表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
12/25

鍛練あるのみ


 曇天の空の下。俺の視界が逆転しながら、全身が空中へ放り投げられている。なんとか魔法で軌道を修正して地面へ降り立つ……が、師匠は着地隙を見逃さずに俺を組み伏せた。


「うん、終わり」


「……もう1回、お願いしますッ……!」


「おいおい、もうそこら辺にしとけよ。傷は直せても痛いもんは痛いだろ? ちっとは休憩しろって」


「モーマンタイ。師匠、頼んます」


「……分かった」


 模擬戦を再開し、何度も何度も何度も何度も同じように仰向けに倒れ、起き上がる。同じようにといっても成長してない訳じゃない。師匠の姿を目で追えるようになり、攻撃がどのように来るか、直感で分かるようになってきた。


「──もっかい……!」


 傷つく度に回復魔法で治し、立ち上がる。聞く話によれば、魔法は使えば使うほど上達し、質も出力も上がり、マナの保有許容上限はドンドン増えるらしい。戦闘しつつ傷を治せるようになったので、これの応用で攻撃に転じれないか思考する。


「──もっかい!」


 戦っていて分かる。師匠やリル先は俺が強くなっていると励ましてくれてはいるが、上達すればするほど、周りの強さと俺の弱さが明確になってゆく。なるほど、確かにこれは辛いな。


「もっ……かい!」


「これ以上は駄目、集中力が落ちてきてる。意味がない」


「なら魔法で──」


「やめとけ。精神や感覚に魔法を掛けんのはリスクが高い。聞いた話だが、その昔、魔法を使って無痛症になった奴が居たぐらいだ。脳や神経を直接弄くるような魔法は危険なんだよ」


「──そっか。……あ、ならそれを攻撃に使えば──」


「残念ながら自分のマナは他のマナと、程度の差はあれど反発する特性を持ってるらしい。身体にはマナが循環してんだ、それを越えて内部を弄ろうとするなら、アホみたいなマナと出力が必要になる」


「それじゃあなんで回復魔法は効いてんだよ」


「回復魔法だって防ごうと思えば防げるぞ」


「ごめんそれ初耳」


「今初めて言ったからな」


 ……やっぱ、知識も力も足りないな。だからこそ、早く追い付かないと──


「よう、励んでるな」


「あ、リル先。聞いてくださいよー。鉱簾の奴が躍起になって鍛練してるもんだから、見てるこっちがヒヤヒヤしちまうんスけど」


「だろうな。私が居ない間に色々あったみたいだが……」


「ああいや……ちょっと、俺自身、思うことがあって」


「焦ったところで変わらない、追い詰められるだけ」


「シクリィ、言い方。まあ私自身、その気持ちが分からんとは言わん。怠けられるよりよっぽどマシだ。それよりどうだ、今から私と一緒に討伐依頼でもこなさんか?」


「討伐依頼、ですか」


「……鉱簾にはちょっと早くないっスか?」


「今は駄目、不安定すぎる」


「だからだよ。それでどうだ、返答は?」


「──願ってもないことで、俺、やりたいです」


「よし、それじゃあ掴まれ。くれぐれも落ちるなよ?」


「はい! ……はい?」








 見上げれば灰色の空、見下ろせば地面は遥か遠くに。宙ぶらりんになった身体を、なんとかリル先にしがみつかせる。ぶらぶらと足を垂らし、これ落ちたら死ぬよなぁと、思考を停止させながら硬直していた。


「あの、これどこまで行くんですかね」


「狙いの獲物が釣れるまでだな」


「釣れるって……空中に魚でも泳いでるんですか?」


「龍なら泳いでる可能性もあるが、今回は違う。デカイ鳥だよ」


「鳥?」


「ああ、お前達の世界に居る鷲を更にデカくした奴だ。ほら、丁度彼処に居る──居るじゃねぇか!」


「のわっ!?」


 リル先が指を指した先。何もない空中において圧倒的な存在感を放つそれは、黒茶色の羽毛を全身に纏わせ、鋭い爪と嘴を備えた巨大な怪鳥であった。怪鳥は此方を認識するや否や、軽トラほどの翼を羽ばたかせて急接近してくる。

 俺を背負っていたリル先は、魔法で俺の身体を密着させて、空中をまるでジェットコースターのように駆け降る。その最中、俺と同等程の大きさの岩を何発も放ってきた。リル先はその全てを軽々と避けてゆくが、真横を通ったり、頭スレスレを過ぎ去ったりと心臓に悪い。

 徐々に高度を落とし、漸く地面へ足をつける頃には平衡感覚を失って地面に頭から倒れてしまった。


「よし、それじゃあ倒せ」


「え、あれをですか。あの家みたくデッカイ鳥を倒せと?」


「ああ、私は手を出さん。頑張れ」


 何言ってんだこの人と心の中で呟きながら、空中を飛ぶ怪鳥を見上げる。そこは遥か上空、怪鳥は此方へ向け岩石群を次々と飛ばしてきていた。当たりそうになる岩は、リル先が魔法で生み出した透明な壁で往なしているが……そうでない岩は、地面へ轟音を立てて降り落ちている。まるで隕石でも落ちてきたのではないかと思うほどのクレーターが彼方此方にでき、もし俺に当たれば一溜りもないことは明らかだった。


「……『光線』!」


 想像したのは、あの日リル先が振り下ろした巨大な光柱だ。それを打ち出すイメージで魔法を使い、怪鳥へ放つ。しかし、光線は空高く飛ぶ鳥へ進むにつれ減衰し、微かな光が辿り着くどころか、残存したマナは飛んでくる岩によって搔き消されてしまった。

 困った。あの距離じゃ、今の自分では出力が足りないのだ。どんな魔法を使っても、届きやしない。リル先へ肩を竦めるジェスチャーを見せれば、予想通りと言わんばかりに俺へ近づき、背中に手を置いた。

 背中からマナを注がれ、俺の身体に循環していたマナを操作される。今まで何となくで行っていた操作が、洗練された無駄のないモノになる感覚──


「よし、マナで足を強化して走ってみろ」


「……は──ぁぁぁぁあああああいいぃぃぃ!?」


 いつもの練習通りにマナを込めて足を動かす──と、想像していた数百倍の勢いで前へ進み、制御しきれず顔面から地面に突っ込んで、そのまま数メートルほど地面を堀りながら進んだ。全身、特に顔面に酷い痛みを覚え、回復魔法を掛けた後に水を出して血と土を流す。


「よし、今の感じだ。覚えたな?」


「……|覚えました《くっそ痛かったんですけど》」


「なら良かった。じゃあ逝ってこい」


 今のイントネーションおかしくなかった?

 それはさておき……つまりは、そういうことだよな。

 屈伸を数回行った後、再び足を曲げてマナを込める。マナの適切な動かし方は、感覚で分かった。だから、それを再現して……全力で跳ぶ!


 凄まじい勢いのまま、空高く跳び上がって怪鳥へ近づく……だが、一度のジャンプじゃ届きはしない。当たり前だ。あの鳥めは雲と同じぐらいの高さにいるのだ、そりゃあ届かない。ちょっとした浮遊ぐらいなら出来ないこともないが、それも飛んでくる岩に撃ち落とされて終いだろう。ならばと、ソレを利用する。俺に向かって飛ばしてくる岩群に飛び乗り、岩に一瞬だけ浮遊魔法を掛け足場にして、再び跳び上がる。


「『ピィィヤァアア!!』」


「うるっせぇな猛禽類! 上からバカスカ撃ってきやがって、当たったら普通に死ぬぞ俺は!」


 跳び上がること十数回、全長30メートル程の怪鳥を目の前にして、縮む心を奮い起たせる。怪鳥は俺を見た途端甲高い鳴き声を発して岩石を……飛ばさずに纏って突進してきた。


「ウッソだろ!?」


 てっきり同じように飛ばしてくるものだと思っていたので、予想値にしていなかった攻撃に怯む……が、やることは変わらない。あの硬くしなやかな羽が全身を覆っているため、恐らく小手先の攻撃など意に介さないだろう。だから──


「──『短距離ワープ』……! 『ぶん殴る』!」


 土壇場で、成功率の低いリスキーなワープ魔法を成功させる。そして、突進してきた怪鳥の巨大な身体に飛び乗り、一撃。背中に拳を叩き込む。

 思っていた通り、攻撃はあまり効かなかった。が、本命はそこじゃない。此処に来るまでに飛び乗ってきた17個の岩石に触れた時、密かに魔法を掛けていた。それは、指定した場所に集まる魔法。あまりの重さと数にマナを大量に消費するが……今はコイツを落とせれば良い。


「クーリングオフだ、鳥野郎!」


 巨大な怪鳥に対し、これまた巨大な岩石群が集合して全身を包む。見たところ、この怪鳥は巨大な羽だけで飛んでいるわけではない。魔法やマナで補助しているのだ。しかし、こんな多くの岩石を背負っては流石に無理がある。怪鳥は重さに耐えきれず、悲鳴を上げながら地面へ急降下してゆく。


 ふう、よし。後は俺が浮遊魔法使ってゆっくり地面に降りれば……あれ?


「『浮遊』『浮け』『飛べ』!」


 ……マナすっからかんになってるぅ!?ヤバイヤバイヤバイ死ぬ死ぬ死ぬ!

 そんなことを考えている瞬間にも、地面が目に見えるほどのスピードで近づいてくる。


「油断大敵、だろ? ハイテンションになるのは良いが、それで墓穴掘ってちゃあ救えねぇな」


 地面に激突する寸前、俺の身体は宙に浮き……即座に地面に落とされた。死にはしないが、ちゃんと痛い。


「それじゃあ、鳥公にトドメさしてもらおうか」


「へ……」


 地面へ墜落した怪鳥に視線を向ける。血は流れ、岩に潰され、見るも無惨な状態の怪鳥……しかし、まだ生きていた。確かに生きていたのだ。


「…………」


 意図せず、息遣いが荒くなる。確かに殺す気で戦った、しかし、しかし、目を見てしまった。生きている姿を見ていた、触った。

 目の前の怪鳥は、弱々しく鳴いている。死に体の身体で、まだ生きようと足掻いている。


「………………」


 なんとか息を整えようとするが、そう落ち着くものではない。俺がやった所為で苦しみ悶える怪鳥の姿が、俺は見るに耐えなくて……勢いのまま近づこうとする俺を、エイリル先生は制止させた。

 エイリル先生は、無言のまま怪鳥へ近づき手を翳す。苦しんでいた怪鳥は、その瞬間に事切れる。


「ま、当然の反応だわな。今まで"こういうこと"に触れてこなかった子供としては当たり前の感情だ。どうだ、冷静さを取り戻した状態で、何かを殺さなきゃならんって重みは」


 エイリル先生は、怒るでもなく、慰めるわけでもなく、ただ淡々と諭すように俺へ語り掛ける。


「お前さんがどんだけ力をつけようが、どんなに強くなろうが、その使い方一つで、命を軽々しく奪っちまう。

 私は、生きるために命をいただくことが悪だとは思わない。それが悪なら、私達は生きてること自体が罪になっちまうからな。今回のことは、私達が生きるため、命を糧にするために行った行為だ。ただ、覚えておけ。殺すことに慣れるな、憐れむな、自分の行為を噛みしめろ、忘れるな」


 師匠や千冶が止めていた理由が分かった気がする。そして、リル先が俺に伝えたいことも、なんとなく。


「この世界じゃ、何を成すにも力が必要だ。知るためにも、生きるためにも、守るためにもな。戦いに巻き込まれることもあるだろう。守るために傷つけなきゃならんこともあるだろう。だが、目的を見失うなよ。お前が元の世界に帰りたい理由はなんだ?」


「……元の世界に俺が帰らなきゃ、心配する人がいるから」


 そう本心を言い放つと、エイリル先生は少しの間硬直し、その後、複雑そうな声で俺に語る。


「成る程な、千冶がああ言うわけだ……じゃあ、尚更帰らねぇとな」


「──はいっ!」








「それで、ルフ鳥の肉料理がこんなに並んでるわけだな。おつかれさん」


「うまうま」


「…………スゥーー」


 美味しそうな匂い、肉汁たっぷりの鶏肉。しかし脳裏に浮かぶのは綺麗な瞳……


「鉱簾、命に感謝して頂きますだ」


「……いただきます」


 感謝して、口へ運ぶ。野性味溢れる味。臭みはあるが肉々しくて、とても美味しい。

 黙々と口に運び、次々と胃へ送る。これが、命を頂いてるってことか……


「──ごちそうさまでした」


「はいよ」







 零れ話──ルフ鳥

 別名 ロック鳥。中東やインド洋の伝説に登場する白い鳥で、象やサイを3頭持ち帰り雛に分け与えるという……どんだけ軽く見積もっても15t以上の獲物を持って飛行する怪鳥。怖い。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ