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北見楓「ここは、どこだ」

召喚とかトリップとか言うよりは、神隠しとか言った方が近いかもしれません。ただ迷い込むだけの話です。説明は誰もくれません。

 さて、ここはどこなのだろうか。


 私の記憶が正しければ、私は友人たちの陰謀で体育館倉庫に閉じ込められ、暑さで意識が朦朧としていたはずだ。となると、病院か保健室にいなくてはおかしいはずだ。なのにどうして、セーラー服のまま草原に寝ているのだろうか。なんだか風が心地よいぞ。

 そして隣でぶっ倒れている二人の少年は、私と共に倉庫に入ったやつらだ。二人とも顔が熱中症っぽい。片方は剣道着、もう片方は野球のユニフォームを着たままだ。竹刀とバットも近くに転がっている。


 あれ、このままっといたらまずいのでは……?


 屋外なので風はあるが、夏の太陽はじりじり照り付けている。これはまずい。熱中症って死ぬこともあるのだから、意識のある私が何とかしてやらねば。

 さて、草原である。


 右を見てみよう。

――草原が続いている。正面然り。


 左及び後方を確認せよ。

――森っぽいところである。なんだかRPGゲームに出てきそうである。とりあえず、日陰だ。


 私のとるべき行動は決定された。

 とりあえず、より重症っぽい野球部を引きずって木陰で仰向けにする。首もとのボタンを一つ外しておいた。次に剣道部も同様にして、きつく結ばれていた腰元の紐を緩めておく。無論、応急処置の一環である。何故私が好き好んで野郎をかねばならんのだ。


 おや、森の奥から水音がする。水を確保するか。



 さてはて、いい加減自己紹介を済ませておこうか。私の名は北見きたみかえで。一介の女子高生である。部活はやっていない。背は同年代の女子に比べれば高いが、細くはない。顔は普通の日本人で、黒縁眼鏡を常に着用している。喋り方が古臭いのは、単なる癖だ。

 一応少年たちの方も紹介しておこう。

 野球部は田上たのうえ昌平しょうへい。我が幼馴染である。将来の夢は実家の農業を継ぐこと、という優良少年で、私のクラスの女子に言わせると、イケメンらしい。本人は2.5枚目(二枚目と三枚目の中間)と自称しているが、最近見たアメリカ映画の主人公にあこがれ、目下ハードボイルドの修行中である。背は私と同じくらい、つまり男にしては低い。

 剣道部のほうは昌(私は田上昌平をそう呼んでいる)の親友で、必然的に私の友人となった、井上いのうえ治樹はるき。高校で知り合った。文武両道の天才で性格も良いが、残念なことに顔は普通、とクラスの女子連中が言っていた。背は高めである。昌同様クラスの女子目線で紹介するのは、単にこの二人がもてるからである。

 ちなみに三人とも、高校二年生だ。

 以下割愛とさせて頂く。



 苔むした倒木やら何やらの先には、予想通り水の清涼な小川があった。

 ここで問題が浮上する。

 水筒がないのだ。竹刀やバットはあったのに。


 しばし思案する。ここで私の取り得る選択肢は……。


一、セーラー服のスカートを脱ぎ、そこに水を染み込ませる。(短パン着用中)

二、野郎どもの服をひん剥いて同様にする。

三、野郎どもを叩き起こしてここまで連れてくる。



 一は女として、二は人間としてどうかと思う。しかし、引きずっても起きなかったやつがここまで歩けるとは考えづらいので、三は難しい。ふむ、どうしたものか。


四、野郎どもをここまで担いでくる。


 いや、無理だ。そんなことできるならさっきやった。


五、入れ物になりそうなものを探す。


 無い。


 仕方が無いから、一を選択する。ついでに上のセーラー服も脱いでしまって、Tシャツ&短パン姿になった。これなら変な格好ではないだろう。




 呼吸が普通になった二人を見て、安心した。私が飲んだスポーツ飲料は治樹のもので、脱出方法を探して動き回ったのは昌だったのだ。これで死なれたら、私は一生自分を責めていくことになっていただろう。そんな存在は三人も要らない。一人だって欲しくはなかった。


 軽症だった剣道部の治樹が目を覚ました。ゆっくりと体を起こして、私を見つけると尋ねた。

「ここは……?」

 掠れているが、いい声だ。そして質問が的確だ。

「知らん。体調は?」

「頭が痛い。それと、視界がぼやける」

「では、ここで昌を見ていて欲しい。水を持って……来たくないから、やっぱり昌が目を覚ますまで待ってくれ」

 流石に、スカートを絞った水を飲みたくはないだろう。



 微妙な空気の中数分待っても、昌は目を覚まさない。呼吸も再び乱れてきた。

「楓、なんとかならないか?」

 治樹は自分もさっきまで倒れていたのに、心配そうにしている。

 どうして私の判断を仰ぐのか今ひとつ理解できないが、いくら天才でも熱中症の病人だ。私が頭を使うとしよう。

「君がどこまで動けるかによって、取り得る手段が変化する」

「具体的には?」

 真剣な目だ。

「近くに小川がある。昌を運んで欲しい」

「問題ないよ」

「そうと決まれば急ぐが、君も無理はしないこと。いいな?」


 私が懇親の力を込めても持ち上げられなかったのに、治樹は昌を普通に持ち上げた。なんだか悔しい。

 ……意地を張っても仕方ない、治樹を小川まで案内せねば。




 塩でもあればよかったのだが、確保できるのは生水だけだ。飲ませてしまってから、脱水症状の上に腹を壊すとか洒落にならん事態が予想された。

 昌は昔から胃腸が丈夫なやつだったから、気にしないことにしよう。こういう場合は何もしないのが最低なのだ、と言い訳をして。


 昌も目を覚ましてくれた。


「楓、治樹……ここは?」

「知らん」

「分からない」



 一難去って、最初の問題に立ち返る。


 ここは、どこだ。

昌平と治樹がかかっていたのは、熱中症ではありません。熱中症への対応を真似しないようにお願いします。

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