一難去って
目を覚ますと、そこは何処か見慣れたベッドの上。ペオンさんの診療所だ、身体を起き上がらせて周囲を確認しようとするが、力が入らずに再び横になる。なんというか……成長したのか成長してないのか。ただ1人、夢うつつに天井を見て呆けていれば、目の前に突然黒い影が──
「──リル先じゃないですか、おはようございます」
「よっす。お前さん、丸2日も眠ってたぞ」
「マジですか、そりゃ心配お掛けしまして」
「それはシクリィと千冶に言え、2人とも心配したり怒ったりで大変だったんだ」
「あー……想像できますね」
特に千冶は、なんでもかんでも1人で解決しようとする悪癖直せや!とか言ってそう。
「ご明察。それが難しいなら、せめてそうならんよう努力しろ」
「はい……って、また思考読みましたね?」
「そらお前さん、マナが枯渇してんのさ。アレの反動だな……あー、なんだったか、限界突破?」
「止めてください恥ずかしい……それで、あの後どうなりました?」
「作戦は成功し一派は壊滅、被害は少なく済んだ。もっとも、主犯の居たアジトに向かった構成員は全滅したがな、お前さんが止めてなきゃもっと広がってたろうよ」
「マルコーシアは?」
「悪連……依頼主が引き取ってったよ。それにしても、よくもまあ、あんなのに勝てたもんだな」
「あっちが舐めプしてくれましたからね……その気になれば、武器を取り出していつでも勝てた筈です」
「遊び癖を逆手にとったお前さんの戦略勝ちってとこか。だが正直褒められたもんじゃないぞ」
「デスヨネー」
「お小言はアイツらから貰うと思うから、私から一つだけ言わせてもらおう……たった1ヶ月で、お前さんがあんな奴を倒せるようになるとは思わなんだ。よくやったよ」
寝ている俺の頭を手袋がぎこちなさげに撫でる。なんというか、正直ほっとした。出来ること精一杯やって、被害抑えられたのなら……欲を言えば、被害ゼロにしたかったが──
「そりゃまだ無理だろうよ。高望みする分にゃ構わねぇが高すぎると毒になるぜ? っと、そうだ。私からお前さんに伝えることが2つあるんだが、悪い知らせともっと悪い知らせ、どっちから聞きたい?」
「どっちも悪いんじゃないですか……じゃあ前者からで」
「了解、ギルド長からの通達だ。此度の依頼、報告が甘い、応援要請をしない等の減点要素があったものの……結果論ではあるが、主犯の逮捕貢献や街への被害を考慮しランクは変動無しとする」
「あー……はい」
「ま、下がらんだけ良かったんじゃねぇの? 追記は……お前さんが自覚してる事だし、別に伝えんで良いか。次、もっと悪い方なんだが──お前さんは5日間の絶対安静。安静中は座学を行ってもらう」
「ウッソォ!? というか絶対安静って、回復魔法使えば良いだけでしょうが」
「お前さん、今の身体がどういう状態か分かるか?」
「へ? いや、今んとこ力入らないぐらいで──え、神経やったとか?」
「いやまあそれは大丈夫だったが……生かしてくれたペオンに感謝しろよ。複数箇所の内臓破裂に骨折、その他諸々……回復魔法だって万能じゃないんだ、頼りっきりにしないよう以後気をつけろ。特に今回酷いのは内臓破裂だな、腸の内容物が身体の中に取り残されて大変だったらしいぞ?」
「えぇ……なんで俺生きてるんです?」
「さてね。しかも、それだけじゃないぞ? 限界突破の反動でマナの生成量が限りなくゼロになってる上に栄養失調……は、一応なんとかしたのか」
「はぁ、だから5日間の絶対安静なんですか。つーか治せたペオンさんって一体何者……?」
「そりゃ本人に聞け。ま、伝えることはこれで終いだ。今日のところはもう寝てろ。明日シクリィと千冶が会いに来る、精々上手い言い訳を考えておくんだな」
「はーい……」
そう言い残してリル先は部屋を後にした、残された俺は虚空を見つめ……だんだん薄れてゆく意識に身を任せて安眠する。明日は2人にドヤされるな……どうにか、上手く、ごまかせれば──
とある一室でペオンと向かい合わせに座る。傍目から見たら不審者2人の密会だが、事情が事情だ、仕方あるまい。
「それで、鉱簾の奴は大丈夫なんだろうな?」
「……多分?」
「医者が言って良いセリフじゃねぇぞ」
「いやぁ……そもそも彼ら、この世界の人間種に酷似してはいますけど完全な別種ですし。手は尽くしましたから、今は経過観察するしかないですね~……」
「……ま、そうだよな」
実際、私もアイツらがどうやってマナを生成しているのか訳分からんし、人体を理解している本職から見て分からないのならば、これ以上出来ることも無いだろう。
「……お師匠様なら完璧に治せたんでしょうけどね~……力不足ですみません」
「いんや、お前にゃ随分助かってるよ。そもそも比べる対象がおかしいのさ、お前の師匠は医神だろ」
「私だって神様なんですけど~……」
「相手は主神の孫だ、格が違う。お前さんだって凄い腕さ、自信もてよ」
「……そう、ですかね……」
ペオンは申し訳なさそうに俯く。やっぱコイツ自己肯定感低いよな……ま、憧れの人から殺されそうになったんだ、ペオンもペオンで大変なのだろう。
「……話は変わるが、あの学園に迷い人が居るって話は本当なんだろうな?」
「間違いないと思いますよ~、この目でちゃんと見てきましたから!」
以前私が勤めていた魔法使いを育てる学園……この文面だと完全にホグなんたらだが、実際はショロマンツァなどを人間が真似て、なんちゃって貴族社会に組み込まれた貴族養成学校……って、まあ今はどうでもいいことだな。
話がズレた。ペオンはそこで学園長の容態を診ているらしく、そこで異世界からの迷い人らしき少年を見たのだとか……コイツ、少し抜けているところがあるので、本当かどうかは怪しいのだが、調べようにも警備が固い。私が辞めた理由からしても、正面から許可を取りに行くのも難しい。
「どうにか侵入出来たら良いんだが」
「エイリルさんの魔法出力低いですもんね~、自動防衛魔法に撃退されるのがオチじゃないですか?」
「人が気にしてることをズバズバと……」
「不必要に怪しんでくるからですよ。それで、そっちはどうなんです?」
「なにがだ?」
「情報集めですよ、手掛かりは見つかったんですか?」
「……まあ、それはそれとしてだな?」
「誤魔化すの下手すぎません?」
予想外の質問に思わず顔を横に向ける。情報集めとは、悪魔とメレネオス王の行方、アイツらを元の世界に戻すための方法探しのことだ。残念ながらどちらも有用な手掛かりは未だ見つかってはいない。
メレネオス王の方は最悪放置でも良い。戻す方法さえ見つけてしまえば、此方の世界に迷い込んだ人が居たとしても、同じ方法で送り返せるだろう。
確かに現状、情報集めは停滞している。しかし未だ探し尽くしたとは言えない。この世界は、彼方の世界と類似している部分がある。異世界人が関与していない大まかな歴史や文化などだ。それと、彼方の世界で語られる伝説や、神話の登場人物に物、武具などが、確かにこの世界に存在している。
それこそ全知全能で知られるゼウスや、唯一神。知識の探求者オーディンに、全知を与えるヴィシュヌ、叡知の女神メーティス、地の王エンキ、知恵の女神アナヒット。答えられない質問はないクヴァシル等々など、噂程度ではあるが、この世界にはそんな方々がいらっしゃるのだ。そんな方々に聞いて回れば、あるいは、なんとか……そもそも、どうやってそんな方々に会うんだというツッコミは横に置いておこう。
とまあ、そういう方々に会いに行くにしろ、各地を回って地道に情報を集めるにしろ、アイツらが力をつけねば話にならなかった。この世界は危険だらけだ。旅をするなら最低限、自分の身は自分で守れるようにならないと、連れて行くわけにもいかなかったのだ。
しかし、今はどうだ。アイツらは今も尚、破竹の勢いで成長し続けている。そろそろ頃合いではないか?
「……なぁ、ペオン」
「はい?」
「私達は近々、この街から離れて旅をしようと考えている。お前さんはどうする? 宛のない旅だ、いつも通り付いてくるのは推奨せんぞ」
「意地でも付いていきますよ。私は、シクリィさんとアナタに命を救われて、生まれ故郷を去った時から──────だから、少しでも恩返しさせてください。
……それに、世界にはまだ見たことの無い薬の原材料が眠っているんです。厄介事の多いシクリィさん達に付いていけば珍しい材料も見つかるかもしれませんからね~」
ペオンは真面目な顔をして前半を語り、後半を間の抜けた顔で愉快そうに話す。
「……ま、そういうなら止めはせんがな。シクリィ達には話しておけよ、昔みたいに四六時中ストーカーされるのはごめんだ」
「あはははは……その節はどうもご迷惑を~……」
真面目な話を交えつつ、なんの意味もない雑談をして、互いにからからと笑い合い、そうして夜は更けていった。




