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特訓


 ここは第6運動場。

 足と背中に強い痛みを感じながら、俺は快晴の空を見上げていた。咄嗟に身体を起こし、俺を叩きのめした原因から距離を取る……なんてことを彼女は許さず、俺は再び地面に転ばされた。


「『トキシック・ガ──』なっ!?」


「遅い」


 俺を助けようとしたツァイトが詠唱中の隙を突かれ転倒。だが、そのほんの少しの時間で臨戦態勢へ移行することが出来、ツァイトの前に立つ少女へ攻撃する──が、するりと去なされ、腹に手痛い一撃を食らい、そのツラさに呻吟する。いったい、めっちゃ痛い!


「うん。基礎は出来てる。連携も良い。ただ、遅い。魔法の無詠唱化、それかベニフジが盾役を全うするだけで、もっと良くなる。頑張って」


 少女は表情一つ変えず、なんてことないように俺達へ告げた。なるほど、今なら千冶達が日頃から "それができれば苦労はしねェ!" と俺に向かって言っていた意味がわかる気がする。どうやら俺は彼らに酷なことを言っていたようだ、後で謝らなければ。

 ……軽い現実逃避を行うが、状況は改善しないので今の状況を整理する。うん、まるで勝ち目がない。動きは目で追えてる、勝利条件は俺達2人がかりで一撃でも与えれば良いだけ。だが、その一撃がひどく遠い。

 少女は休憩は終わりだとばかりに構えをとり、此方へ攻撃を促すよう指先を上に手招きを2回行った。


「……ツァイト、俺がなんとか食止める。その間に魔法をお願い」


「10秒だ。それだけあれば可能性はある」


「わかった、いってくる」


 ツァイトとアイコンタクトを取り、少女に向かって走り出す。なんとか近づき、少女を押さえようと接近戦を仕掛けるが、的確に此方の攻撃が捌かれる。

 やっぱり、動きが妙だ。なんというか、消えているというか、まるで滑っているような……目で追えているのに、まるで捕らえられない!


「うわっ!」


 突如襲いくる衝撃と同時に、身体は高く浮き上がり、ぐるりと回転しながら宙を舞う。まずい!まだ5秒ぐらいしか稼げてない!感覚がスローモーションになる中、ツァイトに向かって走り行く少女を目にする。くっ、なにか、なにか出来ないか。どうにか魔法を放とうにも、詠唱は間に合わない……いや、そうか。まだワンチャンはある!


 指鉄砲を作り、照準を少女へ。

 心の中で彼女の魔法をイメージし、強く念じる。


 出ろ! 出ろ! 出ろ! 出ろ!


 身体のマナが指先に集まり、燃えているような熱くなる感覚が手を襲う。やがて、集まったマナは業火球を形作り、その燃え盛る炎は少女へ向け射出された。


「は?」


 放たれた火球は、少女の拳によって掻き消される。それと同時に姿が消え、背中に強い衝撃を感じ──


 ──ボキッ ドゴンッ!


 凄まじい衝撃音がその場に響き渡ると同時に、地面におもいっきり叩きつけられ、全身を痛みが襲う。


「うん、良かった。とても良い」


 パチパチパチと拍手されるが、全身の痛みでそれどころじゃない。視線が定まらない。耳鳴りもする。マナ強化で全身を硬化させていたが、それでも多分結構な数の骨が折れているのだろう。はやく治さなければマズイ状態なのは明らかだった。


『(おいおい、こりゃひでぇ。待ってろ()()、いま回復魔法を……のわっ!?)』


 風切り音と衝撃音が同時に聞こえ、少女の拳は()()()()()が居た場所の地面を強く叩いていた。少女は無表情ながらに首をかしげ、マジマジとひび割れた地面を観察している。


『(あっぶねぇ! 死ぬ! マジ死ぬかと思った! なんでバレてンだ!?)』


「……今、なんか変な気配があった」


「ゲホッ、ゲホ。そ、そヴでしたか」


『(ヤッベー……まさかこの嬢ちゃん、俺様の微弱なマナを感知したのか?)』


 まずい、ヒジョーにまずい。なにがなんでも()()()()()のことは、隠し通さないと……俺と姿を隠したフェーレスが冷や汗を流していると、少女は無表情ながらに此方へ語り掛けてくる。


「ねぇ、大丈夫?」


「……大丈夫、ではないです。あ"の、回復魔法とか使えませんか?」


「私、魔法使えない」


「へ?」


『(オイオイ、魔法無しであの動きとかどういう身体構造してんだ……つーか探知無しの直感で俺様の存在がバレかけたのかよ)』


 痛みが全身を走る中、そんな少女の言葉に戦慄している。というか、ホントどうしよう。ツァイトもカラマス先生も回復魔法は使えないし、正直呼吸するだけで痛い現状をどうにかしたい。心なしか意識が遠退いてきたみたいだし、本当にまずい。

 いろんな要因で吹き出した冷や汗が頬を伝う最中、走って近づいてきたツァイトが俺へ心配そうに話し掛けてくる。


「キミ、無事……ではなさそうだね──『ペインキラー』。どうだい? 少しはマシになったと思うけど」


 ツァイトが魔法を使ってくれたおかげで、全身に感じていた痛みがスッと消えた。ありがたい……あれ、なんか、目の前がぼやけて……


「ありがとうツァイト。お陰様で痛みは引いてきたよ……ううん……なんだか……ちょっと……眠いや……」


「そうか、それはよかっ……うん? 眠い? ──アオイ!? しっかりしろ! アオイ!」

 

「ん! 待ってて。今、回復魔法の魔石を……あ、しまった。マナ切れ……」


「なんだって!? し、仕方ない、ちょっと貸してくれ。難しいけど、なんとかボクがマナ補充をしてみる」


「うん、お願── 「なにやってんスか」 ──チヤ、丁度良い。ベニフジ治して。はやく」


 なんだか、遠くの方で話し声が聞こえるが、なんといってるかは、分からない。目の前が、暗く、くらく、そのまま何処かへ落ちていくような──

 

「いっっっったぁあい!」


「おし、目覚めは快調か?」


 ──感覚は燃えるような痛みによって消えさり、意識は覚醒する。目の前には心配そうにしているツァイト、無表情のシクリィさん、あたふたオドオドとしているカラマス先生、あっけらかんとした千冶が四様に此方を見ていた。


「……えーっと、ありがとう?」


「疑問符をつけるな疑問符を。ったく……師匠、やりすぎです。大方テンション上がって鉱廉相手みたいな強さでやったんでしょうけどね、そういうとこマジで気をつけてください。それ、オレもたまに死にかけてるんで。あと、魔具は定期的にリル先に点検してもらわなきゃ駄目じゃないっスか」


「うん、ごめん」


「……色々と聞きたいことはあるんだけど……なに、鉱廉の奴、いつもあんなの受けてるのか?」


「おう、アイツは色んな意味で打たれ強いからな。身体的にはそんじょそこらのドラゴンよりしぶといぞ」


「ドラゴン」


「そう、ドラゴン」


「竜種よりしぶとい人間か、なんとも実感が──いや、まさに目の前に居るな」


「ん」


 知らぬ間に幼馴染みがドラゴン以上の耐久力になっていた……駄目だ、全然頭が回らない。流石にこの状態で模擬戦はキツいので、少し休憩させてもらおう。

 そんなこんなで一段落した頃。千冶が魔法で生成した温水を使って血や汚れを洗い落としながら、俺はカラマス先生から改めて説教されているシクリィさんの姿を横目に、1人思いを巡らせていた。


「無詠唱魔法、か」


「ああ、確かに使えていたな。あれはディアの炎魔法だったか……まあ、確かに、彼女の魔法は目に見えて強力だ。ボクの魔法よりも豪快で即効性に優れているだろう。だがキミ、あの場で使うべきはボクの魔法だったぞ。ボクの魔法であればシクリィ殿を弱らせることが出来た筈だ。まさかディアの魔法が使えてボクの魔法が使えないなんてことはないだろう?」


「あ、あれはツァイトにシクリィさんが迫ってたから、何とかしようと、その、咄嗟に」


「む、そ、そうか。ボクの為、か」


 おや、何処かムッとした表情のツァイトだったが、あの場でディアの魔法を使った理由を言った途端にまた様子が変わった。まあもう怒ってないようなら良いんだけど……何処か顔が赤いような?額を合わせ、熱を測る。うーん、別にそこまで熱いってわけでも無さそうだ。考えすぎか、きっと激しい模擬戦で疲れているのだろう。

 あの模擬戦。確かにツァイトの言う通り、後の事を考えるのであれば、あの場で使うべきはツァイトの魔法だったかもしれない。でもそれじゃあツァイトがやられてしまう。もし実戦であれば、その選択はきっと後悔することになるだろう。

 そうだ、俺がもっと強くなれば、他の人を守ることが出来るようになる。うん、やっぱりイキシア先輩の言う通り、俺がもっと、もっと力をつけないと。

 そう心の中で決心していると、ガシッと強めの力で肩を掴まれる。何事かと思い振り返れば、そこには般若のように顔をしかめた千冶が居た。一体どう……イタ!イタタタタイ!イッタイ!


「いたたたた! ち、千冶さんや。俺なんか悪いことしましたかね」


「いーやー? べっつにぃー? ──それより聞きたいことがあってな。師匠……シクリィさんから今日の模擬戦について、軽いルール説明があったろ?」


「ルール説明? あー、確か……今日の模擬戦は、シクリィさんが攻撃を往なしきれずに一撃食らわされたら終わりだって言ってたけど」


「なるほど。了解、ありがとな」


「おう? ……ん? 千冶?」


 肩に置かれていた手の感触が突如消え、千冶はいつの間にかシクリィさんの近くへと、ゆっくり歩み寄っていた。

 おかしい、俺はしっかり、千冶の姿を捉えていた筈だ。それなのにどうやって、一瞬で視界の外に消えたのだろうか。


「──ん、ごめん。反省してる」


「はい。シクリィちゃんも悪気があった訳じゃないのは分かってるから、以後気をつけましょうね」


「うん……それと、カラマス先生」


「はい?」


「あの2人を邪魔にならない場所まで移動させておいて」


「へ? それって──きゃっ!?」


 和やかな会話の最中、少女がカラマス先生を突き飛ばすと同時に、地面から灰色の泥のようなモノが溢れだす。泥はまるで蛇のように形作り、少女を拘束。そのまま地面ごと少女を天高くまで突き飛ばした。

 視線は自然と天を見上げ、そして気がつく。黄金色の光が、訓練場を覆っていることに。その光球達は、飛ばされた少女を囲むように素早く動いており、2秒と経たぬ間で少女は、ただ一方向を除いて完全包囲されていた。


「……むぅ」


「敵討ちって訳じゃないっスけど、先達として、ちょっと格好つけさせてもらいますわ──『UHD マジックレイ』!」


 音もなく、物理的な衝撃もなく、それは放たれた。

 訓練場の空気中に存在するマナが減少し、直後に膨張する。同時に、この場を1本の光が支配した。それは、極太の巨大な、指向性のある光線だ。少女は伸びゆく光線と光球群に挟まれ、衝突。光の中へ飲まれ消え、エネルギーの行き場を失った光球と光線は、激突地点である少女を中心に爆発した。


 2つの理由で言葉が出なかった。

 前者は千冶の魔法で度肝を抜かれたから。そして、それ以上に信じられないことが1つ。爆発した場所から自由落下した影が、千冶に向かって猛スピードで接近していた。


「危なかった」


「今の往なせた判定なのマジっスか……!」


 カァンという音と共に、槍と棍の鍔迫り合い。固い木材がぶつかり合う音が訓練場を支配する。

 目で追いきれない。姿はそこに見えるのに、攻撃が速く巧みで、なにをやっているのか、少ししか理解できない。


「すっご……」


 ポツリと、無意識に本音が口から漏れた。











 ──ここは郊外。リル先監督の元、俺、ヘーベ、ディア、ジンクは1つの丸テーブルを囲み座っていた。テーブルの上には美味しそうな茶菓子と紅茶が人数分置かれており、先んじてリル先は優雅にティータイムを行っている。

 出来るのならば、俺もそうしたい。けれど、問題が1つ。


「ディア! 其方に大物が来るぞ」


「『スプレッドブレイズ』! 分かってるわよ! そっちこそ、群れが来てるけど大丈夫なの」


「フンッ、この程度ボ……私の敵ではない!」


「あ、あわわ、た、たすけ──」


「ジンクさんのサポートいきます! ディアさんとヘーベは引き続きそっち側頼みます」


 四方八方から大量の獰猛な動物達が迫り来る。おかしい、どうして、どうしてこんなことに──


「それどうした。はやく殲滅しないと、折角の茶が冷めちまうぞ?」


 この状況を作り出した元凶の一言により、バラバラだった俺達の気持ちが初めて一致した。






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