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元・豪腕女冒険料理人、料理という概念が存在しない異世界で胃袋無双する ~見た目は可憐なエルフ少女、でも腕っぷしはドワーフ級!?~  作者: 霧崎薫


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第2章7節: 平原の終わりと次なる目標

 古代穀物と塩を手に入れたことで、あたしたちの平原での旅は、格段に快適なものになった。

 食事のレベルが、劇的に向上したのだ。

 朝は、古代穀物の粉を使った香ばしいパンケーキ(魔法の練習のおかげで、焦がすことも少なくなった)と、新鮮な卵の目玉焼き。昼は、干し肉と野草を挟んだ古代穀物パンのサンドイッチ。夜は、仕留めた獲物の肉を塩と魔法で調理し、古代穀物のパンと共に味わう。

 時折、アルヴィンが文献で見つけたレシピ――と言っても、「焼いた肉に潰した木の実を添える」程度のものだが――を試してみたり、あたしが魔法を使って新しい調理法(例えば、水蒸気で野菜を蒸してみるとか)を実験してみたりと、食卓は日に日に豊かになっていった。


「いやあ、ミラさんのおかげで、旅の食事がこんなにも楽しくなるとは思いませんでしたよ」

「あたしのおかげっていうか、この穀物と塩のおかげだな。素材がいいと、料理も楽しくなる」


 アルヴィンはすっかり健啖家になり、以前よりも心なしか血色も良くなった気がする。美味い飯は、やっぱり人を元気にするんだ。


 あたし自身の魔法の腕も、着実に上達していた。火力の精密なコントロールはまだ難しい時もあるが、水の生成や、簡単な土の造形(例えば、即席の竈を作るとか)、風による送風(火力を強めたり、食材を冷ましたり)などは、かなり実用的なレベルで使えるようになってきた。料理への応用も、少しずつだが試せるようになってきている。


「この調子なら、ミラさん、いずれは四大元素全てを自在に操る大魔法使いに……」

「なるか、そんなもん。あたしは料理人だ。魔法は、あくまで料理を美味くするための道具だよ」


 アルヴィンの期待をいなしつつも、あたしは魔法の持つ可能性を感じ始めていた。自分の腕と、知識と、そしてこの魔法の力が合わされば、もっと凄い料理が作れるんじゃないか? そんな予感が、胸の中に芽生え始めていた。


 やがて、長く続いたグランデール平原の風景にも、変化が見え始めた。地平線の先に、うっすらと山脈の影が見えてきたのだ。霧深き山脈ドラゴンスパインだ。あたしたちの平原横断の旅も、そろそろ終わりが近いらしい。


「さて、アル。平原も抜けるが、次はどうする? 山脈を越えるか? それとも、別の場所へ行くか?」


 焚き火を囲みながら、あたしはアルヴィンに尋ねた。古代穀物という大きな目標は達成したが、あたしの食材探求の旅はまだ終わらない。


「そうですね……ドラゴンスパイン山脈には、希少な鉱物や高山植物、そして強力な魔獣が生息していると言われています。ミラさんの興味を引く食材もあるかもしれませんが、同時に非常に危険な場所でもあります」

「危険だろうがなんだろうが、美味いもんなら見逃せねえな。鉱物ってのは、もしかして岩塩とかもあるのか?」

「可能性はありますね。また、特殊な薬効を持つ高山植物は、料理のスパイスや香り付けに応用できるかもしれません」

「スパイス! それは魅力的だな……」


 塩を手に入れた今、次に欲しいのは間違いなくスパイスだ。料理の味を、さらに複雑で奥深いものにしてくれる。


「よし、決めた。次は、あの山脈に挑戦してみようぜ!」

「やはり、そうなりますか……。覚悟はしていましたが……」


 アルヴィンは、少し顔を引き攣らせながらも、反対はしなかった。彼もまた、あたしと旅をすることで、未知への探求心が刺激されているのかもしれない。


 こうして、あたしたちの次なる目標は、霧深き山脈ドラゴンスパインの踏破と、そこに眠る未知の食材(特にスパイス!)の探索に決まった。

 広大な平原での経験を経て、魔法という新たな力を少しだけ手に入れたあたしは、次なる挑戦に向けて、静かに闘志を燃やすのだった。

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