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歪に素敵な短編集  作者: 啓鈴
歪な愚形の果実共
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第十二話 『自分物語』








 私はこう思うんだよ。人間は二つの種類に別けられる。



 一つは『作り手の人間』。



 一つは『作られる人間』。



 どちらも似ているようで似ていない、いや正反対なのかもしれない。



 それでね、私が考えているのはここから。



 人間に『作り手の人間』は絶対に居ない。なぜか解かる???



 そう、その顔。すごくいい顔してる。貴方の思っている通り。





『元々作られているのが人間だから人間は作り手にはなれない』





 あの少年も、あの店の店員も、私でさえも、全て作られる側なんだよ。



 でも唯一作る側の人間になることが出来る方法がある。


 知りたくないか??? 自分の世界くらい自分で作りたいんだろう???















「で……その方法は???」




「それがこの『自分物語』」









 そうして若い女の人が俺にA4サイズのノートを手渡してくる。


 それより夏の夕刻とは中々風流だと思う、まだ暑さは残っているが日中に比べると大分ましだ。


 本題に戻ろう。俺は現在、どうも怪しげな女性に押し売りされているらしい。


 本当はこんなこと断ればいいのだが俺は人の頼みを断るのが苦手でいつも損ばかりしている。


 だから心を鬼にしなければならないのだが、なぜかそれが出来ないで居る。


 なぜか??? この女の人と俺の考えは同じだからだ。


 人間は作り手には決してなれない、これには同意できる。









「無料でお試し期間もやってますから、取り合えずここに置いておきますね」






「いやぁ……あの困ります……って……」








 気が付けば女性は逃げるように去っていった。


 それより『自分物語』だと???


 何かの宗教だろうか???



















 ■

















 俺は一人暮らしで6畳の小さなアパートに住んでいる。


 部屋の中には中心にちゃぶ台があって、それ以外は何も無い。冷蔵庫もテレビも。


 基本家と言うのは寝る為にしか使っていないから別にそれで困ったことは余り無い。


 夕飯を食べた後、俺はちゃぶ台の上に『自分物語』を広げる。


 最初のページの説明書きを呼んでみる。








「えーっと何々???





 貴方の望んでいる物語を書きましょう。そしてその詳細を書いてください。




 すぐにそれが届くでしょう。




 注。一ページに物語は一つだけです。





 うわぁ……何かとんでもない物を手に入れてしまったみたいだ」








 一ページめくる。








「結婚したい!!!」








 一ページめくる。









「人間観察の為、世界を忠実に再現した玩具をください」









 一ページめくる。









「あいつむかつく。死ね」


















 ・

















 ・

















 ・


















 そして最後のページだけ何も書かれていなかった。


 これが最後の物語なのかと思う。


 勿論俺がこんなノートを信じてはいない。こんな物が世界にあるはずが無い。


 そう思って鉛筆を握り締めて力をこめる。




















「金持ちに……なりたい……っと」




















 こんこん♪

















 部屋がノックされる音。










「誰だ??? こんな時間に」









 俺は何の疑いもせずに扉を開ける。


 そこに立って居たのは全身が真っ黒で両手にアタッシュケースを持った男だった。






















「 警 察 か ら 追 わ れ て い る ん だ 。 














 少 し だ け か く ま っ て く れ な い か ? ? ? 」





















 ▲


















 俺はあっけに取られているとアパートの階段に二人組みの刑事が見えた。


 それを見た男は慌てて、ドアの隙間に割り込んで力任せに俺の部屋に入り込んでくる。


 取り合えず俺は扉を荒々しく閉めてチェーンをかける。


 男の姿を良く見ると傷だらけで血が滲み出ている。まさに誰かに追われているに相応しい姿。




















 ドアをノックする音。おそらく……


















「こちら警察の者ですが、実はこの近くの銀行でとんでもない量の現金が強盗にあいまして……。




 この辺に怪しい男を目撃しませんでしたか???」





「いえ、特に……」






「解かりました。何か思い出されたら警察まで連絡を……」









 そう言うと、二人組みの警察の人達は出て行った。


 震えていた男はアタッシュケースを抱きかかえてこちらをギッと睨んでいた。


 とんでもない量の現金とはどのくらいなのだろうか???


 ふと俺は思い出す。机の上を眺める。


 そこには綺麗な文字で一行。





















『 金 持 ち に な り た い 』




















 そうか……このノートは……『自分の物語』を作るんだったな。


 作られる側が唯一作る側になる方法。それこそがこの『自分物語』


 これは――この状況は俺が作り出したというのだろうか???




















 俺は台所に行って刃物を握る。




















 俺はふと我に返る。


 彼ら……以前『自分物語』を書いた人間達はどうなったのだろうか???


 物語と言うのは作り続けなくてはならない。じゃあなぜ彼らは作り続けないのか???













 あるいは 作 り 続 け ら れ な く な っ た の か ? ? ? 















「……あ……」









 俺はそこで初めて気が付いた。


 物語を作るというのは作成すること、つまり俺が世界を壊そうと思えば壊せたわけだ。




















 男の姿は消えてそこにはアタッシュケースだけが残っていた。



















 ●



















 アタッシュケースを開くとそこには一万円札の札束がぎっしりと詰められていた。


 そしてその真ん中に一枚のメモ用紙が乗っけられている。どうやら何かの地図らしい。








「んー……警察の人は『とんでもない量』って言ったけどこの中には大体1000万位だな。




 となると他の現金の隠し場所か???」









 あー……考えるのがめんどくさくなってきた。


 ふとテレビをつけてみる。報道番組がやっていた。






















『闇に消えた年金!!! 8億はどこに!?』
























 そうか……物語とはこういう風に作られていくのか。どこかで歪んでもこうやって修正されて……。


 小説を作るとは――こういう事なのだろうか。


 となると人生すら物語なのではないか???


 そして作る側と作られる側。俺とあの男のように。


 物語でも登場人物紹介には決して現れることの無い人間。俺はそれを作り出したのか。










「じゃあ、彼らは俺の人生の為に作られた人間だったのか??? 




 んー……やっぱりこういうのは苦手だな」























 貴方は作る人間ですか???


 私は作られる人間です。


 私は誰か――作る側の誰かの人生の為の登場人物にしか過ぎません。


 それが感動で勇敢な物語なのか。それとも残酷で歪みきった物語なのか。


 さて貴方は……???























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