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容赦無し


 呆気に取られる生徒を前に、岩石群が消滅した広場の中心に立つリル先は、パンパンッと手を叩き、両手を広げて話し出す。


「座学も終えたところで、今から実践形式の戦闘訓練へ移る。といってもまァ、お前さん方に課すルールは1つだけだ。私が次に手を合わした後、君達が私を攻撃し、その攻撃を私が防御しきれず受けてしまった場合、その瞬間から今日の訓練は終了とする。何か質問はあるか?」


 自然体でそう話しながら、流れるような動作で広げた掌をゆっくりと合わした。

 その途端、動き始めた者は俺含め4人。師匠は待ってましたと言わんばかりに距離を詰め、方向が被らないよう俺、千冶、へーべはリル先を中心に広がり、各々攻撃を繰り出す。

 攻撃を繰り出そうと踏み込む少女、凄まじい勢いで伸びてゆく棍、津波のような濁流、歪曲しつつ上空から襲い掛かる光線。異なる間合い、異なる方位から放たれる攻撃。その中心に佇む彼は、なんてことないよう、その攻撃全てを対処する。全身を魔法で生み出した岩で瞬時に包み浮遊、その場でモーターのように回転し始めた。岩で此方の攻撃を弾き、受け流すと共に、隙をみて身に纏った岩を破裂させ、回転の勢いそのままに飛び散る石達は、まるで散弾のように地面へ突き刺さった。


「え、はっ、え?」


「ボサッとすんな! 殺されたくなきゃ動け、攻撃しろ!」


「質問タイムは!?」


「すりゃ良いだろ、きっと答えてくれるぞ」


 不味いな……正直な話、初手防がれたら勝ち目は薄い。幸いなのは師匠が味方だということか、でなきゃ本格的に勝てなくなっていたところだ。師匠とリル先の強さは別格。今は師匠とリル先の戦いをなんとか視界に収めているが、魔法で援護しようにも邪魔になってしまいそうで中々撃てない。出遅れた紅藤、ツァイトさん、ディアさん、ジンクさんは激しい近接戦闘を前に動くことが出来ずにいる。


「師匠ー! あと何分ぐらい持ちそうッスかー?」


「2時間」


「オーケー、作戦ターイム!」


「認める」


「言ってることとやってることがチッガァーウッ!」


 認めるなどと言いつつも、此方に向けて光線を放つリル先だったが、間合いを詰めていた師匠によって放たれかけた光が弾かれ魔法の幾つかは不発となった。しかし、無数の光球から放たれる光線全てを叩き落とすことは出来ず、逃れた数本が此方を的確に追尾してくる。

 俺と千冶、そしてヘーベは各々防ごうと魔法を無詠唱で発動するが、紅藤達は咄嗟の詠唱が間に合わずに魔法を使えずにいた。このままでは直撃すると思い、マナを圧縮して固めた透明な壁を彼らの前に出そうと魔法を使う──その前に、紅藤は追ってくる人数分の光線に向かって走りだし、その全てを一身に受け止めた。


「「「アオイ!」」」


「おいおい、直で……大丈夫かー?」


「大丈夫ー! いっつつ……」


「痛がってんじゃねぇか」


 魔法無しで空中戦を繰り広げている師匠を尻目に、紅藤へ近づいて魔法で身体を解析。適切な回復魔法で火傷を癒す……改めて思うが、やはり師匠はおかしい。徒手空拳で魔法を弾くとか、どういう身体してるのか……もし魔法を使えたのならと思うとゾッとする。


「はぁ、全く。相変わらず貴様の自己犠牲精神にはウンザリするな。確かに、師……エイリル先生は、意図的に魔法の威力を抑えている。しかし、だからといって何度も受けては身体がもたんぞ」


「なぁに、お前に教えてもらったマナ強化のお陰で口先だけじゃなくなったんだ。見てろ、今の俺は1ヶ月前と段違いだぜ」


「フンッ、此度の相手は手強いぞ」


「手伝ってくれるんだろ?」


「……そういうところだ貴様!」


「なんで!?」


「あー、なんか察した」


「コイツの気質、昔っから変わらんからな……」


 やはり、紅藤は異世界であろうと相変わらずの性格なのだろう。それにしてもあれか、ヘーベって昔ながらのライバル系親友キャラ? 現実にいるんだ、そういう人……って思ったけど紅藤(主人公)キャラは確かに見たことあったなと勝手に納得する。

 そんな雑談の最中にも光線は度々飛んできており、それを魔法で俺と千冶は防ぐ……が、流石に続けばマナ切れが起こるので、出来れば早く動いてくれるよう言葉で急かす。


「あのー、熱い友情確かめ合ってる最中悪いんだけど、さっさと攻撃してくれますぅ!?」


「オレ達ずっと防げる訳じゃないんでー!」


「あっ、ごめん! 助かってる、ありがとう!」


「なっ、この私がコイツに友情だと!?」


「そんなこと言ってる場合じゃないでしょ! あーもう、これだから男子は!」


「え、えと、ディアさん。勇者様の手記じゃ、大まかな括りの決めつけはあんまりよくないって……」


「あーあー、駄目ですねコレ。全く統率が取れてない……仕方ない、注目!」


 混沌渦巻く中、ツァイトさんは大きな声で此方へ話し掛け、先の大口で恥を搔いた汚名返上と言わんばかりに指揮を取り始める。


「各自エイリル先生を包囲するように移動! 彼女の邪魔になる可能性があるので、先生を直接狙うのではなく、逃げ場を無くすよう魔法を使用するように。ボクが最低限指揮を取りますが、基本的に自己判断で動いてください!」


「「「「──了解!」」」」


「的確な命令助かるー!」


「動くなら早く動いてくれ、そろそろ限界近い!」


 俺達が更に急かせば、彼らは指揮通りに走り始める。ふぅ、結構楽になった。限界近いといっても、マナ総量の5割近くは残ってはいるが……にしたって2人で7人分の攻撃を受けきるには厳しいものがあった。

 ツァイトさんの指揮通り、各々が配置につき、攻撃、援護、補助を行う。

 斯くして実践形式の戦闘は本格的に始動し──







 ──太陽が南中した頃、草原に立っていたのはリル先と師匠だけだった。7名のマナは疾うに枯渇し、息も絶え絶えに倒れている。

 そして未だ戦っているリル先と師匠であったが、ぐぅーっといった腹鳴と共に師匠がピタリと止まり、気の抜ける事を言い出した。


「──お腹空いた」


「……ま、これぐらいで十分か。お前さんら、実践訓練は一旦終了するぞ。1時間の休憩を挟んだ後、605教室で授業を行う。それまで自由行動」


「ウッス、ありがとうございました」

「ありがとうございましたぁー」

「うん、ありがとうございました」

「……ありがとうございました」


 此方の返答を聞いたリル先は姿を消し、師匠は昼飯を食べに食堂へ向かう。へーベと千冶は水浴びに移動し、残された俺は何とか身体を起こして、ふらつく足取りのまま荷物の所まで歩いた。

 原っぱに倒れている彼らを一瞥し、袋から5個のコップと水の入った革袋を取り出し、そのまま広場に倒れ伏す4名の下へ。コップに同量の水を注いで彼らへ差し出し声をかけた。


「おつかれさま。これ、どーぞ。塩と砂糖、あと絞った果実汁の入った綺麗な水だから、補給にピッタリだぞ」


「助かる……」

「……ありがと」

「ああ、すまないね」

「あ、ありがとうございます……」


 ヨロヨロと、元気なさげに返事する彼らを見て、改めて心配になる。正直、リル先の模擬戦は心が折れそうになる。初めてならば尚更だ。ぽっと出の人に軽くあしらわれたら、そりゃあ元気も無くすだろうが。


「随分と、堪えたみたいで。歩ける?」


「……なんとか」

「ボクは少し休ませて欲しいな……」

「私も」

「僕もー」


 全員ぐったりとした様子で水を口に含む。それを横目に、身に付けていた魔石からマナを吸収し、回復魔法を俺含めた5人に掛けて傷を癒す。


「「「いったぁい!」」」


「つぅ……ああ、回復痛か。相変わらずこの痛みは慣れないな」


「ごめん、でも我慢してほしい。レディの肌に傷は残せんからね」


「「俺/僕は?」」


「オマケだ感謝しろイケメン野郎共」


「相変わらずブレないねお前……ありがと」


「あ、ありがとうございます……」


 むぅ、こんな言い草の奴相手に本当に感謝するやつがいるか……明らかに口数が少ないし、こりゃ相当落ち込んでるのだろう。俺は、彼らが今までどんな努力をしていたのか全く知らないが、彼らには多少なりとも己が強さにプライドはあったのだろう。戦闘中の姿がそれを物語っていた。

 ──うーん……


「……紅藤」


「ん? な──モゴッ!? モガガ、モグガンガ!」


「飯食お、飯」


 魔法で袋を取り寄せ、中から取り出した固いパンを紅藤の口に押し付ける。魔法では傷は治せても、精神まで癒せないのだ。


「完全に俺の持論なんだけど……飯食って身体鍛えて、勉強してよく寝れば、人間案外強くなれるもんなのさ。それにほら、リル先言ってたろ? お前らなら自分より強くなれるって。あの人、事実を曖昧にしても嘘はつかない人だから」


 我ながら励まし方が下手だなと思う。けれど、言ってることは本心で、落ち込んでる彼らをなんとかしたくて。


「だから……強くなってリル先の顔面ぶん殴ってやろうぜ」


「ぶん殴るの!?」


「それか魔法でボコボコにしよう」


「お前、そんな物騒な発想してたっけ……」


 俺の言葉に驚き呆れつつも、彼はニヤリと笑い話し出す。


「ありがとな、気遣ってもらって。でも大丈夫だよ──俺達、そんなヤワじゃないから」


「……成る程、こいつは失敬したな」


 ああ、成る程。どおりで師匠は彼らを心配しなかった訳だ。

 彼らの顔を見て、俺の心配は杞憂だったのだと察した。

 彼らが、リル先との実力差に落ち込んでいた?──いいや、とんでもない。彼らはリル先に勝つ算段を考えていたのだ。だって、その目は、その表情(カオ)は、次は勝つとばかりに、野心に満ち溢れていたのだから。




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