幕間話 三者三様
──『悪魔契約対策国際刑事警察連盟機構』、略称は悪連。といっても異世界のとある言語を翻訳した結果の名称なので、実際にはもう少し短い。
この世界において、悪魔とは大まかに2つの存在を意味する。1つ目は種族としての悪魔。2つ目は古の時代に造られた願いを叶える生命体。悪連は後者の、特に願いを叶える悪魔の契約を取り締まる組織である。
悪魔契約とは、悪魔が望む対価を契約者に支払わせることを条件に、悪魔が契約者の願いを必ず叶える契約のことだ。ルールは以下の6ヶ条。
①契約において、悪魔は嘘をつかない。
②互いに上下関係があってはならない。
③願いの価値は、悪魔の本心から思う価値となる。
④対価の価値は、契約者の本心から思う価値となる。
⑤悪魔は願いと同等の価値を徴収する義務がある。
⑥悪魔は願いと同等の価値を徴収した場合、願いを叶えなければいけない。
……だが殆どの悪魔は、古の時代に起こったとある一件により、各国が悪魔の存在を危険視。対策組織『悪魔契約対策国際刑事警察連盟機構』が発足したことにより、破壊されるか機能を停止するか、はたまた封印されるかによって姿を消した。
悪連は悪魔が居なくなった結果お役御免になったのだが、各国は彼らの強さと正義心を見込んで組織を継続させた。役目のなくなった彼らは、各国公認の治安維持組織へ変化。今現在まで現存することとなった。
しかし、ここ数年で何故か封印されていた悪魔が連鎖的に解放されてしまう。悪魔とは存在するのに何も必要とはしないが、激しい感情を読み取ったり、魂を取り込む事で快楽を得ることが出来る上、それに応じたマナを得ることが出来る。奴らの本能は欲望の爆発による人々の破滅、よって悪魔による被害が世界各地で報告された。
そして今現在、悪連の構成員達は悪魔契約犯問わず、世界各地で大罪人を逮捕するようになる。
山に囲まれた村のとある小屋で、母娘が泣きながら肩を寄せる。家族を守って倒れ伏す父親を前に、返り血に濡れる下賎な男が1人。男は倒れた血塗れの父親を踏んづけて母娘へ近づき──
その後頭部に拳大の石が激突する。下賎な男は予想値にしない襲撃に驚愕し、顔をしかめ体勢を崩す。その隙を逃さず魔法で追撃し、下賎な男へ近づくと……中折れのフェルトハットを被った男は下賎な男の顔面を殴り、床へ叩きつけた。木製の床は勢いに耐えきれず破壊され、下賎な男は地面へ突き刺さる。気絶した男を起き上がらせ、魔法で縄を作り出し捕縛し、こう言い放つ。
「悪魔契約犯罪者ルオー、今ここに逮捕した」
縄で縛られ気絶した男を外へ投げ出し竜車へ放り込む。その後、怯えきった母娘を刺激しないよう動き、なけなしの回復作用があるポーションを倒れている父へかける。顔色の悪かった彼は見見るうちに良くなり、目を覚まして身体を起き上がらせた。
「とーさん!」
「アナタ!」
目に涙を溜めた母娘は血塗れの父親へ抱きつき、感情を爆発させた。父親も何が起こったのか分からず戸惑ったものの、妻と娘が無事だったことを喜び涙を流した。
事態を終息させた男は、組織から支給された魔具を使ってルオーの逮捕を報告。竜車の御者へ彼を移送するよう指示をした。そんな折、父親は己と妻娘を救ってくれた男へ話し掛ける。
「どうも、ありがとうございました……なんとお礼をすれば良いか」
「いや、私は貴方が襲われた後に到着しました。それに、こんなにも荒らしてしまい……責められど、お礼をさせるほどのことはしておりませんので」
「そんなこと仰らず……そうだ、お名前は──」
「ああ、これは失敬。私は悪魔契約対策国際刑事警察連盟機構のエルドです。被害額は近場の冒険者ギルドまで請求ください、この度は危険な目に合わせてしまいなんとお詫び申し上げたものか」
「請求だなんてとんでとない! それに、夫にかけたあれはポーションでしょう? あんな高価なものを使っていただけたのです、何かお礼でも」
「いえ、そういうわけには……」
勇者がもたらした文化、謙遜や和を重んじるそれが、この無意味な無限ループを発生させていた。困り果てた両者だったが、エルドに対して助けて貰った少女が何か差し出し話し掛ける。
「おじちゃん、これ、おれい。ぱぱを助けてくれてありがとー!」
それは小さなリンゴであった。どれだけ粗末な物だろうが、それは小さな彼女の宝物だったのだろう。エルドは思わず口元を綻ばせ、リンゴを丁重に受け取った。彼は気が抜けたからか、はたまた食べ物を見たからか、我慢していた腹の音が鳴る。
「──よろしければ、夕食でもご一緒にどうでしょうか?」
「ああいえそんな……」
エルドは恥ずかしさからリンゴのように顔を赤くさせ、再度申し出を断るものの、流されてしまい夕食を一緒に済ます。
その後もエルドの泊まる宿がないことからと、宿泊をも勧められ、結果的に一宿一飯の世話になってしまった。
翌朝、未だ礼しきれぬと感じた夫妻との押し問答に勝利し、泊まった小屋を後にして、家族に見送られる。
「おじちゃん、またねー!」
少女のそんな言葉に帽子を軽く外して挨拶をし、そのまま登りゆく朝日に照らされ道を進む。
随分歩いて気づけば村外れ。そのままキュティンデルへ戻ろうと、平和を享受しながら鼻歌交じりに歩いていれば──
B
a
n
g
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直後、青々と輝いていた木々は燃え、村の至るところから爆波音が響き渡った。エルドは驚愕の表情から一転、血相を変えて村人を救わんと走り出す。
人が、倒れていた。
その光景は、死屍累々に他ならず。
大勢の人間が、爆発の犠牲になっていた。
「痛い、痛いよぉ……」
「……ぁ、あ、あ、み……ず……」
「誰か! 誰か助けて! 夫がまだ家に居るの!」
「──ッ!」
中には生きている者も居た。血を流し絶叫する者、腕を失った者、全身が黒焦げに焼けた者、燃え崩れる家を前に嘆く者。
動く、動く、動く。助けようと己が燃えながら動く。
だが、悲鳴は増え続ける一方だ。大したことが出来ずにいる情けない己に歯噛みし、ポーションがもう無いことを後悔する。
引火する服を横目に火の海を走り、意識を失いかけたその時。何処からか大量の水を掛けられた。
「『フラッド・ウォーターズ』! ええい……! 何がどうなっている! そこの者! 状況を説明せよ!」
「アンタは……」
「む、貴様は悪連の……いや、今は民の安全を最優先だ! 命のある怪我人を集めよ! この私が持っているポーションをありったけ使ってやる!」
「分かった……! だが、被害人数があまりにも──」
希望に追い縋り、奔走する。その希望は、奇跡によって叶うこととなった。突然、強い雨が降り始めたのだ。
雨により炎は徐々に勢いを失くしてゆく。否、それだけではない。雨に打たれた者の怪我や火傷が治っていったのだ。エルドも例外ではなく、あっという間に傷と火傷は治った。
「なっ、いったい何が……」
「これは──魔法か。しかし、このような大魔法、使える者など……」
「おい。話してる暇があるのなら、村人を1ヶ所に集めろ」
上空から中性的な声が聞こえ、それに気がついた2名は声の主を探すと、声の主は空に浮かんでいた。
顔を仮面で隠し、フード付きロングマントで全身を覆った男が1人、魔法で雨を降らせていたのだ。
「Cランク冒険者、エイリルだ。よく分からんが緊急事態だろ。私はこの魔法で手一杯だ。質問は後で、今は動け!」
2名は言いたいことが沢山あるものの、そんな暇はないと動き始めた。火を完全に消した頃、エイリルが救助に加わることで、夕方には全員の避難が完了した。
目を覚まさぬ1人の少女を前に、エルドは無言でその場に立ち尽くす。
回復魔法は、使い手によって効果がマチマチだ。
しかし、ただ1つのルールが存在する。死後6分以内でない死人を、蘇らせる事は出来ない。
拳を強く握り締め、血が地面へ滴り落ちる。そんな折、魔具から声が聞こえてきた。
『よっ、エルド。街にはもう着いたか? マルコーシアの移送先が決定したから、その護送にあたってほしいんだが』
「──今はそれどころじゃない、緊急事態だ! 今すぐ動ける者達を村に召集しろ!」
『……何があった。ルオーは捕縛しただろう? 身柄は預かっているぞ』
「村を悪戯に襲撃した者が居る。至るところが爆発し、死人も大勢……!」
『──爆発……か。悪いことは言わない。その村から離れるんだ』
「犯人に思い当たる節があるのか……!? 誰だ! ソイツは!」
『……言っておくが、疑惑だ。更に言えば悪魔契約者じゃない。いいか? 今は悪魔契約者の捕縛に手一杯の状況だ。回せる人手なんて──』
「ふざけるな! 大勢死人が出とるんだぞ!」
『落ち着け。これは命令だエルド。はやく街に戻れ』
「──ッ……! ああ、よく分かった。俺は今日より休暇を取らせてもらう!」
『なっ、待てエルド! おい──』
エルドは魔具からマナを取り出し、通信を遮断させた。
そして、懐からリンゴを取り出して魔法で2つに割る。その後、半分を少女の横に置き、エルドは残った半分を食べた。
「……必ず、見つけ出してやる」
口一杯に酸味と渋みが広がる中、彼は一言呟いた。
主人公が出てこない幕間話、続く。
零れ話──村
この村は、他と比べてある程度発展しており、中央を中心に密集地となっている。他の村ならば、家と家の間が広く、畑が燃やされ大変なことになっていたぞ。人災? この世界、人の命は軽いんです(当社比)




