【ep.1】消滅と誕生
私気づいちゃった。
一行ぴったりがわかんないなら一行ぴったりにしなきゃいいんだ。
生徒の騒ぐ声が聞こえるとある高校の廊下。
ふざけて騒いでいる男の声。笑い合っている女の声。
そんな音に溢れた廊下をげんなりとした表情で歩く少女。
その背後からうっすらと笑みを浮かべて忍び寄る人影。
そして―――
「わっ!!」
「うひゃっ!?
…ナ〜ノ〜?驚かすの良くないって何度言ったらわかるのかな〜?」
「ま〜ま〜♪次理科室移動だよ?早くいこいこ!」
「はぁ…移動からの移動とかありえないんだけど…」
「あっははwでも急がないと遅刻だよ?おいてくよ?」
「待ってくださいちょっとそれdうひょあ!?」
「ヒメ!理科室まで競争だよ!!よーいどん☆」
「おいアイリふざけんなお前ぇぇぇぇ!!」
「ヒカがんばれー(棒)」
走り出す二人を眺めながら、浪越ナノは理科の教材を抱えてエスカレーターへ向かう。周りに人がいないことを確認するためにきょろきょろと見回して、一言。
「アイヒカてぇてぇすぎる!!」
そう、ナノは腐っていた。
最初の頃こそ幼馴染である藍川アイリと姫宮ヒメの絡みでそういった感情を抱くことで自己嫌悪に陥ることもあった。しかし。そんなことでは腐女子姫女子は折れない。腐女子で結構。姫女子で結構。最低で結構。尊いものは尊いんだから。そういったマインドで今を生きている、それが一軍腐女子ナノである。
キーンコーンカーンコーン(予鈴)
「これ普通にやばいなさては!?急がなきゃ…!」
エレベーターを駆け下り理科室へ急ぐナノ。エレベーターを下りきれば目の前に理科室の扉があり―――
閃光。
そして爆発音。
授業の開始を告げるチャイムをかき消し、理科室から炎が襲いかかる。
2年E組、担当教員含め総勢41名。
爆炎に飲み込まれ、全員焼死が確認された。
―――――――――
「……ん?あれ…ここ、どこだ?」
ナノが目を覚ましたのは、真っ白な空間。何も見当たらない虚無。
〚…ようやく目覚めたんですか。随分と遅かったですね〛
その声はどこかゆったりとした、神々しさをまとった声色だった。
どこからともなく、空間中から聞こえるような。
声の主の腹の中にでも、いるかのような。
「ご、ごめんなさい……?えと、どちら様ですか?
私、確か爆発に巻き込まれて、死―――」
死。自らの最期の記憶から想定できる、必然の結果。
〚えぇ、あなたは死にました。で、ここは天界とでも言われそうなところですね〛
「て、天界…?急展開すぎてついていけないんですが」
〚む、天界と展開をかけたのですか?素晴らしいですね、私も見習いたいです〛
「かけてないです!!
てか、え?天界…?ってことはあなた…」
〚あら、察しが良くて助かりますね。私は神です〛
「ですよね!!無礼すぎてすみません!!」
〚私は気にしません。それよりもっと大事な話をしましょう〛
「神に対する礼儀より大事な話があるのか…」
〚あなたの、転生先の話をしましょう〛
「…来世って選択制だったんだ」
〚あぁいえ、あなたはその…特別、といいますか特例といいますか…〛
「…?珍しく黙りましたね」
〚出会って間もないですよね私達?
まあこの際隠すことでもありませんか。
あなたは人間に生まれ変われないので、親切な私が選ばせてあげようとしています〛
「唐突な上から目線ですね…。
…あの、人間に生まれ変われないって……?」
〚あなたが生まれ変わるはずの世界は…あぁ、丁度『異世界』なるものですね。
あなたの魂があまりに魔族より過ぎて人間に生まれ変わるならばある程度の欠陥を抱えることになるので、魔族のほうがおすすめです〛
「な、なるほど…?
えっと、選択肢って…?」
〚これです〛
シュイン、という爽やかな音とともに現れたのは様々な文字が書かれた画面。
____________________________________
〘転生先候補〙
《人間》
・人間
…目が見えない、耳が聞こえない、声が出せない、半身不随など欠陥を抱えることになる。欠陥の種類は選べる。
《魔族》
・魔族
…魔術に優れた種族。体の構造は人間と同じだが、羽が出せる。
・吸血鬼
…吸血鬼。月の満ち欠けによってステータスが変動する。血を吸うことで、さらにステータスが変動する。
・エルフ、ダークエルフ
…他種族より遥かに長命。平均して5000年は生きる。現在の最長命は30000年生きている。自身の魔力を込めた植物であれば自在に動かせる。
・サキュバス、インキュバス
…他種族の精気を奪って生きながらえ、力を得る。精気を奪う方法は体の一部や排泄物などを摂取すること。または、夢や欲望を食らう。
・妖精
…他種族に比べ小さかったり、大きかったりする。羽で自在に飛ぶことができる。それぞれの固有魔法がある。
《魔獣》
・ハーピィ
…人間の腕が羽に、足が鳥の足になった魔獣。その声で精神を狂わせる。
・人魚
…下半身が魚になった魔獣。歌声で波や天候を操る。
____________________________________
「…あれ、意外と少ないですね」
〚少ないのではなく私が厳選して差し上げたのですよ感謝しなさい。
あなたは人間以外であればほぼ何にでも生まれ変われますからね〛
「あっそういう…。ごめんなさいありがとうございます」
〚正直でいいですね。では、どれにします?〛
「あの、人間になりたいって言ったらどうします?」
〚……なぜです?〛
「いえ、単純にもともと私人間なので」
〚それだけの理由ならばおすすめはしません。
簡潔に言ってしまえば、人間はクソです〛
「クソ!?」
〚はい。順を追ってご説明しますね?
人間はクソです。以上です〛
「順もなにもないじゃないですか!」
〚失礼、冗談です。では改めて説明しますね。
私は人間以外の種族から信仰されています。では人間が信仰する神は何か。
それが女神【スレギ】です。
アレは人間に自分を狂信させ、人間以外の種族を滅ぼせなどという神託を出したのです。よって人間はクソに堕ちました。〛
「な、なるほど……?」
……では、妖精で」
〚おや、それはまた何故です?〛
「固有魔法っていう響きに誘われました」
〚なるほど…。
ではあなたにぴったりの固有魔法を選んでおきますから、さっさと転生してください〛
「唐突に雑になりますよね女神様」
〚「女神様」ではなく名前で……
あぁ、そういえば姿を見せていませんでしたね〛
そう声の主が告げた途端、ナノの眼の前に眩むほどの光が現れる。
思わず目を瞑り、目を手で覆う。それでもなお眩しいようで、ナノは顔を顰めていた。
そうしている間にも光は人の形をかたどっていき、光が収まるとそこには……
〚改めてはじめまして、浪越ナノ。
私はこの世界の人間以外を統治する神、【ユーシェ】です〛
白銀のくせ一つない髪をそのまままっすぐに下ろし、淡くもどこか凛とした青い瞳でナノを見つめる、正真正銘の美女……美神がいた。
「こ、神々しいってこのことか……」
〚褒めても紅茶しか出ませんよ?〛
紅茶は出るのか。
「い、いえもう転生します……」
〚あらそうですか。
では記憶は4,5歳頃まで預かっておきますね、赤ちゃんプレイしたくないでしょう〛
「どこで赤ちゃんプレイなんて言葉覚えたんですか、はやく忘れてください」
その会話を終えるとナノの視界が段々とぼやけていく。それに呼応するようにまぶたも閉じられかけ―――
〚あぁそうでした、時々呼びますのでちゃんと来てくださいね。
紅茶とお菓子を揃えておきます〛
「えっ、今なんて……」
―――――――――
そうして女子高生:浪越ナノは消滅した。
それと時を同じくして、妖精族族長の娘:ユートム・ソルダが誕生した。
三人称視点むずいよぉ(泣)
ちなみに名前の順番は(名字)・(名前)です。
全作品統一しろ?おっしゃるとおりにございます。統一するつもりはないです。