幕間話 説明会II and──
学園長死亡時の懸念により、魔法学園で優れた教師を決めるための模擬戦闘『鉾楯戦』。
ルールはシンプル。2名の教師がそれぞれ8名の生徒を選び、1ヶ月の育成期間を経て行われる団体戦だ。魔法学園が所有するバカ広い森に計16名の生徒を無作為に配置し、相手方8名と戦闘させる。降参する、若しくは戦闘続行不可能となった場合、魔法で学園に戻される仕組みである。制限時間は3時間、タイムアップ時に残っていた人数の多いチームが勝利となる。殺人以外のルール違反は存在しない。
勝利したチームを育てあげた教師には次期学園長の選択権を。そして、勝利した生徒には──
「魔法学園の所有する図書館、閲覧室の最奥。国が秘蔵するトップシークレット、強力すぎる魔法や、使いようによっては世界が混乱に陥りかねない禁術が収められた書庫への出入りが自由になる……か。こういうパターンっていっつも不思議なんスけど、そんな重要なもんが何で学園なんかにあるんスかね」
「魔法学園は学園長並びに、ソルダレナ帝国国王や勇者によって創られた学園だ。国王や勇者は処分に困った書物を厄介払い……ンン"! 学園長を信頼し預けたのだと」
おい今厄介払いつったぞ。
先の戦闘訓練から話は進み、場所は教室。指定された席へ全員が座ると同時に、視線の全ては教卓の前に現れたリル先へと集った。その後にリル先が『鉾楯戦』の説明をしたのだが……内容自体は事前に知っていた。いやまぁ、昨日聞いた時点では大層驚きはしたのだ。なにせ、この学園に来た理由の半分は、件の書庫に納めれた1冊の本。今から約60年、後に勇者と呼ばれる少年を異世界から召喚した魔法についてが描かれたソレなのだから。リル先曰く「学園に貢献しながら交渉すればワンチャン」程度だったそうなのだが……まさかチャンスがこんなにも早くに来るとは思っていなかったそう。
「ここ1ヶ月間に行う座学は、お前さん方高等部の生徒が行う座学とはちと違う。主に教師陣が指導し、実戦闘に向けてより洗練した魔法を行うためのものだ。そこんとこヨロシク。
さて、先ず最初に行うのは基礎的な魔法の解釈だ。そうさな……千冶、私含めお前さん方『オール・トレード』と、一般的な魔法使いとの違いはなんだと思う?」
「へ? あー確か……一般的な魔法使いには得意とする属性があり、それを世代を越えてより洗練したモノに昇華させている。その為『オール・トレード』のように他属性の魔法は扱いづらいものの、得意な属性であれば、より効率的に強力な魔法を扱える……んでしたっけ? それならまぁ、一芸特化かオールラウンダーかみたいな感じスかね」
「大方はそうだ。では鉱簾、もしお前さんが普通の魔法使いを相手にした時、取るべき行動はなんだ?」
「え……状況によるけど、魔法使わせる前に倒すとか?」
「それもまた正解ではある。だが甘い。先ず行うべきは情報収集、どのような魔具を持っているか、得意な属性は何か。使用する魔法は、戦闘方法、相手の情報を探り、戦いに発展させる前に倒す。魔法使い同士の戦いなんざ、例外除いて後だしジャンケンだ。そんで、ついでに言うなら、その人の得意な属性は眼と髪の色を見れば分かる。これは頭の中にある魔石から漏れだしたマナの影響で色付くから……っと、こりゃ余談だな。後で教材渡しとくから暇な時にでも目ぇ通しておけ」
「うっす」
「さて、今語った通り、戦いの勝敗は始まる前の準備で決まる……例外はあるがな。そこで私から、お前さんらに今日から『鉾楯戦』までの間、2つの課題を与える。先ず1つ目は敵情視察。言うまでもないが、此方も探られていると思って行動しろ。そして、もう1つは──」
「──つっかれたぁ」
「この眠気は久しい感覚だな……」
「……zzz」
夕焼けに照らされた渡り廊下を、気だるげに進む3人の人影。鉱簾は静かな寝息を立てて眠るシクリィをおぶり、千冶は3人の荷物を肩にかけ、本日の内容を纏めたメモを見ながら歩く。
「異世界言語マジで覚えられねぇ……チーヤー、魔法でどうにかならないー?」
「無理だな」
「お前ね、覚えてるからってそんなバッサリ言わんでよ」
「生活してりゃ覚えるだろ。形態自体は英語みたいなもんだ……にしては一人称沢山あったり、どっかしらにジャパニーズみを感じるのは引っ掛かるが」
「?」
「いや、今は別に良い。あと1ヶ月耐えりゃ元の世界に帰れる見立てが立つ……といいんだがな」
「まー大丈夫じゃね?」
「……そう思う方が気が楽か」
「そーそー、にしても明日から別行動か。いやぁ、この非日常感って何でこんなワクワクするんだろ」
「そりゃドーパミンが──」
別行動。というのもリル先からの課題で、親睦を深めるために明日から4人1組となって行動する上、1日1人ローテーションするようなのだ。鍛練と清掃作業ばかりだった日常から解放されたのもあり、特殊な学園生活ということでテンション爆上がりである。
「──お、ヘーベ達だ……あれ、紅藤居なくね?」
「え、あいつハブられてんの?」
長い廊下を歩き続け、居住区に差し掛かると同時に紅藤を除いた4人がロビーで話し合う姿を確認する。彼方も此方に気づいたようで、ツァイトさんがトテトテと近づき話し掛けてきた。
「む、君達は……丁度よかった、ベニフジを見なかったかい? いつの間にかはぐれてしまってね」
「あー……教室出てからは見てないっスね」
「其方もですか」
「もう、目を離したらすぐ居なくなっちゃうんだから……!」
「全くだ。毎回どこで道草を食っているのか」
「アイツそんな迷子キャラだったっけ?」
「いや……まぁ、いつもの人助けじゃね?」
「「「「「あー……」」」」」
あり得る。それにこの学園無駄に広いから、それもあるのだろう。にしても一体何をしてるのやら。
人気の無い廊下の奥の奥。掃除の行き届いていない部屋の中から、男の話し声が微かに漏れだす。
聞こえる音はただそれだけ。薄暗い廊下を進む怪しい人物は、その音を聞き取り、溜め息をついて教室の前へ。
そのまま立て付けの悪い扉を勢いよく開けて中へ入れば……1人、妙な体勢で倒れた紅藤を見つけた。
「何をしとるんだお前さん」
「あ、え、エイリル先生。ども……えーっと、ちょっと物音が聞こえて、猫かなぁなんて思って探してたらこんなことに」
「……猫ね。ま、多分ネズミ駆除の益獣だろう。放っといてやれ」
「そ、そうですね。それじゃあ俺はこれで失礼──」
「まあ待て。ちょいと、話をしよう」
その場から逃げるように歩きだした紅藤を、エイリルは肩を掴んで止める。そうして彼は魔法を使い、椅子で机を挟む形になるよう家具を移動させ、掴んだ青少年を椅子に座らせる。
「なぁに、そんな怯えなくて良い。ちょっとした雑談さ」
「は、はぁ」
「……もし、お前さんが元の世界に帰れるとして、帰りたいか?」
「え、そりゃ帰りたいですけど……帰れる方法があるんですか?」
「ああ。この学園の書庫にゃ、過去に異世界から人を召喚した魔法について描かれた本がある。この世界に呼び出せるんなら、その逆。この世界から送り返しちまえばいい。私はその為にこの学園に来たのさ。
……改めて聞くが、この世界の友人を置いてまで、元の世界に帰りたいか?」
これは、彼からすれば意地悪な質問だ。彼は青少年の性格を、善性を青少年の親友から聞いている。それでも、今聞いておかなければならなかった。
「──それって、その魔法を使えばこの世界に来れるんですか?」
「……は?」
「ああいや、えっと……元の世界に俺が突然居なくなって心配する人も居ますし、この世界にも俺が居なくなったら悲しむ人が居ます。それに、俺だってどっちかにしか会えないなんて嫌ですし──」
青少年の言葉を聞いた彼はピタリと動きを止め、ジッと仮面越しに青少年を見入る。
「……もう良い、お前の気持ちは分かった」
「へ──うぉっとと、えと、これは?」
彼の様子に戸惑いながら話す青少年を止め、彼は虚空から腕ほどの大きさの板を取り出し、青少年に放り投げる。青少年はその板を何とかキャッチし、視線を受け止めた板と仮面を交互に移す。
「魔具の籠手だ、やる。つけてりゃそこそこの衝撃吸収効果がある。詳しい説明はソイツを友人に見せりゃいい」
「ど、どうもありがとうございます?」
「疑問符をつけるな疑問符を。引き留めた詫びだ。すまんな、変な質問しちまって。
……それと、最後に1つ、先達から忠告だ。手前に何が憑いてるか私にゃ興味もないが──ソイツは、信用しても、絶対に信頼はするな。後悔したくなきゃ、きちんと手綱は握っておけ」
「……それって── 「引き留めておいてなんだが、そんな時間あるのか? 友達、待たせているんだろう?」 ──あっ、そうだった……やっべ、すみません、失礼します!」
青少年はドタドタと教室から勢いよく飛び出す。夕焼けに照らされながら走る、そんな彼の後ろ姿を、エイリルは薄暗い廊下に佇み、ジッと見つめていた。
よいお年をー!(1時間後)




