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到着ウスト村


 暗く、暗く、深淵へと落ちてゆくような、はたまた、壁を走っているような感覚。

 目を開ければ、人、槍、盾の群れ。舞う土埃、金属が擦れる音、止まぬ怒号。これは、戦争だろうか。こんな夢は、初めて見──



「──い、起きろ。おい、オイ」


「んあ……? ここ、は……」


 頬をぺしぺしと叩かれた感覚で反射的に閉じていた瞼を開ければ、目の前には千冶の顔があった。

 ええ、と……何があったんだろうか。それに此処はいったい──


「なんだ、まだ寝ぼけてんのか? 村だよ、ウスト村。ったく、宿泊場所まで戻ってる道すがら、見知ったマナが微動だにしないと思ってきてみれば、お前が地べたに寝そべってんだからビビったわ。大丈夫か?」


「あ、あー……?」


 そう、だったっけ……あー、そうだそうだ。思い出した。ようやく村に着いて、出迎えてくれた村長さんが俺達の宿泊場所まで案内してくれたんだ。

 えーっと……確かその後、学園長がぺオンさんとリル先と師匠を連れて墓参りに行って、残されたカラマス先生の指示で夕飯まで自由行動になった……んだったっけな。よしよし、そこまではなんとか。それで、ボケーっと畦道を歩いていたら──


「──あーーっ! ち、ち、ち、ち千冶! ひ、光の玉がビューってなって槍に変わって俺の腕の中にズドーッて!」


「……お前なんかキメたか?」


「違う違う違う! マジなんだって!」


 半目になって疑いの眼を向ける千冶に対し、疑惑を晴らすため何が起こったのかを丁寧に話す。

 畑沿いに散歩をしていたら、道の真ん中に何故か光の玉が浮いていたのだ。魔法でマナ探知しても引っ掛からないし、マナを送ってみても反応がなかったので、不思議に思って近づいたら、急に光の玉が動き出し、槍の様な形へと変化したと思えば突如俺の右腕目掛けて飛んできて、吸い込まれるように腕の中へ消えていった。

 突然こんなことを言っても、何をいっているか分からないと思うが、ありのまま言葉にするのなら、こんなところだろう。


「はあ、それから意識が無いと。成る程ね、やっぱお前なんかしらキメただろ」


「ちげーって! 本当なんだよ……ハッ! もしやアレは霊的な存在だったんじゃ──」


「それはない。マナ探って反応無かったんだろ? 幽霊やゴースト、スケルトンとかの肉体がない生物……アイツら生物って言っていいのか? まー兎に角、そういう奴らは魔石が無いと動かんし、存在できん」


「え"……じゃあマジで何だったのアレ」


「知らん、寝ぼけてたんじゃね? ともあれ、一応後でぺオンさんに聞いてみるか、丁度もうそろ集合時間だしな。ほら、行くぞ」


「あ、うん……そうだ、起こしに来てくれてありがとな」


「へーへー、どーいたしまして」


 うーむ。いったい、アレは何だったんだろうか。

 そんな事を疑問に思いながら、俺達は宿泊場所である元孤児院へと足を進めた。










 時は少し戻り、ウスト村到着後の墓参り組である学園長達は、村長案内の下、目的の共同墓地へと向かっていた。

 何故か気まずいような空気が流れる中、エイリルは静かに学園長へ問いかける。


「何故、この村に3日も滞在を?」


「なぁに、()()()を7日も拘束しちまったからな。帳尻合わせをせんと不公平だろう? それに、ちとアイツが住んでいた村ってのをどんなものか確かめたくなってな」


「はあ、そうですか」


 生返事をした後に彼は再び沈黙し、兄妹揃って畑や家々を眺め歩く。無言のまま600m程歩き、そんな空気に耐えられなくなったぺオンは学園長へ雑談を試みる。


「そういえば、テシオドス様は故人の方と、どのようなご関係だったんですか? ルサパーの盾とアラエキの矛。噂程度には耳にしていましたが、折角なら詳しい話をお聞きしたいな~と。あ、勿論嫌でしたら無理にとは言いませんが」


「あァいや……気を遣う必要なんざねぇよ。そうだな……アイツは、不器用な奴だった。誰よりも速く戦場を駆け、国のため、人のために戦って……ガサツで人一倍責任感の強ぇ奴だった。

 ただ、まァ、ペルスアとの戦い以来、アイツとは疎遠になっちまって、そのまま離れ離れさ。気付けばアイツはポックリ逝って、あの戦争を経験した奴ぁ、遂ぞ死に損なった俺1人だけ。そんな俺もいつ死ぬか分からねぇってんだ。なら、死ぬ前に現世の旨い酒を自慢しにいこうって思ってな」


「そうでしたか……だからそんな大樽を担いでいるんですね」


「おう! 折角だ、アイツが嫌というほど飲ませてやる」


「アギドスさんお酒苦手だったような気がしますけど」


「だからこそさ。勇者から聞いたことだが、異世界には死人に口なしって言葉があるそうじゃねぇか。なら嫌とは言えねぇよな?」


「あ、そういう……」


「……フフッ」


 シクリィが笑いを溢し、学園長はガハハと笑いながら話を続ける。心なしか会話に参加しない兄妹の様子も元に戻ってきたような、そうでもないような。そんなこんなで共同墓地へと歩みを進めていれば、村外れの小高い丘の近くで村長は足を止め、彼らの方へ振り向き話す。


「この先の丘に《《あの一件》》で命を落とされた方々が埋葬されています。わたしは村長として役目がありますので、この辺りで──ああ、それと、今の時期ですと墓地へ近づく方はいませんよ。それでは」


「おう、案内ありがとよ」


 話を済ませれば、村長はまるで何かから目を反らすように、彼等から離れ村の方へと歩いてゆく。やがて彼の姿が見えなくなった頃、学園長が先ほどの快活な様子からガラリと変わって、静かに兄妹へ向け口を開く。


「此処ならお前らの正体について、アイツは目を瞑るとよ。ぺオン、お前は俺が降りてくるまで待機だ。エイリル、シクリィ。お前らは護衛として着いてこい」


「……うん」


「うす」


 小高い丘を登れば、其処には複数名の名が刻まれた墓碑が建っており、周りには麦や果実が置かれていた。


 テシオドスは持ってきた麦を墓碑の前へ置き、担いでいた樽からジャグへ酒を移して、それを墓へとふりかける。複数回行った後に、兄妹の方へ振り向きジャグを押し付けて、お前もやれと目で伝える。数秒の逡巡の後にシクリィが其を受け取り、墓へと注ぎ始めれば、エイリルは漸く沈黙を破りテシオドスへ向け語りかける。


「……なぁ。アンタは、何を目的として──なんで今になって、私達を此処に連れてきた?」


「……さてな。ボケ老人のお節介、とでも言っておくか。老い先短ぇ俺の命、何時尽きるかなんざ分かりゃしねぇ。此処まで死に損ねてんだ、死ぬ時にやり残した事がねぇように、憂い事は済ましておいた方がいい」


 老人は言うべき事は言ったとばかりに口を閉ざすと、豪快に墓の前で座り、目を閉じて無言のまま数十秒を過ごす。


「──あァ、もう、大丈夫だ。俺は先に行く、お前らは自由にしろ」


「……すんませんね」


「気にすんな、俺の用事のついでだ」


 やがて老人は静かに立ち上がり、兄妹を見ずに口を開けば、用は済んだと村の方へ歩き出す。老人が丘を下り始めた所でシクリィは老人の名前を呼び、引き止めた。そして、たった一言。


「ありがとう」


 その言葉を聞いた老人は少し立ち止まると、片手を軽く振りながらそのまま村へ向け進んでゆく。やがてぺオンと老人の背が点になった頃、兄妹は改めて墓碑へと向き直す。


「……ただいま。母さん、爺ちゃん────」


 シクリィがフードと仮面を外すと、ポツリポツリと墓碑へ語り始める。他人から見れば無表情に見えるその顔は、見知った人から見れば悲しんでいるように見えるだろう。それでも、彼女は無理矢理にでも声色を明るくして喋り続ける。

 エイリルはシクリィの背後でフードを深く被り、彼女の頬から滴り落ちる雫を見ないよう空を見上げ、口の中に広がる苦酸っぱいソレを胃に押し込むように飲み込んだ。











 そこは村外れの森の中。誰も近寄らないそんな場所で草木をかき分けながら進む影が2つ。


「──フェーレスー、まだ着かないのか?」


『……あぁ。丁度、今着いたぜ』


「お、マジか──今のところ草木しか見えないけど」


『いんや。ほれ、あそこだ』


 先導していた手のひらサイズの山羊のような姿のソレは、蝙蝠のような翼を使って、とある方向を指し示す。そこは岸壁をくり貫いたような洞窟だった。彼はその洞窟の異質さに気が付く。外からでも分かる程に、洞窟内にはマナが充満しているのだ。

 マナには空間の濃度を均一化させるような働きがあるとツァイトから聞いていた彼は、そんな洞窟を不思議に思ったものの、危険ならばフェーレスが言うだろうという楽観的思考のまま足を洞窟内へと進めた。その道中、フェーレスは彼へ静かに語り始める。


『すまねぇな相棒、俺の我が儘聞いてもらって』


「モーマンタイさ。それにしても珍しいよな、お前が俺にお願い事をするとか。3日前から挙動不審気味だったし、此処でなんかあったのか?」


『あー……そうだな……いや、相棒には伝えておくか』


「? なんだよ改まっ──ぐへっ! いっつつ……」


 彼は魔法で灯りを灯していたものの、足下が悪く思いっきり転んでしまった。何かに躓いたのだと分かった彼は、灯りを其方に向け……目を見開いた。


 そこにあったのは、地面に半分ほど埋まった壺だった。だが、それがただの壺で無いことは彼にも分かる。壺には何かの文字が刻まれた札がビッシリと貼られていたのだ。少し離れた場所には、壺から無理矢理外したであろう蓋が、破かれた札と共に地面へ放置されていた。


 彼の視線が地面へ向かったことで、彼は壺を中心に幾何学模様が描かれている事にも気がつく。彼はソレが何か知るよしも無いが、ここに彼の幼馴染みが居れば、ソレが何かを封印していたものであろうことは一目で分かった筈だ。


 彼は興味深そうにそれらを眺めていると、目の前に1つの丸机が現れ、机を挟むように2つの椅子が作り出された。

 フェーレスは、小さな身体で椅子に座り、真面目な声で彼へ語り始める。


『相棒、少し真面目な話をしよう。俺の過去について──そして、坊主達をこの世界へと誘拐した元凶である悪魔についてだ』




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