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悪魔使い


 異世界生活20日目。俺・千冶・師匠の3人は、指定された待ち合わせ場所である食事処で、料理をつまみながら一緒に依頼を解決する人を待っていた。リル先は遠くの場所で別の依頼をこなしている所為で、この依頼に同行出来なかったのだが、その代わりに魔具の籠手をわざわざ人数分製作して俺達に渡してくれた。効果としては、身体にかかる衝撃の緩和、身体機能向上等等々……結構ハイスペックだな。


「──悪魔利用者マルコーシア、ね……悪魔ってあれか、あの気持ち悪い人面キメラ」


「そーそー。何かしらを代償に捧げることで、願いを1つ叶えてくれる奴。けどまぁ、悪魔使って願いを叶えることがそもそも違法行為……ってのも、大昔に悪魔を使った奴が国1つ滅ぼしたらしくてな。そっから色んな国が規制をかけたらしいぞ」


「ほーん……思ったんだけど、俺らそれで元の世界に戻れんかね?」


「何差し出したらその願いと同価値になるかだな」


「……はー! クソシステムじゃねぇか」


「だから禁止なんだよ。それに、見ず知らずの他人を騙して、悪魔に願いを叶えさせることだって出来るわけだしな」


「ははぁ、それで利用者や悪魔を捕まえるためにギルドや衛兵に協力要請が掛かったわけか……にしても中々来ないな。早く着きすぎたんじゃね?」


「待たせるよか良いだろ」


「いや、師匠がさ」


「……分かってる。それ以上は──」


「ん? 私がなに?」


「「いえいえお構い無くー」」


 積み上げられてゆく皿に横目に、リル先から渡された財布の中身を確認し──そっと閉じた。3日分の食料を1日で完食してしまったが故に、この中身でやりくりしなければ……ホント、あの身体の何処に成人男性6人分の料理が入っているのか、全然分からない。2人して目の前の光景に戦慄していると、師匠は料理を口に運びながら顔を横に向ける。釣られて俺達も其方へ振り向けば、そこには中折れのフェルトハットを身に付けている無精髭を生やした男が立っていた。


「食事中すまんな。俺は悪魔契約対策国際刑事警察連盟機構のエルドだ。アンタらが今回の依頼を受けてくれたギルドの構成員か?」


「うん。私、シクリィ。Cランク。よろしく」


「千冶です、ランクはD。よろしくお願いします」


「……鉱簾、ランクFです。よろしくお願いします」


 悪……なんて?文字列だけで考えるのならば、悪魔と利用者を追ってる組織の正式名称とかだろうか。随分と長いな。


「ああ、よろしく頼む。それで今回の依頼だが、逃亡中のマルコーシアがこの街に逃げ込んだという情報を掴んだ。特徴は、藍色の髪に俺と同じぐらいの体格で全身に切り傷、右目を眼帯で隠した男だ。アンタらにはマルコーシアの捜索を手伝って貰いたい。ただし今回の依頼は最悪の場合、荒事に発展する可能性がある。悪魔とは既に離れたようだが、奴は腕利きの荒くれ者だ。その上、協力者が4人も居るらしい。十分に注意してくれ」


「わかった。それで、何処を調査するの?」


「スラムで目撃例が複数件報告された。俺とアンタらで聞き込み調査をしようと考えているが、異論はあるか?」


「「「無い」です/ッス」」


「そりゃよかった。早速だが移動するぞ、準備しとくれ」


 良かった。一体どんな人が来るか不安だったが、なんだかんだ良い人そうだ。会計を済まして食事処を後にする。そうして街中を歩き始めたが……


「あの、スラムはこっちですよ?」


「ありゃっ、す、すまんな。こっちか」


 彼はビクッと身体を固めて飛び上がった後、恥ずかしそうに方向転換する。大丈夫だろうか、この人……





 入り組んだ道を歩き、スラムへと足を運ぶ。大通りには露天が立ち並んでおり、相変わらず騒がしい場所である……お、あの子は──


「あ、アンタ達、あん時の……」


「うん、元気そうで良かった」


「おー、久々……ちゃんと飯食ってるみたいで安心したよ」


 見知った顔を見かけ、思わず声をかけた。先日出会った少年だ。未だに若干痩せているものの、この前と比べて顔色が明らかによくなっている。後ろに居るのは……話していた弟妹かな?


「あん時は……その……物盗んでごめんなさい。そ、それで! アンタ達に紹介して貰ったとこで働かせてもらって……なんとか金も手に入ったんだ! あん時のお返しがしたい!」


 震える声で話す少年の姿に思わず感動した。そうかそうか、この数日でこんなにも立派になって……おいは嬉しか……!


「それなら、聞きたいことがある」


「聞きたいこと?」


「そう、探してる人がいる。藍色髪の、この人と同じぐらいの体格で全身に切り傷がある右目を眼帯で隠した男。危険人物。見たことない?」


「……お前ら、そういう特徴の奴に見覚えはあるか?」


「無いよにーちゃん」

「「なーい」」


「……そっか。ごめん、俺も見たこと無い……あっ、そうだ。あいつらなら知ってるかも」


「あいつら?」


「うん。あの大きい廃墟に住んでる奴らは、スラムで色んな仕事してるんだ。もしかしたら何かしら分かるかもしれない」


「そう、分かった。ありがとう。じゃあね」


「あ……ま、また会ったら、そん時は……あのパン。倍の量用意して渡す! ありがとう……ございました」


「うん、美味しいの期待してる」


 そうして少年と別れ、少年が指差した建物へ歩く最中、完全に空気となっていた千冶が俺らへ向けて口を開く。


「……お前ね、まーたお節介焼きなんかしてんのか。師匠もお前もアイツ等も、やるなとは言わんが、せめて余裕ある時にしてくれよ。ホントそういうとこだぞ」


「なんだよー、お前だって困ってる人が居たら助けたくなるだろ?」


「すまんが、オレはお前が思ってるほど出来た人間じゃ……あ? なんか騒がし──ちょっ!? 師匠ストップ! アレは介入しちゃいかん奴です……!」


 前方から騒ぎ声が聞こえてくると同時に、走り出した師匠を、千冶がなんとか全身を使って止める……それでも尚ジリジリと前進を続けているので、そんな見過ごせないような事があったのかと疑念が生まれ、エルドさんと共に騒ぎの中心へ急ぎ走る。

 騒動の中心にはスラムに似合わない煌びやかな格好の塩顔イケメンと、それを囲む武装した数人の兵士が6人の少年少女を痛め付けていた。感情のまま殴り掛かろうとする気持ちを抑え、周囲の反応から状況を推察する。


「……貴族の嫡男の物を盗ったのがバレて、護衛が子供達を痛め付けてんのか。うんちょっとアイツ等殴りに行って良いですかいややっぱ行きますね」


「このおバカ! 確かに武装した大人がよってたかって子供達傷つけてんのに怒るのは分かるが、今回悪いのは子供達の方だ! 関係無いオレ達が割って入るのは違うだろ……! 師匠もお前も落ち着いてくれ! 不味いから! 貴族に喧嘩売んのはマジヤバいから!」


 俺は背後から迫ってきた見えない何かに掴まれ、動きを止められた。千冶が俺と師匠を魔法と力でなんとか抑えている最中、エルドさんが貴族の男へ近づく。護衛はその様子に気付き、エルドさんを囲むように動いて彼に静止を促した。


「止まれ。何の用だ」


「ああ、私は悪魔契約対策国際刑事警察連盟機構のエルドだ。その少年少女は事件の重要参考人。取り込み中申し訳ないが、彼らの解放を要求する」


「ふざけるな! この御方を誰と心得る! 侯爵であられるイキシア様の嫡男であらせられるぞ!」


「この薄汚い盗人共は──「待て」──ハッ!」


「ふむ……あい分かった。解放しよう」


「宜しいので?」


「この私に2度も言わせる気か?」


「──ハッ! 申し訳御座いません!」


 重そうな鉄鎧を纏った護衛は、急ぎ少年達から離れて塩顔イケメンを背に円形に広がる……冷静になり護衛の動きを見れば、性格は兎も角として、相当な実力者だと分かる。もし殴りかかっていれば俺は取り押さえられていただろう。


「邪魔したな。事件捜査頑張りたまえ」


 偉そうな貴族の嫡男は、そう言い残してキャビンへ乗り込み、馬車は──いや、あれは馬じゃなくて大きなトカゲか?──護衛と共にこの場を去っていった。


「ぅ……」


「……まて、無理に動くな。シクリィくん、コーレンくん、チヤくん。子供達を移動させる、手伝ってくれないか」


「……うん、任せて」

「ウッス……」

「はい」


 少年少女へ痛みのない回復魔法を掛けつつ、人気のない通りまで運ぶ。傷は治っても、付いた血までは無くせない。魔法で水を出して軽く洗ってやれば、彼らはようやく口を開き感謝を述べた。


「あ、の。ありがとう……」


「いやなに、君達には聞きたいことがあってな。気にせんとくれ。それで、聞きたいことなんだがな、藍色の髪を生やした全身に切り傷のある男を知らないか? それと、右目に眼帯をしているんだが」


「あ、そいつなら俺知ってるぜ……!」

「私も知ってるわ」

「おれも!」


「本当か! ソイツはどこら辺で見掛けたのか教えてくれないか?」


 少年少女は口々に発見場所を報告してゆく。しかしどれも抽象的で分かりづらい場所ばかりだ。ううむ……


「そうだ『マップ』!」


 この辺りはギルドの清掃依頼や、師匠との掘り出し物探しでよく足を運んでいる。なので街並みを想像することは容易い。だから魔法で粘土を生み出し、形を変えて想像した街並みを再現……これぞ、なんちゃって都市模型!


「おおー!」

「すげー」

「ここ住んでる所だ!」


「お前相変わらず器用だな」


「うん、便利」


「魔法……いや今は有難い。何処の辺りかもう一度言ってくれないか?」


 ドヤァ!称賛の声が心地よい……少年少女が指差した場所に印を付け、全て付け終わったら粘土を固める。よし、これで捜索マップの完成だ。


「うむ、協力感謝する! ……報酬と言ってはなんだが、コイツを皆で分けると良い」


 エルドさんは背負鞄から大きな木箱を取り出して少年少女へと渡した。渡された木箱を開けると、中にはスライスされたパンやチーズ、豆の炒め物などが入っていた。少年少女と師匠は木箱を囲い、目をキラキラさせて中身を確認する。彼らは改めて感謝を伝え、この場を去っていった。さて、発見例は沢山あるし、まずはそこを手分けして調べるか……といったところで、何処からか聞き馴染みのある腹鳴が聞こえてきた。


「……勇者の出身地には、腹が減っては戦が出来ぬという諺があるらしい。どうだ、飯にせんか?」


「賛成!」


「そッスね。それじゃあちょっと早いっすけど……」


「だな。とはいえ飯処は近くにないし、持ち運んでる食料だけになるけど」


 袋から食料品、干し肉やチーズ、パンなどを取り出して3人で分ける……あれ?


「エルドさん食べないんですか?」


「む……お、俺は腹が減っとらん。気にせず食べとくれ」


「…………」


 1つのパンを持ってエルドさんの前で動かせば、目線はパンを追う……成る程ねぇ。


「沢山ありますし、よければどうぞ。いざって時に腹が減ったら中々思うように力出ませんから」


「そりゃ有難い! ああいや、すまん。それじゃあ悪いが、少し分けとくれ」


「ええ、どうぞ」


 飯を食べ、失ったマナを少しでも回復させる。追っている奴は腕が立つらしいし、正直言って戦える自信は無いが……まあ、いざって時は逃げりゃ良いか。

 そう能天気に思いながらパンを口に運ぶ。


 ……逃走出来る相手ならば良いのだが。




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