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邂逅 そしてシリアス


 夕飯を済まして、球状の大きな温水に浸かるという斬新な入浴を行った、そんな夜中のこと。

 固いベッドに寝転がり、安心して瞼を閉じる……が、眠れない。精神的にはかなり疲れているのだが、全然眠くないのだ。テンションが上がっているからか、はたまた就寝時刻が早すぎたからか。エイリルさんは帰ってこないし、2人は既に寝ているし、とても暇である。スマホでもあればなぁ、なんて思ったが、そもそもネットなんて使えないか。

 目を瞑って、色々と体勢を変えるが、寝れない事を意識してしまったのが仕舞いである。全ッ然眠れない。やはり肉体が疲れてないからだろうか?──しゃあない、少し身体を動かしにいこう。


 扉まで足を運び、部屋を後にする。うーわ、廊下も階段も真っ暗だな。壁伝いになんとか宿の外に出ると、そこにも暗闇が広がっていた。街灯一つないこの町では当然の事だ。踏みなれぬ石畳を歩きながら周囲を観察するが、街に人気はない。もう世界には俺一人だけしか居ないんじゃないかとすら錯覚する程だ。

 溜息を吐きながら空を眺めれば、そこには綺麗な星々が暗闇を彩り、一際大きなフルムーンが煌々と輝いていた。異世界でも夜空は大して変わらない、しかし細かく見れば何処かは違っているのだろう。ただ朦朧とその光景を眺めている。そんな折、酒の臭いと共に騒がしいし声が近づいてきた。


 よく見えないが……恰幅の良い男が3人だろうか、随分と酔っているようでフラフラと千鳥足のまま歩いてくる。

 そうして俺の横を通り過ぎるその時、体制を崩した1人の男が此方に倒れてくるではないか。厄介事を避けるため後退りしていたものの、勢いよく倒れ込んできたので避けきれず衝突してしまう。まずい、いちゃもんをつけられるパターンだこれ。


「す、すみません。大丈夫で──」


「んだァ……ひック、テメェ、ぶつかってくるたァ随分な野郎じゃねぇか」


「オイオイオイオイオイ、こいつぁ珍しい人種じゃねぇか。売り飛ばせば高値になるぞ」


「そりゃいい、呑気に1人でこんな人目のねェ場所あるいてるってこたぁ拐われてェってこったもんだ」


 恐れていた通り、彼らは俺に恐喝を始める。しかも不味い、不穏な話が聞こえた。なんとか急いで逃げようと走るが、酔っているくせに無駄の少ない動きであっという間に囲まれてしまう。大声を出そうと口を開けば、その隙をつかれ取り押さえられて口を塞がれた。紫色の石を握りしめようとポーチから取り出す素振りを見せれば地面に押さえつけられてしまう。ヤバイ、これはマジでヤバい。ええい、ふざけんな!また捕まってたまるものか!なんとか身をよじりもがくが、二重の意味で足蹴にされ全身が凄く痛い、口一杯に土と鉄の味が広がった。


「──君達、そこで何をしているのかな」


「「「あ"ぁ"?」」」


 暴行を受ける最中、突如聞こえてきた抑揚の無い凛とした声が場を支配する。視線を其方へ向ければ、そこには長身の男性が居た。黒装束に身を包んだ初老の男だ、声、背格好、瞳、暗くてよく見えないものの、彼を構成する全てから優しげで不気味な……ん?今俺言ってることが……あーくそ……駄目だ頭が全然回らない、自分が何を言ってるのかすら曖昧になっている。全身が痛い、それに耳鳴りで周囲の音が聞こえづらくなってる。視界がボヤけ、歪み、瞼がうまく機能していない。意識も段々と遠退いて行く……あ、これだめなやつだ、どこか、どこかで、へんな、おとが……きこえ──








「──大丈夫かい?」

「うわぁぁぁあ!?」


 突如間近に現れた老人のドアップ顔に思わず悲鳴を上げる。……あれ?俺今まで何をして……?思い出せない、まるで記憶に靄が掛かったような……

 飛び起きて周囲を見渡すと、そこは何処か温かみを感じる木製の部屋だった。部屋の真ん中には円形のテーブルが置いてあり、それを挟むように2つの椅子が配置されている。吊らされたキャンドルホルダーに灯った明かりが部屋全体を照らし、暗くてよく見えなかった男の顔や装いが鮮明に分かるようになった。

 白髪を生やした優しげな面持ちの男、肌は白く西洋人のような……あれ?この人と俺って初対面だよな?


「驚かせてしまったね。そう警戒することはないよ、私は味方さ。おっと、今のアナタに立ち話は辛いだろう? 座ってくれ。今、暖かいお茶を淹れよう」


「え、あ、どうもありがとうございます……? えーっと、初めまして?」


「ああ、初めまして。おっと、自己紹介が遅れたね。私はジョンドゥ、アナタを保護した者だよ」


「……保護、ですか?」


 促されるように椅子へ座り、疑問に思った事を口に出す。ジョンドゥと名乗る初老の男は、湯気立つ赤茶色の液体が入った茶器をテーブルに2つ置き、正面の椅子へと座った。


「おや、覚えていないのかい? 私が非合法に運営していた奴隷商達を捕縛した時に、囚われていたアナタを見つけ保護したんだよ……とはいえ、記憶が無いのも無理はない。アナタは賊に酷く傷つけられ疲弊しきっていたからね。辛かっただろう、でも、もう大丈夫さ。私がいる」


「……んー、あー……?」


 朧気ながら記憶を辿れば、そんなこともあったような?ああそうだ、異世界に来てようやく人と出会えたと思ったら急に殴られてその後──あれ?


「きっと恐ろしい体験をした反動で、記憶が虫食い状態になっているんだろう。だけど、安心してくれ。私がアナタを危険から守ると約束する」


 ニッコリと微笑むジョンドゥさん。なんだか、接していて、優しい人だと感じる。どこか心が落ち着くような、そんな声で……この人ならば頼って良い。そんな風に思う。


「あ、あの……」


「うん、なにかな?」


「俺、出来るのなら家に帰りたいん……です。帰る方法とかって、知りませんか?」


「……難しいね。申し訳ないが、私にはアナタを元の世界へ帰す術を持ち合わせていないんだ。ソルダレナ帝国が秘匿している『異世界から人を召喚する魔法』さえ分かれば、あるいはといった所だけれど……でもね、異世界からの迷い人であるアナタの存在を、ソルダレナ帝国の奴らに知られてしまえば、アナタを危険に晒してしまう事になる」


「え、えと……それは、何ですかね?」


「ソルダレナ帝国が、君を此方の世界へ召喚した元凶だからさ。順を追って説明しようか。帝国には、古の時代より上位存在から託された秘技があるんだ。それは別の世界から類いまれなる才と力を持つものを呼び出す術、本来は世界の危機に扱うべき悪辣なものだよ。此度、帝国によりそれが使用され、アナタを此方の世界に呼び出したんだ。圧倒的な力によって改めて世界を征服する為にね」

 

「はぁ、なるほど? って、それじゃあ何で俺はあんな目に……」


「座標がズレたんだろうね。それにより彼らは召喚が失敗したと考え、アナタの存在に気付いていない。しかし、もしアナタが召喚されているとバレてしまえば、帝国軍が血眼になってアナタを捕まえに来るだろう」


「そ、そうですか……あれ? 俺をこの世界に呼んだ元凶は亡国の王様って話は……?」


 うん?なんで俺はそんな事を知っている?


「……それは帝国が流したデマだろうね。表面上は迷い混んだ憐れな被害者である君達を保護しようと動き、裏では戦力として君達を活用しようと企んでいるんだよ。まさか賊にまでその情報が届いているだなんて、帝国は随分とやり方に拘らなくなってきたみたいだ」


 そういえば、俺を襲ったヤツらの会話を聞いてた時にそんな事を言っていたような……なにか頭にモヤがかかったような。全然頭が回らない、今も話された情報を飲み込むだけで精一杯で、もう何がなんだか……


「そうだな、少し昔話をしようか。帝国と異世界人についてだ。ソルダレナという国は、今から68年前に王位を継承した者が、別の世界から1人の少年を召喚したことで、小国から世界一の帝国へと変わっていったんだ」


「……既に喚び出した前例があるんですね」


「うん、そうなんだ。王は己が欲で臆病な少年を異世界から拉致し、少年を勇気ある者、勇者として祭り上げた。そして王は勇者と配下達を率いて37年に渡る大遠征を行い、国を越え、山を越え、海を越え、部族や国々を吸収し強大な帝国を作りだしたんだ。

 だけど、それによって様々な問題が生まれちゃってね。勇者の英雄譚に憧れて、生まれ故郷を飛び出す者が後を絶たず……それらは各地で人材不足による奴隷の増加や、スラムの発生に繋がった。他にも、人々の世界が広がった結果、隔絶した異文化同士を繋げた。それは軋轢を生み出し、宗教戦争や異言語問題、差別や犯罪者の増加など、今も尚残る多大なる悪影響を発生させてしまったんだ」


「おおう……なんと夢のない」


「今も尚、その影響は残っていてね。帝国は最近、各地で発生した反乱軍の掃討を行うため戦力強化へ乗り出したんだ。このままでは、再び召喚の術を使用し、またアナタのような被害者を生んでしまうだろう……そうだ、アナタに一つ提案をしよう」


「提案、ですか?」


 ジョンドゥと名乗った男性は、茶器に入った液体を飲み干して此方へ手を伸ばす。


「被害者であるアナタに、この提案をするのは心苦しいが、私には帝国が行うこれ以上の狼藉を見過ごせないんだ。アナタには、類いまれなる魔法や武の才がある。どうかその力を、帝国打倒のため、そしてアナタが元の世界に戻るために、我々に貸して欲しい。どうかな? 勿論断ってもらっても構わないのだけど」


 うーん……聞いている限り、なにも俺が手伝う必要はない。なにせ此方は被害者だ……だけど、少し、ほんの少しだけ、心の奥底に、この非日常に興奮した自分が居る。差し出された左手は、こちらへ握手を求めているのだろう。もし、俺になにか出来るのなら、それが人の役に立つのなら……


 朦朧とする意識の中、俺は左手を伸ばして彼と握手を──



 《b》《big》バリン《/big》《/b》と、静寂を壊す大きな音と同時に《《部屋が壊れた》》。

 伸ばした手は彼に届かず、俺の身体は空中に浮いた。


「──は?」


 何かに抱き抱えられる感覚がある、しかし何も見えない。朦朧としていた意識は鮮明に、場を照らしていた温かな光は暗がりへと掻き消えた。


 そうだ思い出した。俺はあんな人に助けられては……いや、助けられはしたか。だが騙されていた事に変わりはない。しかし何故忘れて……って、ここは魔法のある異世界だぞ。よし、なんとか頭が回り始めたな、とはいえ憶測だが記憶の書き換えとかマジかよ、何でもありだな。


 空へ浮かんだ身体はゆっくりと地上へ降ろされ、部屋を壊した当人が俺の前へと降り立った。全身をフード付きロングマントで隠したその人に対し、体勢を崩したジョンドゥは口元を曲げ鋭い視線を送り、攻撃的な口調で語り掛ける。


「──はぁ、色々と疑問は尽きないけど……全く、流石だね。メアリー・スー」


「光栄でもなんでもないが、どうせ褒めるんなら国有財産から褒美をくれよ王様。ああ、そうか──お前の国、とっくの昔に滅んでんだっけ?」





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