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幕間話 躑躅の休日


 明け方、起床。

 休みの日であっても、オレの朝は早い。魔法で生み出した温水を使って身体や顔を洗い、布で水を拭き取る。温風で髪を乾かしながら、自作した歯ブラシで歯を磨いてゆく。

 顔にマナを集中させて肌を強化、その状態で髭を剃り、魔法で空中に鏡面反射する板を作り出して剃り残しがないかチェック。寝間着から服を着替え、軽く香水をつける。これで準備は完了した。

 スヤスヤと眠る2人の寝相に失笑しつつ、起こさないよう音を消して慎重に外へ出る。転移魔法でも使えれば良いのだが、そうはいかない。転移魔法は唯でさえ燃費が悪いのに、移動距離に対して消費マナも多くなる。その上、もし何かと転移先の座標が被りでもしたら…………ゆえに、オレは移動に転移魔法を使わない。というか使えない。

 欠伸を噛み殺しながら長い廊下を歩く。色々な教室に立ち寄り、録音魔法を回収しては再び配置しなおす。やはりというか、なんというか。そう重要そうな情報は得れないな。


 ある程度回収し終えたら、ちょうどいい時間になってきたので部屋へと戻る。どうやら2人は未だ眠っているようで、涎で枕を濡らしていた。起きる気配もないので、今のうちに朝飯を作っておく。大きな寸胴鍋に塩漬け肉、キャベツ、豆類、人参、玉ねぎを切って入れ、軽く炒める。その後大量の水を入れて灰汁を取りながら煮てゆくと、匂いにつられてか2人が起きてきた。ゆっくりフラフラと、涎を垂らしながら近づいてくる姿はまるでゾンビのようで、再び笑いがこぼれる。


「おはよッス。もうちょい掛かるんで、先やること済まし──はっや」


 そう伝えると同時に、2人は目にも止まらぬスピードで身支度を済ましてゆく。マナの無駄使いでは……そんなことを思いながら、テキパキと食器を並べてゆく姿を横目に料理を仕上げる。


 固いライ麦パンを複数個スライスし、軽く温めておく。皿にベリー類とチーズを盛りつけてテーブルへ運んでもらってる内に、鍋から完成させたスープを深皿へ移し、これもまたテーブルへと運ぶ。

 各々が席に座り食事の挨拶をした直後、2人はバクバクと凄まじい勢いで料理を食べ進める。よく噛んでいるし、見苦しい訳でもない。ただ、一挙手一投足に無駄がなく速い。能力の無駄遣いとはこのことか。


「んで、学園生活初めての休みっスけど、今日の予定はなんかあります?」


「ん……ング。学園を歩く」


「同じく。軽く運動してゆっくり過ごすかなぁ」


「了解。オレはオレで色々とやることあるから、また夜にでも」


「うん」

「りょー」


 朝飯を食べ終え食器類を洗う最中、少し考え事をする。うーむ困った。市場で良い茶葉が手に入ったは良いのだが、菓子類がな。いやまあ、茶葉がある時点で有難いという話なのだが。大体紅茶とかって中国から17世紀頃に伝わり改良されて……というツッコミは横に置いておこう。どこの世界も、人間は食と娯楽に飢えているらしい。というか、この世界は其処んとこの発展が凄く顕著だ。今に始まったことじゃないが、そこはナーロッパというべきか。地理や歴史、神話などが類似してる癖に、こういうチグハグさは、どうにも若干の気持ち悪さを覚える。

 おっと、話がズレた。そう、オレは今回スコーンでも作ろうと思ったのだが、ベーキングパウダーがどうにも出来なんだ。仕方がないので、市場で買った良質なドライフルーツで我慢するとしよう。


 木籠いっぱいにドライフルーツを詰め込み自室を後にして、そのまま真っ直ぐ、とある教室へ。マナ探知で室内の状況を把握し、入って良いかという意味合いを込めてドアノッカーを叩く。そうすると直前まで白熱していたであろう話し合いの声がピタリと止まった。気配から察するに、多分今はアイコンタクトでも取っているのだろう。幸いなことに、教室にかかっている魔法は大したこと無い。沈黙は了承と受け取り、そのまま解除して中へと入る。


「ちわー、お邪魔しにきましたー」


 中にいた8名全員が、此方を凝視している。キリッとしたリーダーのような女性は微動だにせず、6名は面食らったような顔を。そして1名が此方を見て顔を青くさせていた。順当な反応だろう。そこにいたのは、もう数十日も過ぎれば対戦相手となる生徒達なのだから。


「──唐突だな、転入生。何の用だ?」


 リーダー格の女性が、此方を問い詰める。喉元に切っ先を当てられているような威圧感。分かってはいたが、戦ったら面倒そうだ。


「お茶会開きにきました」


「…………は?」


 魔法で花畑のイメージを投影。そのまま机を一塊にし、囲うように椅子を配置。机の上に多種多様なドライフルーツを置いて、全員分の紅茶を用意する。そうして、淹れたての紅茶を飲んで一言。


「この前偵察してきた子。そっちに非があるとはいえ、怖がらせちゃったんでその詫びッス。どうぞ遠慮無く」


 反応は分かれた。部屋に入ってからずっと怖い顔をしているリーダー格の女性。狼狽えている男女3名、魔法を解析している男女2名。目に涙を浮かべ、まるでクリーチャーを見たような顔をしている少女1名、目を輝かせてドライフルーツを見ている男の子1名。


「…………ん、美味しい」


「ちょっ、なに食べてるの! ペッしなさいペッ!」


「やだ。もったいない」


「あ、マジだ。旨いなーこれ」


「ホント、甘さが絶妙ですね。ほら、リナムちゃんもそんなカッカせずに一口食べてみてくださいよ」


「あら、ホント? それじゃあ一口……ってなるかぁ!」


 目を輝かせていた男の子が堪えきれずドライフルーツを口にし、狼狽えていた内の男女1名ずつが続けざまに食べ進める。フフフ、そうだろう、そうだろう!いやはや流石は貴族が集まる都市の店。質が本当に良かった……9割方は師匠達の腹に収まったが、まあ、許容範囲だろう。こう美味しそうに食べてもらえると買ってきた甲斐があるというものだ。


「ああもう! お腹壊しても知らないわよ!? そんな敵が送ってきた食べ物を毒味もせずに食べるなんて……!」


「落ち着け、リナム。大体、鉾楯戦の直前ならいざ知らず、彼が今それをする意味がないだろう。とはいえ、その考え方は悪くない。不信感を抱くのは、己だけでなく周りを守ることにも繋がる。引き続きすると良い」


「フェンネルさん……」


「ふむ。しかし成る程、これは中々」


「フェンネルさん!?」


 コントかな?

 とはいえ、話が進まないので軽く手を叩いて意識を此方へ向ける。


「あー、お楽しみのとこ悪いんスけど、詫びのためだけにこの茶会を開いた訳じゃないんで……そんで、こっからが本題。まず、提案がひとつ。鉾楯戦までの間、互いに妨害するの止めません?」


「ああ、それは願ってもない申し出だ。皆もそれで良いか?」


 口に含んでいたドライフルーツを飲み込んだリーダー格の女性──フェンネルさんは再び真面目な怖い顔に戻り、全員へ確認を取ると、それに応じて各々が頷いた。本人にその気は無いのだろうが、中々の迫力だ。


「そう言ってくれんなら有難いッス。此方のチーム、その手の裏工作は苦手なもんで……テール・アーリィ・スパイクさんにも、ちゃんと言い聞かせといてくださいよ」


「ヒッ……」


 恐怖の声を漏らすんじゃないよ良心が痛む。というのも、話は2日前に遡る。学園生活3日目、偵察に来ていた彼女、スパイクさんが魔法を使って此方の訓練を妨害してきたのだ。といっても、軽くマナを吸い取る程度のものだったが……それに気づいたオレが、ちょっとばかしお話をして──まあ、うん。一応、反省はしている。


「分かった。再びになるが、テールが失礼した。申し訳もない」


「此方もその件に関しては許してるんで、これ以上は気にしないでもらえれば幸いッス」


 妨害は彼女の独断だったのだ。それに気がついたフェンネルさんは此方のチーム全員へ謝罪。件のそれは片付いたといえよう。


「じゃあ口約束ですが、其方を信用します。ほんで次、こっからはオレ個人からの提案なんスけど────」









 話し合いを終え、教室を後にする。時刻は14時ぐらいか。お腹も空いたし、遅めの昼食を済まそうと食堂へ向かう。

 料理を受け取り席を探していると、見知った顔が集まっていたので其方へ近づき声をかけた。


「よっす、おつかれさんです」


「あ、千冶。そっちも飯か?」


「用事済ませてたもんで遅めの昼食だ。そっちは……随分とお疲れのようで」


 紅藤、ジンク、ツァイト、ディア達4人が、随分とグロッキーになりながら飯を食べていた。十中八九リル先や師匠が行ったしごきの所為なのだろう。


「キミは、随分と元気なのだね。いつもあのような訓練を?」


「そっスね。備えあればなんとやらと言いますし、オレ達がいた世界と違って色々物騒ッスから」


「勇者様の出身世界。ベニフジ君に聞いてはいるけど、本当に理想郷みたいなんだね……!」


「理想郷……まあ、うーーん。この世界と比べれば、そうか」


 そんな雑談を挟みながら、昼食を食べ進める。やはり、旨い。特にパンが旨い。柔らかく、酸味もない。素晴らしい……


「そういえば、シクリィとコーレンは一緒じゃないのね?」


「アイツらとは別行動中ッスね。さっき先生方の手伝いしてたのは見ましたけど」


 あの2人は学園であっても相変わらずだ。別にその行為が自分に返ってくる訳でもなし、よくやるよホント。

 目の前の紅藤含め、アイツらは善行を積もうとか、そう殊勝なことは考えていない。ただ、自分がそうしたいから動いているのだと思われる。それゆえに、よくトラブルに巻き込まれたり、後始末をオレがすることになるのだが……その善意が回り回ってオレ達の得になったり、たまーに大事件を未然に防ぐなどの活躍をしているため、強く言えない。ええい、この主人公体質どもめ。


「えーっと、千冶……さんや。俺なんか悪いことした? なんか、圧を感じるんだけど」


「──んーん? ぜーんぜん?」






 昼食を済ませ、また1人、自由に行動する。

 長い廊下を静かに進んでいると、前方からぺオンさんが歩いてきた。軽く会釈をして通りすぎる最中、ぺオンさんに掛けておいた録音魔法を回収して再び魔法を────


「……あ?」






 うわっ……私の更新頻度、低すぎ……?


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