ようこそ、こちら側へ
俺らが泊まる筈の室内に、7名の少年少女が1つの机を囲むように座っている。狭苦しいことこの上ない部屋で、俺は魔法で作り出した木槌を打撃台にカンカンッと叩きつけた。
「それでは只今より、被告紅藤に刑を執行します」
「まっ、待て待て待て待て! 異議有り! 異議アーリッ!」
「「却下」」
「くっ……だーかーらー! あれは事故なの! お前らの勘違いなんだって。」
「いいや、だとしてもト ラブる罪で羨ま死刑だ」
「執行猶予は与えんぞ」
「なんだよトラブル罪って……はぁ、お前らも相変わらずだな。でもまあ無事みたいでよかったよ。俺もこの世界に来たときは独りぼっちで、右も左もまるで分からなかったからさあ」
「そんな状態だったけど今は彼女が2人も居ると。けッ! 色男め」
「かっ……!?」
「違うって! ツァイトとディアは友達で、この部屋に居たのも学園長から頼まれた掃除を手伝ってもらってただけで──」
「へぇー、友達ねぇ?」
千冶と目を合わせ、無言で話し合う。視線は自然に彼女達……空色髪の小柄なディアさんと、緋色髪の豊満なツァイトさんへ向かう。俺が彼女と言った時の驚きつつも満更でない感じと、アイツの友達という言葉に複雑そうな反応を見せた様子からして……
(どう思う?)
(これはギルティ)
(だよなぁ)
「……再三言うけど、人の好意はきちんと受け止めて返せよ。マジお前ほんっとそういうとこだからな」
「おう?」
駄目だコイツ……相変わらず鈍感の一言では片付けられないレベルで恋愛方面に疎いな。マジでそのうち背中から刺されかねんぞ。
「ま、取りあえず今は互いに情報共有しよう。何もないのもあれだし……ちょっと待ってろ茶淹れるから。菓子は……一応ドライフルーツぐらいならあるけど、誰か持ち合わせてたりするか?」
「パンならある」
「師匠、腹減ってるにしてもそれはないッス」
「──それでディアが毎回何かにつけて競ってくるようになってさ」
どうしよう、砂糖なんて入れてない筈の茶がクソ甘い。なんだ、惚気話か?喧嘩なら言い値で買うぞ。
ドライフルーツをツマミながら、リル先と師匠の下で御世話になっていること、鍛練やギルドの依頼をこなした話などを喋った後に、紅藤達の話を聞く……が、触りだけでも主人公感満載いうべきか、此方とはえらい違いである。
紅藤がこの世界に来た時、そこは此処魔法学園の中だったそうだ。右も左も分からない状況でツァイトさんと出会い、学園長のところに案内されて、以後ツァイトさんに面倒見てもらいながら学園で修学したとのこと。その後、ヘーベとの決闘や、それで一目置くようになったディアさんとの競争。危険生物駆除などを行っているそうだ。
「随分と順風満帆な異世界学園生活じゃないか。それに比べてオレ達は──」
「それ以上は言ってくれるな、悲しくなる」
「あはは……でもまあ、トラブル続きなんだよね。今もちょっと学園全体が騒がしいというか」
「……私が学園から離れてまだ1ヶ月程度だろう? 何があった」
「実は──」
「──随分、衰えましたね。学園長」
「ガッハッハ! 英雄と謳われた男も寄る年波には勝てんよゲホッゲホゲホケホ……」
学園長室でエイリルとレレクスが話す最中、咳き込んだレレクスの目の前に、エイリルは魔法で水を生み出す。レレクスが落ち着いて目の前の水を飲んでいると、エイリルは彼の負担を減らすためにもさっさと話を終わらすよう口を開いた。
「……それで、用件とは」
「ああ、そうだったな……つってもまぁ、分かってんだろ? この魔法学園は、勇者の奴に話を聞いて設立した貴族の学舎だ。
だが、創設者でもある学園長の俺がこんな調子だぜ。どんな医者に診てもらっても、いつくたばったっておかしくねぇ身体だ。だから、ここで働いている奴等はこう考えた。次の学園長の座につく者は一体誰だってな。そこから話が飛躍しちまったみてぇで、老いぼれなんざさっさと追い出して、次のトップを決めちまおうって流れになったんだと」
「なんとまあ……2年前の話ですが、教師陣の多くは選民思想に似た貴族以外に対する差別意識がありしたよね? 聞く話じゃ、今は貴族であっても人間種以外に対する当たりが強いとか。そんな奴等に席を明け渡すと?」
「アイツらにゃ譲らねぇよ。一応1人は骨のある奴が居るが……俺の地位にゃ相応の責任が伴う。ノミの心臓だからなアイツは」
「……アイリス・カラマスですか、確かにキツいでしょうね。ですが、どうするんです? 多分、カラマスを除く教師達の総意でしょう?」
「ああ、だから言ってやったんだ。学園長の座は、指導能力が優れている奴に渡す。だから、俺が前々から目を掛けていた2人の教師にそれぞれ生徒8名を選ばせ、4週間で教え育てた生徒同士で勝ち抜きの決闘を行わせる。勝った方の生徒を育てた奴が、次の学園長を選ぶ権利を与えるってな」
「色々引っ掛かる話ですけど……選んだ2人ってのは?」
「カラマスとカルミア……まァ、急進派と穏健派の実質的なトップ対決だな。お前さんにゃ、カラマスのサポートを頼みたい」
「……了解です。それじゃあ私は挨拶しに行くので、これにて失礼させてもらいます」
「おう、頑張りな」
「ああ、それと──」
扉に手を掛けたエイリルは、くるりとレレクスの方へ振り返り、含みを持たせて言い放つ。
「──アンタがどっちに勝って欲しかろうが、私は私の好きにやらせて貰いますんで。当日、度肝抜かれて死なんで下さいよ?」
学園生活1日目、身支度を整えてからリル先に伝えられた場所へ師匠と千冶を連れ一緒に向かう。
「お、鉱簾と千冶、それにシクリィさん。おはよう」
「おっす、おはよう」
廊下を進む途中、紅藤にディアさん、ツァイトさんとへーべ……あと初対面の中性的な方1名と合流した。初対面の方はジンクさんといって、紅藤の友人なのだそう。軽い自己紹介を済ませ、どうやら目的地が同じようなので一緒に歩く。その最中、何をするのか彼らに問い掛けた……のだが。
「俺達もカラマス先生に言われた場所に集合としか伝えられてないんだよ」
「通常授業でないことは確かだが、詳細は分からないな。集合場所は演習場、少なくとも座学では無いだろう」
「臨時教師や編入生が来たからレクリエーションでもするんじゃない?」
「レクリエーション、ねぇ……」
考えたところで分からないので、取りあえず演習場とやらへ向かう。長い廊下を歩き続けていれば、吹き抜けの大きな広場が見えてきた。木々が疎らに配置された草原を、燦々と輝く太陽が照らしている……が圧倒的な存在感を放つ異物が爽やかな草原の景観を破壊していた。
「……なにこれ」
「岩だな」
「岩だね」
「このマナ痕跡、リナムの……アイツ、演習場で魔法使いっぱなしにしたわね。もう! 物体が残る魔法は後片付けするのがルールなのに」
「これは片付けるのも一苦労だね」
なんと、青々とした草原のど真ん中に、30m程の巨大な岩石が鎮座していたのだ。よく見れば巨大な岩石の周りにも様々なサイズの岩群が遍在しており、処理は確かに面倒だろう。
「うわぁ!? こ、これは酷い……」
「あ、カラマス先生。おはようございます」
「あ、はい。おはようございます……わー! シクリィちゃん! お久し振りですね! おかわりなくお元気そうで──おや、では貴方達はもしやコーレン君とチヤ君ですかね? 初めまして。私は貴方達の先生になるアイリス・カラマスです。よろしくね」
「ども。コーレンマサルです」
「ツツジチヤッス」
「ん、アイリスも元気そうでよかった」
後ろから驚いた声と共に、おどおどとした女性が走ってきた……いつも思うが、この世界って顔面偏差値高くねぇ?まあ、それはともかく。アイリス・カラマス先生ね、確か昨日聞いた話だと紅藤達の担任だった筈……思いの外随分と若いな。20代前半ぐらいだろうか、気弱な感じが伝わってくる。
「はい、よろしくお願いします……そういえば、エイリル先生はまだ来ていないんでしょうか?」
「リル先ッスか? そういえば姿が見えませんね」
「彼処、魔法で気配消してる」
「え……あ、マジだ」
追跡魔法で場所を割り出すと、俺達と大岩の丁度間ぐらいにリル先は立っていた。師匠と俺が場所をバラすと、バツが悪そうに魔法を解いて姿を現す。
「……初対面の人は初めまして、私の名はエイリル。魔法学の臨時講師として、カラマス先生の補助を……まァ副担みたいなもんだと思ってくれ、よろしく頼む。
さて、本題に移ろうか。知っての通り、カラマス先生はカルミア先生と学園長の座を争う事となった。君達は、カラマス先生が選んだ8名の生徒と言うわけだ。今日から28日間、君達はカラマス先生と私、そしてもう1人の臨時講師の下で力をつけて貰いたい。ここまでの話で何か質問はあるか?」
「はい」
リル先の問いに、ツァイトさんが声を上げる。リル先は少し硬直したものの、間を置いて無言で質問の続きを言うよう促した。
「エイリル先生。もしや貴方は、過去に魔石やマナについて斬新的な見解を述べた本の著者ではありませんか?」
「ああ。他にも魔法四元素の優劣や、貴族の相伝魔法についても書いたな……まァ、従来の考えから逸脱したモノばかりな上、証明されれば地位を失う者が多く、当時は相手にすらされなかったがな」
「──それならば、貴方は『オール・トレーズ』の筈ではありませんか?」
『オール・トレーズ』という言葉に反応して、ディアさんとジンクさんは眉をひそめ、へーべとカラマス先生は何とも言えない表情へ変わる。一方、俺達異世界人組と師匠は何も分からないため頭にクエスチョンマークを浮かべていた。
「……千冶ー知ってるぅ?」
「知らん、オレに振るな……All trades……? いや、"何でも屋"か? ──ああ、そういう」
千冶は納得した反応を見せるが、俺は未だよく分かってないので詳しく教えて欲しい。そう思っていれば、硬直していたリル先が淡々と語りだした。
「……編入生もいることだ、ちょっとした座学をしよう。基本的に、魔法とは相伝の術である。定められた詠唱、イメージ、マナ出力、マナ消費量。それにより強力な魔法を扱える。要は魔法とは貴族の特権だった。貴族以外が魔法を扱うのは、時たまに、平民の中から魔法の才に秀でた者が、無意識に編み出した魔法を使用するぐらいだ。
そして魔法を扱う者には、四元素……即ち火水土空気に合った才がある。そして全ての才がある者を『オール・トレーズ』、何でも屋と名付けた者が居た。しかし、時が経つに連れて言葉の意味は曲解し、何の才もないという言葉へ変化したんだ。まァ、当然の摂理だな。例外はあれど、オールラウンダーよりもエキスパートの方がより強くなれる。
つまり、君達は私よりも強くなれる素質がある訳だ」
「待ってください。それは、貴方がボクよりも優れている魔法使いだと? この天才であ──」
瞬間、広場を轟音と閃光が支配する。それは、リル先が生み出した大量の光線によるものだった。彼の後方上空に現れた無数の光球から発射された光線は、広場を荒らしていた岩石群を的確に破壊し、更に一際大きな光球から放たれた光線はビル程の大きさである岩を跡形もなく消滅させる。目映い光が収まれば、広場には凹凸一つ無い平原が広がっていた。リル先は、たった3秒と満たぬ時間で広場に存在していた岩石群を、最小限の被害で確かに全て消し去ったのだ。
「──この4週間で、私の魔法を越えてもらおうか。なに、才能あふれる君達には簡単なことだろう?」
ある者は信じられないものを見たような反応を見せ、ある者は何が起こったのか分からずにいる。
そんな新鮮な反応に、俺と千冶はニコリと微笑み、心の中でこう呟いた。
ようこそ此方側へ。
20話達成~、まさか続くとは思わなんだ……




