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風の縁(えにし)

 ガサッ ガサッ



 音はどんどん大きくなる。

 その場にいた一人の女の子は恐怖でその場から足が動かない……



 ガサッ ガサガサッ



 目の前の背の高い草が揺れ、割れた……

 女の子の目の前に現れたのは、女の子が思っていたものとは全く違う、

 綺麗な男の子だった……


 二人の目が合った瞬間、


 二人の周りを包むように強い風が吹いた。





 ……そして、女の子はその場から姿を消した……









「ねえ、朔良(さくら)はいないの? 好きな人」

 高校生の女の子達の話題はいつも恋愛話。

 朔良は小さく笑う。

「いるよ」

 周りの女の子達が色めき立つ。

「誰!?」

 ショートカットの髪を揺らしながら、佳代が朔良の顔を覗き込む。

「この学校にいるの!?」


 朔良はこれまでこの手の話は避けてきた。

 辛い記憶を鮮明に思い出したくなかったからだ……


(でも、今日はなぜだろう…? いつもよりも幸せな気持ちになれる…辛さがあまり感じない…?)


 朔良は窓の外に視線をやった。

 真っ青な空に緑の葉がとても綺麗に映えている。

 フワッとした柔らかい風がその緑の葉をゆっくりと揺らす。

(あの日と同じ、とっても綺麗な空気が流れてる)


 朔良は佳代に視線を戻し、少し寂しそうに笑った。

「ううん、ここにはいないの……もっとずっと遠いところにいるの……」

 朔良はそれ以上口を開かなかった……








 ……一年後、姿を消した少女が戻ってきた……

 ……少女を守るように吹く柔らかい風と共に……

 ……何の前触れもなく、いなくなった時の同じ姿のまま……

 ……ただ、瞳の色がワインレッドに変わっていたことを除いて……








 いつもの夢。

 切ない、切ない、

 心が張り裂けそうに痛くなる、

 いつもの夢。


「会いたいよ……(はる)……」

 朔良のワインレッドの綺麗な瞳に涙が浮かぶ……




 あの夏祭りの夜。

 朔良は男の子と出会った。

 朔良といくらも齢が変わらないように見える男の子。

 名前は榛といった。

 いつも寂しくて泣いていた朔良にいつも優しく接してくれた男の子。

 ……そして、朔良を助けてくれた男の子。

 朔良はずっと待ち続けている。



 榛の言葉を信じて。

 榛に会えることを信じて……



 騒がしい朝礼の前のいつもの光景。

 先生が前のドアから入って来る。

「おはようございます」

「おはよう。朝礼を始めます」

 生徒の挨拶に、先生が返す、いつもの光景。

 そして、朝礼が始まる…

「今日はまず、転校生を紹介します。入って」

 先生に促され、転校生が入ってくる。

 いつもと違う、光景。

 その姿を見て、クラスがざわめく。


 色白の肌に朔良と同じワインレッドの綺麗な瞳。

 それに掛るサラサラストレートの黒髪。

 口角は少し上がり、厚くも薄くもない唇。

 優しさがにじみ出ているその姿は、

 かっこいい、ではなく、綺麗、といった形容がしっくりと馴染む。


 女の子達からはため息が漏れている。

「つむぎ 榛です。よろしくお願いします」

 高すぎず、低すぎず、聞き心地の良い声。

 榛がニッコリ笑う。


 ……カタン……


 朔良が立ち上がる。

 クラスの視線が一斉に朔良に向けられた。

 何が起こったのか、信じられない表情をしている朔良。

 徐々に朔良の瞳に涙が浮かんでくる。

「遅くなってごめんね」

 その瞬間、


 朔良のワインレッドの瞳から大粒の涙が溢れた。

 クラスがざわめく。

 榛は朔良に向かって歩き出す。

 朔良はその場に固まってしまったかのように動けない。

 榛が朔良の前に立つ。

「昔と変わらないね、朔良。泣き虫のまま」

 榛が昔と同じように朔良の涙を拭った。

「……は……る……?」

 絞り出すように朔良が榛の名前を呼んだ。

 榛はフワッとした優しい笑顔を朔良に向ける。

「会いたかった……ずっと会いたかったよ……榛……」

「うん、僕もずっと会いたかった……朔良」

 そして、二人はお互いを確かめるかのように、しっかりと抱きしめ合った。





(榛、ずっと傍にいてね。これまで離れてた分もずっと……)

(朔良、ずっと傍にいるよ。これまで離れてた分もずっと……)









 いかがでしたでしょうか?

 私の初めての投稿作品です。


 こういうコテッとした恋愛の話が読みたくて、

書いてみました(^^)




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― 新着の感想 ―
[良い点] 内容に複雑な点がなくて 短編!って感じがして読みやすかったです。 [一言] 初めまして。 初投稿… どこかで本を出されている方ですか?! すごく書き方が上手いですねッ 「ワインレッドの瞳…
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