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もし一介の高校生たちが異世界に行ったら  作者: ライカ
三巡目 コミュニケーション
8/8

北見楓「私の武器はないのか?」

 昌に運ばれてからしばし気絶するように眠った。目を覚ましたのは、太陽の高さから察するにほぼ真昼だった。自然と目覚めたわけではなく、サラ含め数人の女性が部屋に入ってきたので起こされたのだ。村長夫人もいる。彼女らのうちある人は衣服を、ある人は謎の箱(おそらく化粧道具だ)を持ってなぜか戦いに臨むような風貌をしていた。

 なんだか身に覚えのある状況だ。具体的に述べると、かつて双子の妹がこんなことをしていたような気がする。

『楓姉さん、ちょっと人形になってね!』

『え……?』

『たまにはかわいい服を着て、メイクもして、ヘアアレンジも、ね!』

『桜、ちょ、何をする!』

 私が思わず遠い目をしてしまったのも、致し方のないことだと納得してほしい。ふむ。

 しかし妹は私と違って儚げな乙女であったし、目の前の女性陣は逞しそうだが恩ある女性たちだ。結果なす術もない。着飾るのは好きではないし、それに執念を燃やす女性は古今東西はおろか世界まで超えて恐ろしいが、忍耐の二文字に限る。


 ん、待て。なぜ私は着せかえられるのだ?



 ざっと見た所村長夫人と同じくらいは上等な衣服に、花飾りまで付けられた。もちろんここ数日入浴などしていない体中を絞った布で拭われたし、髪も桶で洗われた上に丁寧に結いあげられている。抵抗すると肩が痛い。自分の顔面が妹とそっくりであることを考えるに、黙ってさえいればそこそこの少女に仕上がっているだろう。

 さて、私がこの先迎える事態について、いくらか考えようか。


一、生贄――って、怪我人を出していいのか?

二、売却――あまり考えたくないな。皆優しかったから。


 いや待て、なぜこうも悲観的になるのだ。楽観もしてみよう。


三、誰か偉い人に会う――村長夫人を身なりを整えているから、あり得る。


 では三を広げよう。


甲、異世界人だとばれた――どうやって?

乙、領地に不審な子供が!――ご苦労様です。

丙、なんかお忍びで来るらしいから、ついでに紹介しておこう――じゃあなんで飾るんだ。


 結論、不明。私は思考を放棄することにした。


 髪を結われたのでたぬき寝入りを決め込むわけにもいかず、ベッドに腰掛けてぼんやりしていた。すると、やはり身なりを整えられた昌と治樹が、村長に連れられてやってきた。村長と村長夫人がなにやら話し合いを始めたので、日本人も三人集まって相談を開始する。文殊もんじゅの知恵は期待できないが。

「楓、似合ってるよ。化粧も綺麗だ」

「どうも。で、この状況はどう見る?」

「おい楓、その流しっぷりはいくらなんでも治樹がかわいそうだぞ」

「もういいさ……。まあ、誰か来るんだろう。貴族か、騎士か、そんなんが」

 落ち込んだ原因は分からないが、治樹も立ち直ったようでなによりだ。ついでに開き直ったようだが。

 一応二人に、私が今まで考えていたことを話した。すると昌は首をかしげた。

「誰かに会うとして、楓の飾り具合だけが断トツだな」

 私は生贄案と売却案を思い出して、目眩がした。せっかくベッドの上なのに、倒れこめないのが無念だ。

 だが治樹が昌に「おい」と咎めるような言い方をしたことで、その不安は幾分か和らいだ。

「おそらくそのお偉いさんと面会するのは、村長夫妻と俺たちだ。楓だけ花飾りがあるのは、一人だけ未婚女性だからかもしれないぞ。日本でもそうだっただろう、大振袖とか」

「詳しいな」

 昌が感心していたが、それくらいは私も知っている。

「ならば、身なりを整えてもらえるだけ感謝しておくべきか」

 私が提案すると、昌は賛成した。

「それが一番気楽だな」

 治樹は窓を開け、靴紐を結び直していた。楽観を最初に示しておいて、逃げ道もしっかり確保しておくらしい。治樹が開けた窓の外を何気なく見ると、竹刀くらいの長さの木の棒が二本、軒下に立てかけてあった。

「本当はくわかまが欲しかったけど、怪しまれるから」

 治樹は寂しそうに笑った。恩ある村人を信じ切れない葛藤が、そうさせるのだろう。賢い治樹は、良くも悪くも沢山の展開を想像できる。その才能は決して、安易に羨んでいいものではないのだろう。人に分からない所まで分かるのは、功罪の両方を持ち合わせる。

 私は昌に目配せし、二人して笑った。

「治樹、私の武器はないのか?」

「草原を逃走したら体育倉庫で目を覚ますかもな」

 これが空元気だというのは、ばれて当然だ。しかし、強がっているうちに強くなれることとてあるだろう。現に治樹も、無理に笑ってくれた。


 大丈夫だ、と自分に言い聞かせる。走れなくとも、頭は働くから。頼れる友人が、二人もいるから。

 いざとなったら桜、姉さんを守ってください。これは意味があるのか本当に分からないが、妹にも内心で頼んでおいた。

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