揺野さんとファミレス
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バスに乗って到着したのは、会社とバーベキュー場の中間地点にあるような海沿いの観光都市だった。
おそらく土地勘がありスタスタ歩く揺野に、不安を抱えながらついていくと、辿り着いたのは、学生時代によく行っていたような、そして今も行くようなファミレスだった。
「え」
戸惑っていると揺野は「もっと高い店のほうがいいですか」と聞いてくる。
「いや……こんなところに、こんな場所あるんだなと思って」
ファミレスは、映画館、高そうなよく分からないブランドの店が入るショッピングモールの中にあった。同じフロアには高級中華やアメリカ料理みたいな大きいハンバーガー店もあるのに、なんでここにこんなものが。
「まぁ、内勤向けじゃないですか? ショッピングモールの中の人間もそうですし、この辺り、観光客向けのホテルだらけなんですよ。下層階は外資系の企業が入ってて上はホテルとか、そもそも大通りの向こうはほぼオフィス街ですし、なのでこう……ごちゃごちゃしてるんですよね。奥はタワマンがあるからスーパーも必要でって」
「詳しいんですね……」
「出身中学が近いんですよ」
揺野は悪戯っぽく笑う。
「あ、じゃあ結構地元……」
「はい。まぁ、この店舗はここ二、三年に出来たらしいですし、その頃あっても……この距離じゃ入れないかな……でも、景色がいいらしくて、一回入ってみたかったんですよね」
そう言って、揺野は「お先に」と僕を店に入るよう促す。店員に「二人で」と伝えると、店の奥の窓際のボックス席に案内された。左右のボックスにはカップルがいて、揺野に振り返る。
「綺麗ですね、夜景」
揺野が笑みを浮かべた。無邪気な表情に店員さんがニコッと微笑み返している。
確かに窓からは彼女の説明で出ていたオフィス街がよく見える。でも、この状況、どうなんだ。レストランとかなら多分まずいと分かるけど、この施設はショッピングモールだし、なんなら同じフロアに映画館があるし、どっちかといえば学生がドリンクバーでねばるみたいなファミレスなので混乱してくる。
「どうぞ」
揺野が座るよう促してきた。ちら、と目配せもされた。どうやら、僕が座らないと店員が戻れない、と言いたいようだ。確かにその通りなので着席する。店員は「お水はセルフで、そちらのドリンクバーにございますので」と戻っていった。
「ここ、セルフオーダーなんですよね。なので、ポテト四皿とかでも問題ないですし、なによりドリンクバーがあるので」
「あ、ああ」
「ワインとかもありますけど、どうします?」
「いや、ど、ドリンクバーで」
「ですよねー。どうしましょうかね。こっちセルフオーダーの画面見てるので、そっちはメニュー表どーぞ」
揺野は僕にメニュー票を渡し、自分はテーブルにあったQRコードをスマホで読み込み、画面を確認している。
「こ、こういうところ、よく来られるんですか」
「いや、学生ぶりですかね」
「はぁ……」
じゃあなんで来た。なんで、僕は。
「なんか普通にこういう日って疲れません? コンビニ寄るのもだるいっていうか、明日の朝に朝ごはんの支度するのも何もかもうんざりっていうか……」
「まぁ、確かに」
「それに、ここ最近飲み会も続いてたって言うか、他社のベンチャーの悪いところ詰め合わせセットみたいな人たちと飲まされたじゃないですか」
揺野の口ぶりに思わず僕は「悪いところ詰め合わせセット」と復唱してしまった。おそらく商社の男たちのことを行っているのだろう。そんな風に考えているとは思わなかった。
「そんな風に思ってたんですか」
「はい。そうですよ」
揺野はキョトンとした顔で肯定した。気のせいか攻撃的に感じる。
「で、でも、女性ってああいう人のほうが、好きそうなイメージが……」
高身長とかイケメンとかマッチョまではいかないまでも男らしい感じというか。しかし揺野は「えぇ、ならない」と、小ばかにしたような笑い方をする。
「違うんですか?」
「いや、案外、少ないんじゃないですかね、高身長イケメンで、商社マン大好き、みたいな人。というか、ああいう、自信満々みたいな感じ、好きな人は……多くは無いというか」
「そうですか? いや、そんなことないと思いますよ?」
そんなことないだろ。本当に。だって街頭インタビューでもそうだし、雑誌のアンケートでも見るし、そもそも飲み会の説教で男らしくないとかもあるし、小さい頃、男の子なんだからと何度言われたか分からない。
「いやでもまぁ……私が、男の人と付き合ったことないってのもあるのかもしれないけど」
ぼそ、と揺野は呟く。一瞬、何を言ってるか分からなかった。何も言えずにいると、「女の子と付き合ってたとかもないですよ」と謎の付け足しをしてくる。
「え、や」
「ああ、男の人が恋愛対象だし、自分の性別に疑問があるとかじゃないです。今、枠組みが色々、多くなってきたというか、分かってきた、知られてきたって感じなんでしょうけど、私は、今に至るまでなかったってだけなので、お気遣いなく」
お気遣いなくじゃない。こんなの、なんで、なんで僕に言った? あまりにも、男として見られてないからにしても、もっとこう、隠すことじゃないのか。
どう呼吸していいか分からなくなってきた僕は、「水とってきますね」と逃げるようにドリンクバーへ向かった。
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