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第1章8節: 食卓での分析と未来への地図

 あっという間に朝食を平らげたアルヴィンは、恍惚とした表情で深い溜め息をついた。


「……はぁ……美味しかった……。ミラさん、これは本当に素晴らしい! 人は、こんなにも満たされる食事をすることができるのですね……!」

「まあな。美味い飯は活力の源だ。それで? 研究者先生としては、この『素晴らしい』料理をどう分析するんだ?」


 あたしは、自分用に作った同じ朝食を食べながら、揶揄うように尋ねた。アルヴィンは、はっと我に返ったように居住まいを正した。


「そ、そうですね! まず、栄養のバランス! 麦という主食に、野菜、卵、そして調理に使った獣脂。これは非常に理に適った組み合わせです。そして加熱! 生で食べるよりも消化吸収が良く、食材によっては栄養価が高まることすらある。さらに、食材の組み合わせによる相乗効果! それぞれの素材の味を高め合い、新たな風味を生み出している……!」


 早口でまくし立てるアルヴィン。

 どうやら、彼の研究者魂にも再び火が付いたらしい。


「ですが、最も驚くべきは、塩を使っていないのに、これほどしっかりとした味が感じられることです! これは一体……?」

「素材が良いからだろ。この世界の食材は、味が濃い。あとは、野菜の旨味を引き出すように、じっくり煮込んだことかな。それと、目玉焼きの方は、あの獣脂に少し塩気でもあったのかもな」

「なるほど……素材のポテンシャルを引き出す調理法……! 奥が深い……!」


 アルヴィンは、ぶつぶつと何かを呟きながら、手元の羊皮紙にメモを取り始めた。その熱心さは、古代魔法の研究をしている時と同じくらいだ。


「あんたも物好きだな。そんな難しく考えなくても、美味いもんは美味いでいいんだよ」

「いえ、しかしですね、ミラさん! あなたの料理は、単に美味しいだけではないのです! これは、失われた古代の叡智、人類が生きる上で培ってきた文化そのものなのです! このウェスティア大陸では、『沈黙の灰禍』によって、このような豊かな食文化が、その存在意義すら忘れ去られてしまった……なんと嘆かわしいことか!」


 アルヴィンは拳を握りしめ、憤慨したように言った。彼の言う通りだろう。こんなにも素晴らしい食材がありながら、それを活かす術を知らないというのは、本当に勿体ない話だ。


「……同感だな。だから、あたしは行く先々で、美味いもんを作って、食わせてやるつもりだよ。美味い飯の味を知らねえ奴らに、本当の食の喜びってもんを教えてやるんだ」

「なんと……! それは素晴らしいお考えです!」


 アルヴィンは、あたしの言葉に深く感銘を受けたようだった。


「でしたら、ミラさん! ぜひ、私と一緒に行きませんか?」

「ん? 一緒にって……どこへ?」

「ウェスティア大陸中に散らばる、未知の食材と、失われた食文化の痕跡を探す旅です! あなたは最高の料理を作り、私はその技術と背景にある知識を記録・研究する! まさに完璧な組み合わせではありませんか!」


 なるほど。確かに、目的は一致している。あたしは美味い食材を探して料理したいし、アルヴィンは失われた技術を研究したい。利害は完全に一致していると言っていいだろう。それに、こいつがいれば、魔法や古代の知識に関する情報も手に入るし、何かと便利そうだ。……財布としても。


「……まあ、悪くない提案だな。いいだろう、一緒に行ってやるよ」

「本当ですか! やった!」


 アルヴィンは再び子供のようにはしゃいだ。


「それで、最初の目的地はどこにするんだ? あんた、何か心当たりでもあるのか?」

「ええ、いくつか候補はあります。西のグランデール平原では、古代の特殊な穀物が見つかるという伝説がありますし、北の鉄の帝国ガレリア周辺では、特殊な鉱塩が採れるとか……。あるいは、南の常夏の群島アクアリアには、未知の海産物が豊富だと言われています」

「ほう……どれも面白そうだな」


 未知の食材、特殊な穀物、鉱塩、海産物……どれも料理人としての好奇心をくすぐる響きだ。


「よし、決めた。まずは、一番近い西のグランデール平原に行ってみよう。特殊な穀物ってのが気になる。それで美味いパンでも焼いてみたいからな」

「パン! あの、麦を粉にして焼くという……? それも失われた技術の一つです! ぜひ見てみたい!」


 こうして、あたしたちの次の目的地が決まった。失われたパンの味を求めて、西の平原へ。新たな冒険の始まりに、あたしの胸は高鳴っていた。


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