一手目 りゅうま!
パチ。パチ。と盤上の上木と木が擦れるこの音が好きだった。
知恵比べが好きだった。ただし、ちょっと複雑だったけど。
勝ってたら嬉しくて、負けたら悔しくて、
次こそは勝つ!って思えたあの頃が好きだった。
本当に........好きだった。
夏は暑い。......当たり前だ。
もし暑くなかったら夏と呼んでいないのだから。
だが、それにしても暑い。暑すぎる。
小学生くらいの時30℃が出ただけで暑いとかいっていたが、
今の世界の40℃がわりかしポンポンと出る今の世の中を見れば、
どう思うのだろう。
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「夏休みだってのに、高校に通わないといけないのバグだろ。」
と自転車を押しながら坂道を登っていく。
俺の通っている高校は、夏休みの期間
午前中、一般の人でも利用できるように図書室が開放されている。
だが、夏休み中、9時から12時までの三時間働いてくれる司書などいる訳もなく。
そこで、俺たちの文芸部に白羽の矢が立ち、
おかけで、今!まさに!絶賛として!学校に向かっている訳である。
といっても、貸し出しとかしてはいないので、
困った時に一緒に本を探すのを手伝ってあげる。
ってぐらいしかないので、
実際はエアコンがとびっきり効いてる
部屋で自習できるとかいう最高空間。
学校の前のバカみたいな急な坂を除けば.......だが。
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学校に着くと、8時50分と時計の針が示していた。
ギリギリセーフ、と考えながら、
下駄箱からスリッパを取り出し、外履をしまう。
廊下を淡々と歩いていると、図書室の前に人影があった。
まだ早えーよと、毒を吐きつつ、
「どうかされましたか」とできるだけの作り声と笑顔で接する。
近づいていくと、日本人離れした髪色を持っている少女がいた。
銀髪に茶色の目。
「あのっ、.......もう空いてますか?」
「はい。今から開けます!」
前日の当番に渡された鍵を図書室のドアに突き刺し、
ガチャとなるまで、鍵を回す。
そそくさと、図書室に入っていく少女は平べったい.......何かの板?を抱え込んでいた。
チラッと視界に入る。
ーーーー将棋盤だ。
朝から見たくないものを見てしまった気分に陥る。
今日は本当に最悪な日になりそうだ。
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ちょっとづつ図書室の利用人数が増えてくる。
(ちょっとうるさくなってきたな)
注意するのが正解なのか?ご愛嬌と思って待つのが正解なのか?
これで先生たちに後でグダグダと怒られるのもごめんなので、
注意するために立ち上がる。
多くの人.......特に声を出している人は自習用の机の周りに円陣のように囲っている
何かの談笑だろうか?
頼むからこんな場所でやらないでくれ。心の中で呟きながら、
自習用の机に向かって歩き出す。
ーーーパチ、パチ。
と乾いた木と木のぶつかる........擦れる音が聞こえる。
この音を俺は知っているし、そして一番嫌いな音でもある。
自習用の机の上には、
ーーーー銀髪。
先ほどの少女と大人と将棋盤が存在していた。
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「負けました。」「ありがとうございました。」
大人と少女の対戦が終わる。
勝ったのは.......少女の方だった。
二枚落ちなのに、余裕勝ちだな。
とつい自分が思ってしまっていることに気づく。
もう将棋は、やらーーー
「あの、邪魔でしたか?」先ほどの、そして今将棋で勝った少女が聞いてくる。
いかんいかん、とすぐに営業スマイルに戻しながら
「ちょっとだけ声を抑えてくれると........」
「あわわわ、すみません。あと、一局だけなんですけど?」
「いや、声を抑えていただければ大丈夫ですよ。帰らなくて」
ちょっと高校生が言っていい発言ではないような気がしながらも、
そう答える。
「ところで、鳴田 柳真さんって方をご存知ありませんか?」
将棋盤を見た時から憂鬱だったが、今はもっと憂鬱だ。
なぜなら
ーーーー鳴田 柳真という人物は俺の名前であるからだ。
俺の表情を察したのだろうか?
「もしかして、あなたがそうなんですか?なら、一局指してもらえませんか?私と」
少女が何か含みがある笑顔をこちらに向ける。
つい、ウゲッ的な顔をしてしまう。
"指してくれないんですか?"的な顔でこちらをみてくる。
そんな顔をするな。俺は将棋をやめたんだ。将棋盤を見るだけで憂鬱なんだ。
「そうだぜ兄ちゃん。暇ならさしてやれよ」
さっき負けた大人の人が言う。
(五月蝿いな。)つい思ってしまう。
もう将棋はやらないと決めたはずなのに、
なんだこの気持ちは.......
ーーーー指したい。
つい、思ってしまう。
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嗚呼、こんなこと本当ならいうはずなかったんだけどな.......
「いいですよ、やりましょう。将棋。」つい口走ってしまう。
本当に.......大っ嫌いだ。
そして、大好きだ。
(将棋は初心者なので多めにみてください。)




