。それもとても簡単に。


 だがなぜ……??? 俺は一体何を迷っているんだ??? まさか殺すのを躊躇っているのか???









「……よし……次の横断歩道で飲酒運転の車に跳ねられて男が死亡……」



















 二人が横断歩道に差し掛かった時、物凄いスピードで車が突っ込んだ。
















「可奈!? 可奈!!! どこだ!?」




「裕二!!! 大丈夫だった!?」








 俺は解からなくなっていた。


 神は正義じゃない事はわかっている。


 以前にも何度も言われた。神には相当の覚悟が要ると、解かっていたつもりだった。












 だけど……。














 俺は小さな力だが人一人殺せる力を所有している。


 その力は何か代償を負うことも無い。しいて言えば強力な罪悪感が残るくらいだ。


 しかし俺には感情と言う物を持ちえていなかった。


 罪悪感も正義感も悲愴感も虚無感すらも何も無かった。


 何があった??? そう聞かれれば即答するくらい何も無かった。







「じゃあなぜだ??? なぜ俺はこんなに迷っている???」







 あれから何時間もの時間が経過していた。


 目に映るのは二人の背中。『どちらかを殺す』それが神になる試練。


 目を閉じて手を前に差し出し頭の中でイメージする。


 例えば偶然出くわした連続殺人犯にバッタリ出くわした二人、男は女を庇ってナイフで一突き……そして死亡。


 それは偶然ではなく必然。俺が作り出した台本に過ぎない、そして彼らは単なる役者。











 役者……やくしゃ……ヤクシャ…… や く し ゃ




















「……おれは……どうしてしまったんだ???



 まさか……今さらになって……」















 俺は解からなくなっていた。もし片方を殺せばそれは残った方は絶望するだろう。


 例え神であっても……それが許されるだろうか??? いや別に許されるのならやっていいという意味ではない。





















 あんな二人から、幸せを奪い去る事は許されるだろうか???

















 約束の時間まで……後12時間と8分














 ・












 ・














 ・















 あの二人が別れた後。俺はどちらに付いていくでもなく、ただ歩いていた。


 ただただ道を歩いていた。まるで何かに取り付かれたように作業を繰り返していたように……。


 ふと裏路地に目をやる。













「おら!!! おっさん!!! さっさと金だしな!!!」






「ひぃっぃ!!!」









 俺は声をする方に歩いていく。















 見た目は大体高校生くらいだろうか??? 人数は6人、なるほど……これが親父狩りという奴か……。


 らは鋭利な刃物を振りかざして、威嚇してる。


 そして地面に這いつくばっているのは少し太っているサラリーマン風の男。余りの恐怖に声が出ないらしい。


 俺は何の考えなしにゆっくりと高校生達に近づいていった。――彼らがこちらに気が付く。








「あっ??? 何なのテメーェ???」





「ん??? 俺の事か??? 俺は『神』さ。それより君たちは一体こんなところで何をしているんだ???」





「神……様……???」




 一瞬彼らはあっけに取られたような顔をした。









「「「「「「 ギャハハハハハハハハハハハハハハハハハハハ!!! 」」」」」」








 何をするかと思えば彼らは大声を上げて笑った。こういうのを馬鹿笑いと言うらしい。


 それを見て俺も笑う。そうか、こんな奴らが信じると思うと思った自分が馬鹿だと単純にそう思っただけだ。


 すると彼らは笑うのを止めて殺気混じった目でこちらを睨み付ける。






「何??? お前俺らが怖くないの???」




「うん。私は怖いものなんて無いよ、例えばそうだな……君たちが持っているそのナイフ。



 だけどその前に君が死んでしまえばどうなると思う??? 簡単だ。ナイフは何の脅威にもならない。



 それに俺は神だ。君たちが持っているその玩具の刃が届くわけが無いだろう???」




「ああ!? 調子乗ってると痛い目見るぞ!!!」






 手前の少年がナイフを構えて俺に突撃してきた。悪くない、スピードに乗ることが出来ればナイフの破壊力は格段と上がるからだ。


 だが、問題なのはそれが俺に届くかと言うこと。簡単だ、届かない。


 ――彼は止まる。俺がそうさせたと言ってもその通りだ、そして今度はその場に倒れこむ。


 後でまた動かすから、命に別状は無いだろうがどんな人間も“心臓が止まれば”その場ではどうすることも出来ない。


 ただただ彼は重力に逆らえずに地面に這いつくばる。それ以外にはありえない。






「さあ……10秒以内に俺の前から逃げることが出来たら許してやろう。



 ちなみにそうしなかった場合、残念だが君たちにも痛い目を見てもらう。



 10……9……」






「うっ……うわあああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ!!!」









 彼らは一目散に逃げていった。ちなみにサラリーマンの男も俺を見るなり逃げた。


 やれやれと思いながら俺はふと気が付いた。






















 な ぜ 俺 は 彼 を 殺 さ な か っ た の か ? ? ?


















 殺そうと思えば全員殺せた。だけど俺は彼らを殺すことは出来なかった。


 そしてこう考える。その言葉に意味があるのかは解からないのだが、思考する。


『もし試練の標的があの不良共なら簡単だったのか???』












「……残り時間は……9時間と16分か……」

















 その後、俺は歩き続けた。


 何処か行きたかったわけじゃない。何かしたかったわけじゃない……ただ。


 ただ歩き続けた。


 そう言えば試練に合格できなかった俺はどうなるのだろう???






「たぶん……“消される”んだろうな」







 消される。『消失』


 死ぬのではない、消えるのだ。


 俺の存在は初めから無かったことになってまた他の神がこの試験を受ける。


 しかし、そのことについては何も思わない。別に死のうが消えようが俺は困らないと思う。


 ――その時、何の前触れ無く俺は初めてこう思った。心からこう思ったのだ。




















「そう言えば……俺は何で“神”になりたいんだっけ???」

















 俺は止まった。














 ・













 ・











 ・













 神になりたい理由。それは人それぞれだと思う。


 支配したい。創りたい。壊したい。

 

 何にせよ、神になりたいという理由があるはずなのだ。


 しかし俺はどの言葉も思い当たらない。


 支配する意味が解からず、創ること必要が解からない。創る意味が解からないから逆である壊す意味も解からない。







「神になってする事って言っても殺戮なんだけどな」







 ……そうだった……。


 神の仕事は殺戮することだった。ずっと忘れてしまっていた。


 例え誰が標的だろうが殺戮する。それが、それこそが神がするべき事。


 俺は再び歩き出して、あの二人を探し始める。













 残り時間は2時間と35分


















【悪魔のお話】










 男はいかにも値段が高そうな宝石屋の中に居て、丁度定員から四角い箱を受け取っているところだった。


 ちなみに“神”が知らないことは無いので探すこと自体はとても容易い。


 目を閉じれば指定された人間の場所が映像となって脳内に映し出され、別に歩かずともその場所に空間移動(ワープ)出来る。






「お前には何の恨みも無い。すまない……。





 ――男は通り魔に鋭利な刃物で一突きされて病院に運ばれる」






 俺は何の迷いも無く。その言葉を発する。


 途端に真後ろに居た女の人が鞄の中から包丁を取り出して男の背中を一突き、勢い良くその刃を突き刺した。

















「うぐっ……っ…………????」






















 ――鮮血。手に握っていたマフラーがその場に落ちて、それが合図のように男の体に働く全ての力は消えうせて、その場に倒れこむ。


 男はそのままピクリとも動かなくなった、あたりに悲鳴が飛び交う。


 哀れだ。あの男は多分、自分が誰に刺されたのか解からなかっただろう。


 それどころかナイフで刺されたことすら……もしかすると自分が死んだことにも気が付かずに居るのかもしれない。






 そのときの俺は“神”と言うより“悪魔”だったのかもしれない。
















 ・













 ・












 ・















 暫くして救急車が到着し、男の体は病院まで運ばれていく。


 しかし男はまだ息があるらしく、サイレンが鳴り響いている。ちなみに救急車のサイレンが止まれば急ぐ必要が無くなることを意味する。


 俺はさっき言った言葉を思い出す。






「ああ俺……は死ぬとは一言も言ってなかったな……。



 ……まさか……な???」
















【神のお話】









 病院に着くと、すぐに呼吸器を取り付けられ病院の長い廊下を医者達が手術台の上に乗せて何処かに大急ぎで運んでいる。


医者達の話から男は緊急手術室とやらに運ばれるらしい。


……どれだけ頑張っても無駄なのに……。


 この世の中の『死』をコントロールして居るのは俺だから……。つくづく人間は馬鹿な生き物だと思う。


 はそれを緊急治療室の扉の近くにある椅子に座りながら眺める。そして口を開く。






「手術はしっぱ……」








「裕二!!! 裕二!!!」





「あ……っ……」






 そこに現れたのはあの女だった。


 手術台の上の死にかけの男を見て泣きながら走っている。


 やがて男は俺の目の前の部屋……緊急手術室の中に運ばれて、分厚い扉で男と女は遮られてしまった。


 そして女は力無くその場にしゃがみ込んで泣きながら呟く。










「……一……人に……しないで……」










「お前は一人が嫌なのか???」








 ……人間の前に姿をさらしたのはこれで二度目だ。一度目は……なんだっけ???


 すると女は俺を見て、不思議そうな顔をした。


 そりゃそうだ。先ほどまで居なかった場所に突然と人が現れたのだ。本当なら気絶ものだ。


 しかし女はうろたえる事無く。俺の質問に解答する。







「私は……裕二だけでいい……、ところで貴方は誰???」





「俺か??? 俺は“ナナシ”だ



 さて質問する、お前は神様を信じるか???」













「信じない」










 女は昼間と別の解答をした。


 きっぱりと、その存在を全て否定するかのように。









「そうか。それは良かった、俺も同じだ。


 それどころか神様は居ない方がいいと思う。まあそこは思想の違いだから別にどうでもいい」







 その時、緊急治療室の中から一人の看護婦の人が出てきた。


 その手には小さな箱が握り締められていて、それを女に差し出した。


 ――これは確か……そうだ。あの男が刺される直前に買っていた物だ。


 女はゆっくりとその箱の蓋を開く、途端に滝のような涙が溢れ出す。


 俺もそれを見る。




















 結婚指輪だった。


















【無感情者のお話】









 俺は絶句した。そして今までに無い“罪悪感”が内からあふれ出す感覚に襲われる。


 途端に何もかも解からなくなる。このまま男を殺すべきなのか……??? それとも俺が消えるべきなのか???



 解からない。何もかも解からない。




 自分か他人か。




 奪うか与えるか。




 幸運か不運か。




 地獄か天国か。




 消すか消えるか。




 希望か絶望か。




 ……ナナシか神か




 解かっている。無感情者が罪悪感を語るべきでないのは解かっている。









「……神様は酷い奴だな……。本当に死ぬべきだよ……」







「そうは思わない……。神様は信じないけど酷い奴だなんて思えない」






 女は言う。俺の眼を見て。


 まるで子供を叱る親のように。







「私が彼と出会えたのも神様のおかげなら……。私は神様を酷い奴なんて思えない」






「……お前は何を言ってるんだ???」








 一体全体こいつは何を言っているんだ???


 違う。違う違う違う違う違う違う違う違う違う!!!


 俺が作れるのは『死』『絶望』『殺戮』だけだ!!! 幸運だとか希望だとか!!! そんな綺麗な物は作れない!!!


 お前の愛していた者はこの俺に殺されるんだぞ!!! 少しは恨め!!! 殺意を持て!!!


 お前は……俺に……何を望んでいるんだ!!!





 ふと時間を確認する。後30秒







 生きるか???







 死ぬか???












「何を馬鹿なことを……。俺は知っている。



 何でも知っている。知らないことが無いくらい知っている。



 人を不幸にするのが神だ!!! 神は人を幸運にすること……は……」







 ……そうだったのか。


 俺はそのために今ここに居るのか。


 全て思い出した。俺が神になりたいと思っていた理由。


 それを思っていた時から俺は既に無感情者ではなかったのかもしれない。






 ……そうか……なら俺は……






























 緊急手術室の扉が開いてそこからドクターが出てくる。


 そして笑顔で微笑みながらこう言った。






「手術は無事成功しました」







 女はふと振り返る。


 そこに“ナナシ”の姿は無かった。




















【“神”のお話】










 おや……どうやら不合格のようですね。ナナシ。










 ああ、思い出したんだよ。俺が神になりたかった理由を――。










 聞かせてもらっても???






 一人の人間でもいい。たった一人の人間でもいいから『幸運』にしたかった。


 誰かを殺すことしか出来ない神として、誰かを幸せにしたかったんだ。








 それが俺が神になりたかった理由。


 誰かに憎まれてもいい。それでも誰かを幸せにしたかった。


 別に誰かを幸せにするという意味では別に神にならなくても良かったのだ。








 さあさっさと消してくれ。俺はどうやら神には向いていない。


 あんたらが思ってたようなただの無感情者じゃないみたいだ。












 神になった理由……『ナナシ』としては不合格ですね。


 だけど……















 神としては合格です。













 はぁ???










 俺はすっとんきょんな声を上げる。


 こいつは何を言っているのだろう???


 そんな思いがこみ上げてくる。













 神に相応しい者。それは誰かを殺す事に罪を感じない者ではありません。


 逆に誰かを殺す事にとてつもない罪悪感を感じる者こそが相応しいのです。


 さらに貴方は『絶望』させる立場から初めて『幸せ』にする立場を望んでいました。


 だから――貴方は“神”なのです。


 全ての人類の『死』を操る神なのです。



















 俺は答える。




















  「―――――――――――」



















 ・













 ・



















 ・

















 俺は仕事を終えてあのボロアパートに戻る道を歩いていた。


 今日も大量の人を殺してしまった。勿論、そんな簡単に人を『幸せ』に出来るなんて思っていない。


 実際はあの試験から誰かを『幸せ』にする事は一度も無かった。やっぱり毎日のように誰かを絶望させている。


 やっぱり神とはそういう者なのだとしみじみ思う今日この頃。


 それでも、毎日のようにノルマを少しずつ減らして貰うように交渉している。最近計算したら900人近くの人間が助かっていた。


 その時、一人の少女が俺の目の前に現れる。年齢は大体6歳位。







「ねえ!!! 神様って信じる!?」






「ん??? じゃあ逆に聞くけど君は神を信じるか???」






「私は信じるよ!!! だって神様が居ないと私は生まれてこなかったんだもん!!!」








 この子はこの歳で神を信じているのか。


 それは勿論、神の本当の仕事を知らないからだろう。


 殺人者を好きな人間が居ないように、それは当たり前のことである。






「君が生まれてこなかった??? それはどうしてだ???」





「私のお父さんはね!!! 一度死んじゃいそうになったんだけど神様が助けてくれたの!!!」






「もしかすると死に掛けさせたのも神様の仕業かもしれないんだよ???」






「でもお父さんは生きてるよ???」










 その言葉で俺はハッとした。


 俺が殺さずにすんだ900人の人は幸せなのだろうか???


 もしかすると彼らはとても幸せなのかもしれない。


 ――俺は知らない何処かで幸せを作っていたのかもしれない。








「“ナナ”ーーー!!!」








 その時、女性の声がする。


 何処かで聞いたことのある言葉。







「ほら、お母さんが呼んでるよ???



 あっ……君のお母さんに伝えておいてくれ。






















 神様はやっぱり酷い奴さって」


























 女の子は笑顔で笑って俺の前から姿を消した。


 その時、暖かい風が吹いた。すると俺はいつも思い出すことがあるのだ。


 あれは俺があの試験を受けるずっと前……初めて俺が人間に姿あらわしたときの事。












 しかし、それはまた別のお話。























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