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ジンク・ロベリア・スカビオーサ


 累計ページビュー1000突破ありがてぇ……! です。






「皆はさ、なんで鉾楯戦に参加したの?」


 始まりは鉱簾のそんな何気ない一言からだった。まぁ、確かに気になってはいた。ある程度の人となりが分かってきたからこその疑問だ。そんな質問に意気揚々とツァイトが喋り出す。


「それは勿論、書庫に納められた強力な魔法を解析する為さ」


「ツァイトはそういうの好きだからな、俺はその付き添い。ディアもそうだろ?」


「えっ、ええ! 当たり前でしょ。大体アナタ達2人を自由にさせておいたら、なにをしでかすか分かったもんじゃないもの」


「「分かる」」


「ベニフジ、君はいったい元の世界でどんなことをしてきたんだ」


「心配されてるのはツァイトの方だろ?」


「どっちもよ!」


 笑いながらそんなことを話し合う。紅藤のトラブルメーカーは異世界でも相変わらずの様だ。ディアの参加理由は多分また別のソレだろうが、まぁ本人が言わないのなら此方も言及はやめておこう。それよりもオレが気になっているのは──


「で、ヘーベは何で此方側に参加したんだ?」


「……無論、私が貴族として大成する為だ。我々貴族は、人々の上に立ち守り導くのが務め。相応に責任が伴う。ゆえに我らは研鑽を怠らん。書庫に内蔵された魔法の使用法さえ理解すれば、後生に渡って我がイキシア家は安泰になるだろう」


「流石は学園一の優等生、真面目だな。しかし、カラマス先生に与するのは貴族制の否定に等しい。ボクはてっきりカルミア先生側につくのだと思っていたが」


「以前の私ならばそうしていただろうな。だが、少し旅をして分かったのだよ。権力者達の民に対する其は日に日に酷くなるばかりだと。無論そうでない者達が居るのは分かっているが、貴族の過半数以上が民を使い潰している。ならば民一人一人の能力を伸ばし、国としてより強く豊かにする方が良い。なんともまぁ、我ながら酷い楽観論だがな」


 彼は自嘲気味にそう言うと、真面目な顔に戻り話を続ける。


「それに、我ら人を導く権力者が道を踏み外した時、その者を誰が止めるというのだ。その場を貴族が収めては、横暴という事実が消えてしまう可能性があることを思い知った。民が力をつける危険性を鑑みても、私は今広がっている貴族第一主義よりはマシだと思う。私が肩入れした理由など、ただそれだけだ」


「相変わらず真面目だなヘーベ先輩」


「ムッ、貴様がいい加減なだけだそれは。大体貴様はこの鉾楯戦の意義を 「まーまー。それで、ジンクはどうなんだよ」 話を遮るな貴様! これは学園だけの問題ではなく──」


 あーあー、始まったよ。これが始まると長いので、軽く聞き流す程度にしておこう。そんな言い合いを横目に、オレはジンクの様子を観察する。正直な話、この手のソレは紅藤の役回りなのだが……










 魔法学園の教師、生徒の大半は魔法の才を持つ貴族である。しかし彼、ジンク・ロベリア・スカビオーサは少々特殊だ。貴族であって生まれは平民。生まれながらに孤児だった彼を、スカビオーサ家の令嬢が迎えたのだ。当然、そんな彼は貴族第一主義の行きすぎた生徒達の虐め対象になっていた。そんな彼を救ったのは異世界から来たばかりの青少年だったのだが、それはまた別のお話。

 兎も角として、彼が鉾楯戦に参入した理由は、そんな己の現状を変えるため()()()()


 ターコイズブルー色の綺麗な髪に中性的な顔、そして優れた魔法の才。それらを見込んで引き取った女子爵は、彼を決して自由にはしなかった。全てを管理され、歪な愛情を注がれ、彼の行動、行く先は彼女のなすがままになっていった。

 だがしかし、彼はそんな義母が嫌いかと聞かれれば、そうではないと答えるだろう。育ててくれた恩もある、少なからず家族愛を感じてはいる。だが、彼女は別だった。彼女が彼を見る目は、まるで、彼ではない誰かを見ているような、そのような目だった。いつしか、そんな環境に居た彼は、そんな義母に認められたいと思うようになっていった。

 彼は学園の寮に住んでから、彼女に向け手紙を書き続けている。しかし決して、返事の手紙が送られてきたことはなかった。だが、一通。たった一通の手紙が、最近になって送られてきた。




 皆が寝静まる闇夜の下、彼は独り運動場を走り回る。汗を滝のように流しながら、何か嫌なことから逃げるように、それを忘れるように、息を切らし走り続ける。

 それは、己の下に届いた1通の手紙が原因であった。

 差出人はスカビオーサ女子爵、彼の義母からだった。その内容とは、"鉾楯戦で貴族第一主義に敵対する側へつき、陥れろ" ただただそれだけ。長々と書かれた任務のような内容に、感情は宿っていなかった。


 もとより、彼が参加した時の理由は、漠然としたものだった。ヘーベのような立派な貴族意識によるものではない。ツァイトのような好奇心の類いでもない。ディアのような想い人の為でもない。ただ、何者かになりたかったのだ。もっと言えば、誰かに認められたい。今の自分を変えたい。そんな理由だ。


 そんな中届いた、その一通の手紙は、彼を大いに悩ませた。




 

「はっ、はぁっ、はっ……!」


 走る、走る。"自分は皆よりも劣っているのだから、誰よりも努力しないと"なんて言い訳を用意して、以前の自分ならば疾うに倒れていたであろう距離を走る。現実逃避気味に憧れの勇者様ならば、どうしていただろうかと妄想する。そうしなければ、罪悪感に押し潰されてしまいそうだから。

 昔からそうだった。感情に、重圧に、押し潰されそうな時、冒険譚の勇者という存在に想いを馳せ、現実から目を背けるように、数冊の本へ逃げていた。

 物語を読んでいる時だけ、彼は自由になれたのだ。


 しかし、無情にも解決しないまま時が過ぎてゆく。これは幻想と違い現実の問題なのだ。


「はっ、はっ、はぁっ……! ──ぁっ……」


 走り続けていると、躓いて転んでしまう。肌が擦りむけ痛い。その痛みが、ネガティブな意識を更に深めてゆく。やがて、もう考えるのを止めようと目を閉じ──


「よっ。こんな夜中までお疲れさん」


「えっ……」


 瞼を開くと、目の前にツツジ・チヤが居た。彼は此方に布と水袋を渡すと、僕の怪我した部分を水で洗い回復魔法を施す。

 回復痛を我慢しつつ、水を飲みながら汗を布で拭く。甘味、酸味、塩味、ほどよく混ざりあった水は、まるで全身に染み渡るようだ。自棄になっていた頭が冷えてゆくのを実感する。


「んぐ、はぁ……ありがとう。え、と。チヤ……くん。こんな夜中にどうしたの?」


「オレはちょっと野暮用があってね。まぁ、オレの事なんてどうでも良いんだよ。そっちこそ、どうした。ひっでぇ顔してるぜ?」


「あ、あはは……うん、ちょっと、力不足を実感してて。つ、疲れちゃったし、もう寝るよ。おやす──」


「あー待て待て。流石にハイおやすみとはならんならん」


 逃げるようにしてその場から離れようとしたボクを彼は引き留める。


「……そうだな。うん、面倒だからぶっちゃけて話すぞ。お前、今すっごいストレス溜めてるだろ」


「……へ?」


「オレも正直な話、不満が溜まっててな。互いに吐き出そうぜ? こーいうのは人が居た方がスッキリするもんだ」


「え、えっと、僕は不満なんて」


「いーや、あるね。なくても此方の愚痴は聞いてもらう」


「えぇー……!?」


 嫌だとはいえない。簡単に嫌と言える性格ならば、こんな事で悩んではいない。


「オレは元の世界で、紅藤と物心ついた時から一緒に居たんだがな。あの気質に性格、ぜんっぜん変わらんのよ。厄介事に首を突っ込む、後先は考えない、後始末には巻き込まれる。全部最悪だったね。そっちも苦労したろ?」


「そ、そんなこと……うーん……」


 苦労してないとは言えない。確かに一緒にいると色んなことに巻き込まれるし、命がいくつあっても足りないような目に何度もあってきた。それは事実なのだから。


「大方その反応で察せる。なぁ。なんでお前は紅藤と一緒に行動してんだ?」


「えっ……それは、友達だから……?」


「んー、30点」


「30点……!?」


「本音ではあるが、本質は別だ。及第点は、そうだな……『アイツと行動していると、まるで自分が何者かに成れた』ように感じる。あたりか?」


 その言葉に思わず目を見開く。考えてもなかったが、確かにそう言われれば、そうなのではないかと思ってしまった。


「あー、別にそれが悪いとかそんなんじゃない。確かにアイツは物語の主人公みてぇな奴だからな。だが、"ジンク・ロベリア・スカビオーサ"にとってはお前がメイン、アイツはサブだ。そこは勘違いしちゃいけんよ。大事なのはお前が何を成し遂げたかだ」


「何を成し遂げたか……」


「おう。お前が何を迷ってんのか知らんけど、他の人がどうとかなんて考える前にお前がどうなのか考えろ。なーに難しいことじゃない。選んだルートの先を想像して、自分が満足できるかどうかを考えるんだ」


「……それが、どちらも満足出来ない結果だったら?」


「オレなら、よりグッドエンドに近い方を選ぶね。物語なら兎も角、現実にトゥルーエンドなんざ存在しない。それなら出来るだけ幸せなになれる道を開拓するしかないだろ」


「…………分かんないよ、そんなの」


「だろうな。偉そうに言ってるが、オレもさっぱりさ。現実なんてのは、書き直しも出来んし、中々メイン読者の思い通りにならんクソったれな物語だ。それに、死ぬまで連載が終わることは無いときた。それなら足掻くしかないだろ? 足掻いて踠いて、アドリブも入れて、どうにか望んだストーリーに近づけるんだ」


「……それは、人を貶めてでも──」


「ああ、やるべきだね。それが自分にとっての最善であるならば」


 即断だった。彼は僕の目をジッと見つめている。

 頭の中で、彼の言葉が反芻する。


 僕は──





「よし、吹っ切れたようで何より。それがどんな選択だろうが、オレは応援するぜ」


「……ありがとう」


「よせ、ただのお節介だ。あーあー柄にもねぇ、こういうのは紅藤とか鉱簾の役回りだろ」


 頭をガシガシと掻きながら去るチヤの後ろ姿を見ながら、再び水を口に運ぶ。

 月を隠していた雲が流れる。


 月明かりに照らされて、僕はまた走り出す。


 今度は、翼が生えたように身体が軽かった。






 この物語の主人公……誰だっけ……?


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