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昇級


「はあ、昇級試験ですか」


「はい。試験といっても、ちょっとした問答を行うだけですので、気負わず受けてくださいね」


「受けることは確定なんですね……まあ断る意味ありませんけど」


 異世界に来てから24日が経過した日の事。いつも通りギルドで清掃依頼の紙を手に取ろうとしたその時、受付の方が俺に断りを入れて話し掛けてきた。

 なんでも、俺のランクを上げるための試験を行いたいとのこと。今のランクがFなので、次はEか……ま、まあ別に強さ=ランクって訳でもないらしいし?俺今んとこ清掃依頼ぐらいしかやってないし?別に恥ずべきランクでは……ない筈だ、多分きっとメイビー。

 因みに、師匠とリル先はCランク、千冶がDランクらしい。1番上のランクがAなので、結構上の方なのだとか。


「それでは、奥の部屋で待っていてください。今試験官を御呼び致しますから」


 そう言われて案内された部屋に入る。そこは小綺麗な部屋だった。壁には多くの武器が飾られており、中央には長机が配置されている。長机を挟むように2つの椅子が対照的に置かれていたので、俺は扉に近い椅子に座った。


 それから数分程座って待っていれば、漸く後ろの扉が開く。立ち上がって振り返れば、そこには活発そうなお婆さんが立っていた。背筋をピンと伸ばしたスタイルの良い御老人だが……この方が試験官だろうか?


「どうも、コーレンです。本日はよろしくお願いします」


「ああ、よろしくね。アタシはサガリス。そう強ばる必要はないよ、座りな」


 俺にそう促した老婆は、音を立てずに移動して目の前の席に座った。あ、これあれだ。年取ってる人あるある大体強キャラ理論だな?いやまあ、師匠がいる時点で、この世界の老若男女パワー差とか考えるだけバカらしいが……ともあれ、失礼のないよう此方も背筋を伸ばして対応する。


「気に入ったよ、礼儀がなってる子は好きさね。分からないなりに、人を不快にさせないようにする心遣い。その考え方を出来る人間はこの世界じゃ少ない。その感性は大切におし」


「……ども」


「それじゃあ昇級試験の審査を開始するよ。始めに……アンタは今のところ清掃依頼しか受けてないみたいだけど、それは何故だい?」


「えーっと、最初の内は、エイリルさんから勧められてやってたんですけど……やってく内に、色んな人から感謝されたりして悪い気がしなかったから。ですかね」


「そうかい。此方としても、誰も受けたがらない依頼を進んでやってくれるアンタは有難い存在さね。ランクが上がっても引き続き頑張りな」


「はい──あ、俺が引き続きやるんですね。はい」


 やりがいはある、報酬もまあまあ、けれど二重の意味で衛生上よろしくない。やり続けるつもりではあるが、貼り出される度に俺が受けるというのもどうかと思う。引き継ぐ人が居ないと、俺がこの街を出た時に大変だろうし……マニュアルとか手順書を作るべきか?いや、俺にそんなことする義務はないだろ。いやいやしかし──


「──ま、無理にとは言わないよ。アンタ以外に受ける奴が居ないってだけさね。昔はリル坊がやってくれてたんだが、最近じゃ忙しそう動き回ってみたいでね」


「あー……」


 多分情報集めとかだろうな。俺達の為に休む時間すら忘れて動いてくれている……うぅ、申し訳ない。


「それじゃあ次の質問に移るよ。最近、スラムの子供がギルドで働き始めたんだが……聞けばアンタとシクリィ嬢が推薦したようじゃないか。あの娘は根っこに奉仕精神があるからね、またスラムで金にならん活動をしとるんだろう。アンタはどうなんだい?」


「どう、と言いますと?」


「アンタは困ってる人を見るたびに身を削って、余計なお世話をし続けるのかい?」


「俺が出来る範囲ならしますよ」


「……フフッ、即答かい。それもシクリィ嬢と同じ返しとはね。だけど、自分の命と他人の命を天秤に掛けたらどうだい?」


「…………俺の力でどっちも救う──とかじゃ駄目ですかね?」


「傲慢で、強欲な答えさね。アンタにその力があるのかい?」


「ありますよ」


「嘘だね。正確には、今は駄目でも強くなるって思いだろうけどね。口だけなら何とでも言える。だが実力が伴ってなきゃ、ただの大言壮語だよ」


「…………」


 どうしよう、ぐぅの音も出ない。実際、最近は打ちひしがれるばかりで、話にならないのは分かってる。けれど、今話してることは本心だ。どれだけ無謀だろうが、どれだけ阿保らしかろうが、この甘ったれた考えを、嘘であろうと変えるつもりはない。


「……はぁ、分かったよ。それじゃあその力とやらを、言葉じゃなく行動で示してもらおうじゃないか」


 サガリスさんは、長机に1枚の紙を置いた。そこには、5日後の日付で『マルコーシア一派掃討作戦』と書かれており、この街の地図の至るところにバツ印がついていた。


「本来であれば、Dランク以上の冒険者にしか召集を掛けていないんだけどね。今のアンタなら下っ端程度は倒せるだろう。いいかい、自分の意見を通したければ、相応に結果で示しな」


「……はい!」


「良い返事さね。精々死なないよう上手く立ち回りな」


 そう言い放ったサガリスさんは、親指で小さな何かをピンと弾いて此方に飛ばしてきた。それを慌ててキャッチすると、それはアルファベットでEと描かれたエンブレムだった。


「その身に付けてるペンダントのエンブレムを付け替えな。その文字の意味は、アンタなら説明しなくても分かるだろう?」


「ええ、まあ……って、え?」


「アンタとチヤ坊の出自なら知ってるよ。改めて自己紹介さね。アタシはAランク冒険者のサガリス、この街『キュティンデル』の冒険者ギルド支部長さ」


「…………はぇーー」


「ピンと来ないって顔だね。ま、無理もないか。要するに、アタシはこう見えても結構偉いのさ。今度の依頼で相応の結果を出せば、ランクの昇級をアタシの権限でしてやろうじゃないか」


「はぁ。そりゃ願ってもないことですけど……」


「ランクが上がれば、相応に名前も売れる。指名依頼ともなれば、報酬は言い値さね。金以外に、求めてる物や情報が集まりやすくなる」


「──つまりは、元の世界に帰れる情報が集まってくるかもしれないと?」


「そういうことさね。他にも別の地方で動きやすくなったり、色々な特典もついてくる。どうだい、悪い話じゃないだろう?」


「ええ、まぁ……裏とかありません?」


 あまりに話が出来すぎている。そこまでして俺に入れ込む理由はなんだ?


「人様の気遣いは詮索するもんじゃないよ。そういうとこはチヤ坊そっくりだね……ま、強いて言うなら、アタシの旧友にアンタが似てたのさ。その影を重ねてるのかもしれないね」


「……旧友ですか」


「今じゃ名前は聞いても、一向に姿を見せない薄情者さね。あの恩知らず共め……どうせ遠くの場所で、好い歳こいて女遊びに夢中なんだろう」


「聞く限り良いところが一つたりとも無いんですけど……そんなのと俺似てるんですか」


「ああ、お節介焼きの所とかそっくり……おっと、気づいたら必要ないことまで喋っちまった。はぁ、アタシも歳だね。あーやだやだ」


「あはは……」


「老人の戯言に付き合わせてすまないね、問答は以上さ。5日後、期待して待っとくよ」


「はいっ!」


 サガリスさんは満足したとばかりに部屋を後にした。改めて机に残された紙を見る。総数300の荒くれ者一派、目的は闘争と略奪……か。先日会ったマルコーシアの姿を思い浮かべ、ネガティブな気持ちを気合いで搔き散らす。


「……次は──」


 部屋に1人残された俺は、ポツリと呟いた。









「はぁ、アタシも歳だね。話の歯止めが効きやしない」


 ギルド長室に戻り、1人思いに沈む。


「ああいう馬鹿は嫌いじゃない。しかしリル坊もよく厄介事に巻き込まれて……ま、良い薬さね」


 手の掛かる子供が3人も居れば、リル坊も多少は気を紛らわせれるだろう。あの子も救われて欲しいと思うのは老婆心か、はたまた──


「あの馬鹿共……一体全体どこほっつき歩いてるのか。全く、どれだけ歳月が経とうが──やっぱりアタシが居なきゃ駄目じゃないか」



 机の上に飾られた小さな額縁を手に取り眺める。額縁の中、魔法で撮られた『写真』には──黒髪の少年に偉そうな王様、口煩い侍従、そして若かりし自分が写っていた。




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