表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
25/35

第25話 封じられた光の名


午後の陽が傾きはじめる頃、カイは診療所の前に立っていた。

リアを家まで送り届けたイファと待ち合わせをしていたからだ。


ほどなく、イファが軽く走って戻ってきた。


「無事に送り届けたか? リアちゃんの様子はどうだ?」


カイが確認するように声をかける。


「はい。今は落ち着いてます。今日は、僕らだけで話をして、ある程度情報が集まったら、リアにもゆっくり、伝えていきましょう」  


イファの声は静かだが、決意を帯びていた。

カイは頷き、イファの肩を軽く叩いた。


「賢明だな。よし、じゃあ、行くか」




扉を開けると、薬草と消毒液が混じった独特の香りが鼻をかすめた。

カイは、受付に座る年配の女性に声をかける。


「すみません、警備隊隊長のカイ・ロウェルです」


「あら、ロウェルさん。イファくんも一緒なのね」


イファが軽く会釈をすると、その女性はニコリと微笑み、「どうしたの?」と聞く。


カイはいつもの笑顔で言った。


「お昼休憩の時間ですよね。突然すみません。実は、ジュード先生にお聞きしたいことがあって伺いました」


「先生ね。ちょうどさっき、午前中の診療が終わったところだから、まだ診療室にいると思うわ。声をかけてみるから、ちょっと待っていてくださいね」


「助かります」


カイが礼を言い終えると、女性は診察室へ向かった。

二人は待合室の椅子で座って待つ。


すると、数分も立たないうちに、女性が戻ってきた。


「お待たせしてすみませんね。その扉から、どうぞ入って。」



カイは女性に会釈すると、白い扉を控えめにノックした。



扉の中から落ち着いた声が返ってくる。


「──どうぞ」


診察室へ入ると、奥の机でジュード・セイランは何かをカルテに記入していた。

だが彼は、すぐに手を止め、穏やかな微笑みをこちらへ向ける。


「どうも。カイ隊長にイファ君」


「こんにちは」


イファとカイは丁寧に頭を下げる。


ジュードが笑顔で促した椅子に二人は腰を下ろした。

そして腰掛けた二人の真剣な表情を見て、ジュードはひとつ呼吸を置いた。


「……さて、診察、ではなさそうだね」


ははっと軽く笑うジュードの柔らかな雰囲気に、イファは安堵して

「少し、相談があって来ました」と言った。

ジュードはゆっくりと、落ち着いた口調で言う。


「……リアさんの件、だね?」


イファは、小さく頷いた。


「はい。先生……今現状でわかっていることをお話します」




カイとイファはここ数日の出来事を順に説明した。



探査機の発見、火事でリアが光ったこと、それが記録されていたこと

──そして、思い当たる、

その光の名。


ルクシミウム。



ジュードは、最後まで黙って耳を傾けていた。



「……なるほど」



やがて、ジュードは小さく息を吐き、机上の生ぬるくなったコーヒーを見つめた。


「ルクシミウム、か……」


「先生はよくご存知ですよね?」


カイが鋭く問いかける。


「断片的にね。私も軍医時代に、少し耳にした程度だよ。とはいえ、軍関係者の中にもルクシミウムの影響を受けた人が何人かいてね。自分なりに色々調べたんだが、正式な資料は上層部に封印されていて、詳細までは知らされていない」


ジュードは言葉を選びながら、静かに続けた。


「発見当時は、新世代のエネルギー源として大いに期待されていた。一方で、その莫大なエネルギーは“危険な未完成品”とも囁かれていたんだ」


「危険な未完成品……」


「もちろん最初は、科学者も我々国民も、この発見が、人間の生活を豊かにすると信じていた。しかし、このヴァストラ帝国との冷戦状態ではね。爆弾……つまり人を殺す道具として使えるのではないかと考える人もいた。国や軍が兵器として利用しようと動いたのも事実なんだ。……それが、抑止力となり、この戦争を早く終えることができるのでは、とね。でも、その“光”が何をもたらしたのか見てきた私には、到底、人の手に負えるものとは思えないんだ……」


「……父が残した記録にも、断片的に似た記述がありました」


イファが小さく呟くと、ジュードは優しく見つめる。


「そうか……君の父上は、ルクシミウムに関わっていたんだね……」


一瞬、部屋の空気が重く静まった。



「……問題は、今そのルクシミウムが、何らかの形で、再び動き始めている可能性があることだ」


わずかに声を落としてジュードが続ける。


「ただ、リアさんとの関係は、まだわからない。ルクシミウムは、あの事件以来、研究も使用も厳しく制限されているはずだからね」


イファは拳を握りしめた。


「断定はできないが──青白い光となると、ルクシミウムの可能性は高いと思う。ルクシミウムの影響で、嘔吐や下痢、血液障害が起きる人、後遺症で目に異常が出る人などがいることは近年の論文でも明らかにされている。ただ、リアさんの場合はね、記憶障害だ。ましてや青白く光るなんて症状は聞いたことがない。申し訳ないが、彼女の中で何が起きているのかは、今の私の知識では説明がつかない」


カイは腕を組み、小さく呼吸を落とす。


「やはり……」


「カイ隊長?」


イファが振り返る。


カイはゆっくり首を振った。


「……いや、何でもない。この件は慎重に情報を集めていこう」


その言葉には、緊張が滲んでいた。

イファが頷くと、二人を見ていたジュードが言った。



「リアさんには、今は無理をさせるべきじゃない。君たちの判断は正しいと思う。ルクシミウムとなると、わからないことが多すぎるからね」


「……はい」


「これから先、真実を知れば知るほど、イファくん、君自身の立ち位置も、考え方も、揺らぐかもしれない。何を信じて、どう選ぶべきか……その重さに、向き合うことになるだろう」


その言葉は重く、イファの心にしっかりと響いた。

イファは拳を握って頷いた。


「また何かあれば、いつでも訪ねてきなさい。私にできることがあれば、何でも協力する」



二人は、ジュードに丁寧にお礼をすると診療所を後にした。




じめっとした空気が肌にまとわりつく。


曇り空の下にはノースフィアの午後の町が静かに広がっていた。


イファとカイは無言で歩き出す。



胸の奥に、それぞれ新たな決意を宿しながら──



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ