接触
早めの昼食を済まし、俺達は効率よく二手に分かれて捜索することとなった。俺は師匠と一緒に行動し、3ヶ所をさりげなく巡回するように歩く……とはいえ、かれこれ2時間ほどが経過したが、特に怪しい人物は見当たらない。チヤとエルドさんのペアは一体どうしているのだろうか。
まあ、何かあれば魔具を通して報せてくれるみたいだし、今のところなんの合図もないので、きっとあっちも同じように暇なのだろう。
狭く薄暗い路地裏で、オレとエルドさんは背中合わせに武器を構える。前後の道を塞ぐように、厳つい男達5人が武器を持ち此方へ敵意剥き出しの眼差しを向けてきた。
魔法を使おうとするが、放出したマナが掻き消えて上手く発動できない。異常を報せる魔具は、敵の短弓により打ち落とされ、地面に転がっている。こりゃ……所謂ピンチってヤツだな。
「ぐっ……すまん。不覚を取った」
「でしょうね」
なんだったか、リル先から聞いたことがある。とある石の周りでは、放出されるマナが分散してしまい魔法が使えなくなる現象が起きると。確か石の名は……
「……ジャマーストーンか」
ポツリと呟くと、敵の1人がピクリと反応を示した。
なるほど。ならば解決法は幾つかある。石の効力範囲から出るか、マナを体内で消費するか……前者は論外。ならば後者で此処を突破する他ないだろう。
「エルドさん、後ろたのんます」
「ああ、そっちは任せた」
幸いなことに、なんちゃって如意金箍棒は埋め込まれた魔石によって、ある程度の伸縮が可能だ。とはいえ乱発は出来ないが──
「──シッ!」
「フンッ!」
エルドさんにタイミングを合わせて同時に逆方向へ走り出す。こっちには短弓構えた奴が1人と、長剣と槍持ちの計3人……先ずは槍から潰さなきゃな。
持ち手を棒の両端に置き、槍を構える男へ向かって駆けだした。近づく間に射程を測り、男の顎に目掛けて棍棒を突き出す。男は伸びゆく棍棒に反応が遅れ直撃する。チッ、気絶はしてくれないか。脳でも揺らせれば良かったのだが、そう上手くはいかないな。
目の前の相手は槍。腕前からして、射程外から此方が攻撃すれば楽に勝てるだろう。しかし、増援が来ないとも言えない。出来るだけ魔石の消耗は避けなければ。棍棒を伸縮しないのであれば、リーチは同等。ならば出来るだけ内へ入る。
棍棒は、槍と違って穂先はない。殺傷力は低いが、だからこその強さもある……とはいえ、低いだけで無い訳じゃないのがミソだ。突き、薙ぎ、払い、回し。棒術の利点はリーチと小回り、そして変幻自在さにある。向きがないというのも魅力的だ。全ての箇所が武器になりうる。
長剣を構えた男が此方へ走り、短弓を構えた女性が矢を放とうとしている。ならばと、短弓を扱う女性とオレの直線上に槍持ちが来るように誘導して盾にした。背中に矢が突き刺さった男が苦しそうな声を出し、弓持ちが狼狽えた。攻撃の手を緩めずに槍持ちを滅多打ちにしていれば、男は痛みからか槍を手放す。仲間がやられている様子に激昂した長剣を持つ男は、その刃をオレへと振り下ろし……
「なっ……! すまっ──」
「こんな時に仲間割れか? あーかわいそ」
棒で剣の軌道を変え、刃が槍持ちを切るように仕向ける。槍を持っていた男は血を吹き出して苦しみ悶えた後に地面へ倒れ込む。攻撃の手を緩めた剣を持つ男へ、その顎目掛けて棒を突きだせば、直撃した男は事切れたかのように地面へ崩れ落ちた。とはいえ、脳震盪なんて数分程で意識を取り戻すことが殆どだが……それまでに決着を着ければ良いだけだ。
「へいパース」
明らかに狼狽えている弓持ちへ、棍棒を回転させながら投げる。棒に釣られて視線を逸らした時を見計らい、姿勢を低くして勢いよく距離を詰めて懐に入り、鳩尾へ一撃食らわせる。
痛みに悶絶している女性へ追撃し意識を失わせる……漫画みたいに首チョップでお手軽に気絶させられたら良いのだが、案外人間が頑丈に出来ている所為でそう上手くはいかないものだ。
「『伸びろ』」
後ろで戦っているエルドさんの様子を伺えば、どうやら彼方も残る敵は1人だけだった。ならばと邪魔にならない位置へ移動し、棒を敵に向けて言葉を唱える。棒は勢いよく伸び、狙いどおりに男の股へ突き刺さった。
「……おっと失敬」
エルドさんはオレの攻撃に独特の反応を示しつつ、悶える男を取り押さえ、慣れた手付きで縄を使い縛り上げた。その後、男に向けて合掌を……この地域に仏教って伝わってたっけ?あれか、物語を通して勇者がやってたことが浸透でもしたか。って──
「──別に死んでないッスから……こっちもいつ起きるか分からないんで縛っといてください」
「あ、ああ……その、なんだ。助かった。君は、随分と容赦のない男だな」
「敵に慈悲なんざ向ける余裕ないッスからね……お、あったあっ た。この石か」
若干内股気味になっているエルドさんを尻目に、魔法を邪魔していた石を見つけて足で砕く。さて、後は連絡を……ま、そりゃ届かないか。此方だけが襲われたとは考えにくい。師匠が居るとはいえ絶対安心とは言えないし、急いで合流しなければ。
「エルドさん、協力者は4人の筈では?」
「ああ、情報と違う。一先ず彼らと合流して撤た──チヤ君! 伏せろ!」
「言われなくとも!」
背後から敵の増援が到着したのを察知し、エルドさんは短杖から炎を纏った岩を打ち出す。オレは身を低くしつつ、道の至るところにコンクリを生み出し固める。その内の1つに身を隠し、敵の反撃を防ぐが……彼方にも危険が迫っているだろう、急いで片さないと──
「──はい危ない……!」
「すまん、助かった!」
「そーいうのは後で! 今はコイツら全員ぶちのめしますよ」
前後と上空、そして地面。至るところから湧いて出てくる……石ひっくり返した時の虫かよ、面倒だな。魔法使える奴も居るし、一体何人居るのか。まあ良い、今は兎に角倒しまくるしかない……!
「うん、これで終わり」
「……俺、なんもせず終わったんですけど」
地面には無数の人間が倒れ伏し、死屍累々の光景が広がっている──いや死んではないけどさ!
「んー、やっぱ駄目か。なんか魔法も使えないし、魔具も上手く機能してない……一旦あっちと合流しないと」
「事前情報では、協力者4人だけの筈」
「……あっちもあっちで交戦してる可能性があるってことですか。なら、尚更行かんと不味いでしょう」
「その前に──」
師匠は敵が落とした槍を蹴りあげて回収し、前方に向けて凄まじい勢いでそれを投擲する。着地点に潜んでいた男特徴からして主犯と思われるソイツは、急いでその場を離れようと動き出す……が、槍は壁に当たると同時に轟音を立てて爆散。破片は主犯の腕に突き刺さり、痛みに悶えながらも走り去ってゆく。
「追う。コーレンはチヤ達と合流、走って」
「ら、らじゃー!」
師匠は目にも留まらぬ速さで地を駆け男を追っていった。俺も急いでチヤ達が調査していた場所に向かおうと、その場から一歩足を踏み出せば──
「──よぉ、坊主。そんなに急いでどうしたんだ?」
見知らぬ誰かに馴れ馴れしく肩を掴まれ、そこから一歩たりとも足を動かせなくなった。まるで心臓を握られたかのような緊張感、正常な息の仕方を忘れ、身体は恐怖により硬直する。
「おいおい。なにもそんな怯えた目ぇしなくてもいいじゃねぇか、傷つくぜぇ。俺はな、聞きたいだけなんだ……俺のダチに手ぇ出したのは、誰なんだ? ってな」
目を動かして、話し掛けてきた男を確認する。肌が露出している部分全てに多かれ少なかれ傷を負っており、右目には眼帯すら着けている。深海のような深い藍色の髪、そして目が、じっと此方を興味深そうに覗いていた。
「まぁ答えられないよな。そうだよなぁ、お仲間の情報は言えないわな……じゃあ坊主は用済──っと、おいおいやるじゃねぇか! ただの足手まといかと思ったが、案外根性あんじゃねぇの!」
男が話している最中にマナで全身を強化させ、無理矢理拘束を解き、男へ拳を打ち込む。しかし、すんでのところで躱されてしまった。恐怖に打ち勝ってなんとか動けたものの、全身から汗が吹き出し、心臓の鼓動音が耳を飛び出して聞こえてくる。
「ハッ、ハッ、なんで……!」
「あ? ……ああ、そういうことか。坊主のお仲間が追ったアレ、俺の影武者。とはいえウチのNo.2だ。数分程度なら稼げるだろ」
「…………悪魔利用者マルコーシア、お前だな」
特段意味の無い確認をする。男は答える気が無いとばかりにニヤニヤとした薄ら笑いを浮かべたままだ。直感で理解した、俺はコイツに勝てない。かと言って逃げきれる保証は無く、最悪の場合、関係の無い人を巻き込んでしまうかもしれない。だからこそ俺がすべき行動は──
「Fランク冒険者コーレン、今からお前を捕まえる……!」
──いのちだいじに……どんな手使ってでも時間を稼ぐ!




