親友の思考
うおー! 本年もよろしくお願いしますー!
「やっぱさぁ、技名が『光線』だけじゃ格好悪くね?」
「おう、唐突にどうした」
教室で先生を待っている時間、後ろの席に座っている鉱簾がそう話し掛けてくる。確かに『光線』だけじゃ締まらないというの分かるが……
「いや、昨日の実践訓練あったじゃん。そん時、魔法放つ前に『パワフル・レーザー』って試しに言ってみたらさ、なんか気合いの入りようというか、魔法のキレが違ったんだよ。あとほら、シンプルな技名だと、相手にどんな魔法放つか伝えてるようなもんだしさ」
さて、どこから突っ込んだものか。
「そりゃ、詠唱有るんなら威力も上がるだろ。気合いが入ればイメージも増幅する。前にしたろ、この話。それと、基本的に魔法の詠唱は翻訳魔法の適用外。聞いてる側からすれば日本語っていう未知の言語だ。あと、レーザーはLight Amplification by Stimulated Emission of Radiation(誘導放出による光増幅放射)の頭文字だからな。魔法で生み出したあの光線って正確に言えば──」
「なんの話してんの?」
チラりとマナ式クォーツ時計を確認した後、話し掛けられた方へ、振り向きざまに話しかける。
「コイツが魔法の詠唱を格好よくしたいって言い出してな──時間ギリギリに美少女2人も侍らせて登校とか、お前そのうち背中から刺されても知らんぞ」
「なんでぇ!?」
紅藤とツァイトさんディアさんのトリオだ。コイツの人たらしは異世界でも健在か。
相変わらずの様子に溜め息をついていると、廊下を歩き教室に近づいてくる見知ったマナが二つ。この気配は──
「はーい、すみませんお待たせしました~。初めまして、私は皆さんに医学と徒手空拳をお教えする、ぺオンと申します。あまり一緒に居ることは出来ませんが、どうぞよろしくお願いしますね~」
ガラガラと教室の扉を開けて入ってきたのは、フードを深く被ったローブの男。ぺオンさんと、おどおどした様子のカラマス先生だ。紅藤やジンクさん達は若干面食らったような反応を見せながら、ジッとぺオンさんを見つめる。
「さて、親睦を深めるためにも、皆さんに自己紹介してもらいたい気持ちは山々なんですが……時間もないので、早速授業を始めさせてもらいますね~」
ぺオンさんは手慣れた手付きでチョークを取り、黒板に人体図を描き始める。現代で見慣れたような、分かりやすい図だ──ふむ、改めて思う。やはり、この世界は歪だと。
元の世界であればヨーロッパに位置するこの地域で、人体解剖が行われた記録が残っているのは紀元前3~4世紀頃。その後は禁止にされ、1300年頃まで公に人体解剖図が発表されたことはない。本格的な人体図が書き起こされたのは、ルネサンス期。有名なものだと……かの万能の天才、レオナルド・ダ・ヴィンチが模写したソレだろうか。
こういう時代にそぐわない技術や常識が広まった原因は、過去に別世界から転移・転生してきた者達が伝えた情報からだろう。それにより、オレの知識が通用しないことが間々あるので困る。そしてなにより、こういった元の世界と何が違うか。それはどうしてか。それらを考えることで、この世界の謎に迫ることで元の世界に戻れる手懸かりを見つけられるかもしれないため、こういった情報整理はやめるにやめれない。
そもこの世界、文化水準でいうならば精々が5世紀頃なのだが、オレ達の世界と照らし合わせれば実際は紀元前──
「──さて、これから皆さんに覚えていただくのは、緊急時に行うべき適切な処置についてです。回復魔法にも、色々な種類がありますからね~。私の説明に質問があれば挙手をお願いします」
そんなぺオンさんの声で、情報整理のため思考の海に沈んでいた意識を浮上させる。おっと……今は先ず講義に集中か。
適度に休憩を挟みつつ、3時間ちょっとで講義は終わった。
その後、オレ含めた今日の班員である紅藤、師匠、ツァイトさん。そして、教師であるカラマス先生の計5名で集まり、昼食がてらに話し合う。
「モグモグ──ングッ!」
「あーあー、どぞ水ッス」
「ん……ぷは、ありがと」
「あはは。シクリィちゃん、相変わらず良い食べっぷりですね」
「うん。ここの食事は、質が良い」
分かる。いや、普段の食事も別に美味しくない訳じゃないが……それはそれ。元の世界の食事と比べれば数段グレードは下がるものの、やはり旨い。そも、研究しつくされた現代の食事と比べられる時点で凄いと言えよう。
なによりも、この昼食の費用は学園側が負担してくれるそうなので、みるみる内に積み上がってゆく皿を安心して見ていられる。
「……どうしたお前。そんなアホヅラ晒して」
「ごめん、ちょっと処理しきれてない」
ポカーンと口を開けて呆ける紅藤とツァイトさんの様子に、ある種の懐かしさを感じる。師匠の食いっぷりに鉱簾も似たような反応していたな。
「うん、ご馳走さま。おまたせ。今から、午後に行うことを決める」
「うっす。つっても師匠の事ですから、今日はずっと戦闘訓練でしょう?」
「うん、正解」
「え、えっと、あの……エイリル先生が仰っていらした敵情視察というのは……」
「あー、それも行うべきではあるんスけど……正直な話、今行うべきは戦闘訓練ですよ。敵さんの今の状況を調べたところで、実戦は1ヶ月後。自分で言うのもアレっスけど、かなり成長早いっスから、15~18歳の少年少女達って。結局はまた調べることになります」
「適度に調べる程度で良い。今は誰が何をどの程度出来るのか、調べて鍛えるのが一番」
「うん、ボクもその意見には同意するよ。結局のところ、実戦で必要なのは状況把握とチームプレーだからね。いくら情報を集めても、戦力が整ってなければ意味がない。訓練はしておくべきだ」
「じゃあ、この後は運動出来る場所に移動して訓練開始だな。そうと決まれば、運動場の空きを確認しないと──」
「──あ、えっと、その、ごめんなさい。今の時期はあらかじめ先生方に了承を取らないといけなくて……その、今すぐには」
「それならもうオレが第6運動場を取ってますから、大丈夫ッスよ」
「おー、流石千冶! 用意周到だな」
というか、昨日の時点で何やるかは相談していたしな。変わる可能性もあったが、多分やるだろうことを見越して先んじて取っておいた甲斐があった。
「それじゃあ腹ごしらえも済ませましたし行きま……あ、悪い。すまんが、オレちょっと用事思い出したから、先行って始めといてくれね?」
「用事かい? まあ、別に良いが……一応聞いておこうか、どういった用事なのかな?」
「あー、まあ……図書館に忘れもんしたみたいなんで、それ回収するだけっスね。そんな時間かかるもんでも無いんで、先始めちゃって下さい」
「え、珍しいな。お前、忘れ物なんかするんだ」
「お前はオレを何だと思ってるんだ……」
とまあ、そんなこんなで魔法鍵をカラマス先生に渡し、班から一時離脱。1人寂しく図書館へ向かう。
──ま、忘れもんしたなんて真っ赤な嘘なんだがな。
出向いた先は魔法学園が所有する大図書館。本がぎっしり詰まっている棚が、まるで都会のコンクリートジャングルが如く無数に聳え立っていた。
閲覧席を中心に、図書館全域に疎らに配置していた録音魔法を回収し再び配置……うん、大丈夫そうだ。やっぱこの魔法、録音した情報全てを瞬時にインプット出来るのは良いな。便利なんてもんじゃない。といっても、数日放置したものを回収する時に、一気に情報が入ってきて頭に激痛が走る地獄を体験するのがネックではあるがな。今回は──大した情報なんて無いか。ま、たった1日でそう欲しい情報を聞けるとは思っていない。
気になる本達に後ろ髪を引かれつつ、本棚の奥へ奥へと進んでゆく。そうして図書館の最奥、終着地点にあったのは、簡素的な1つの木製扉だった。しかし、見た目はそうでも中身は違う。なによりも、マナ探知で調べた結果がそれを現していた。
「……やっぱ駄目か」
オレ達の目的は、元の世界に帰るため、約60年前に別世界から人間を転移させる魔法が描かれた書物の情報を得ること。ならば、馬鹿正直に1ヶ月後の模擬戦に勝たずとも、今どうにかしてその本を手に入れれば良い。
……のだが、やはり扉は厳重なセキュリティによって守られている。どうにかセキュリティホールでも見つけられば良かったのだが、いくら調べてもそれは無さそうだ。
うーん駄目そう。なにより、この学園にいる限りオレ達の行動は監視されている。無理に扉を壊そうものなら、オレは直ぐ様捕えられるだろう。
仕方がないので、諦めて運動場へ向かう。一応敵方の使っている教室などにも録音魔法を仕掛けてはいるが……回収は夜頃に然り気無く行うべきだろうな。
長い廊下を進み運動場へ。鳥の囀ずり、暖かな風、快晴の青空。異世界のこういう所は実に良い。自然の中でリラックス──などと考えていれば、前方からドゴンと聞き慣れた鈍い音が聞こえてきた。
「おー、やってんな」
……………………行きたくねぇー!
はい、おまたせいたしました(21日振り)
これからも、ちょびちょびと投稿してゆきますので楽しんで頂けたら幸いです。
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