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元・豪腕女冒険料理人、料理という概念が存在しない異世界で胃袋無双する ~見た目は可憐なエルフ少女、でも腕っぷしはドワーフ級!?~  作者: 霧崎薫


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第2章6節: 塩作りとパンへの道

 塩辛い沼地から離れた安全な場所で、あたしたちは再び野営の準備を始めた。今日の晩飯は、豪華になりそうだ。


「まずは、塩だな」


 あたしは鉄鍋に汲んできた塩水を入れ、魔法で起こした火にかけた。水分を蒸発させて、塩の結晶を取り出す算段だ。火力調整は、アルヴィンに手伝ってもらう。


「ミラさん、この作業も魔法ならもっと効率的に……例えば、水の元素魔法で水分だけを分離させるとか……」

「うるせえ、今は古典的な方法でやるんだよ。塩作りはな、こうやってじっくりやるのがいいんだ」


 まあ、本当は魔法の使い方がまだよくわからないだけなんだが。

 鍋の中の塩水が、ぐつぐつと煮詰まっていく。水分が蒸発するにつれて、鍋の縁に白い結晶が析出し始めた。


「おお……! 塩ですね!」

「そうだ。これを集めれば、念願の塩が手に入る」


 水分が完全になくなるまで煮詰め、鍋の底に残った白い粉末状のものを木のヘラで丁寧に掻き集める。少し灰色がかっているが、紛れもない塩だ。量はそれほど多くないが、これで当面の味付けには困らないだろう。

 あたしは採取した塩を、革袋の一つに大切にしまった。


「さて、次はメインディッシュだ!」


 あたしは仕留めたホーンディアの肉を取り出し、手に入れたばかりの塩を軽く振りかけた。そして、アルヴィンに頼んで、例の「表面カリッと」魔法をかけてもらう。

 塩と魔法のコンボ。これは期待できるぞ……!


 焼きあがった肉を、アルヴィンと二人で食べる。


「…………!!!!!!!」


 美味い! 塩があるだけで、こんなにも肉の旨味が引き立つのか! 魔法で付けた香ばしい焦げ目と、凝縮された肉汁、そして絶妙な塩加減! これは……前世で食べたどんな高級ステーキにも負けないかもしれない!


「お、美味しい……! 美味しすぎます、ミラさん! 塩と魔法……そしてあなたの調理技術……これが合わさると、こんな奇跡のような味になるのですね……!」


 アルヴィンは、またしても涙ながらに肉を頬張っている。こいつの感動っぷりも、もはや見慣れた光景だ。


 最高のディナーに満足したあたしたちは、焚き火を囲んで一息ついた。

 さて、次は……いよいよ、古代穀物の出番だ。


「アル、この穀物、どうやって粉にするのがいいと思う?」


 あたしは収穫してきた黄金色の穂を取り出し、アルヴィンに見せた。


「ふむ……古代の文献によれば、石臼のようなもので挽いていたようですが……我々にはありませんね。硬い石の上で、別の石で叩き潰すのが現実的でしょうか」

「だよな。手間がかかりそうだが、やるしかないか」


 あたしたちは手頃な平らな石と、叩くための丸い石を見つけ、古代穀物の脱穀と製粉作業に取り掛かった。

 穂から一粒一粒、穀物を取り出すだけでも一苦労だ。そして、それを石の上で叩き潰していく。単純だが、根気のいる作業だ。


「……ふぅ。これは思ったより大変だな」

「古代の人々は、これを毎日やっていたのでしょうか……」


 二人で黙々と作業を続ける。時折、アルヴィンが風の魔法で殻を吹き飛ばしたり、あたしが土の魔法(これも練習中だ)で石の表面を整えたりしながら、少しずつ、少しずつ、琥珀色の粉が溜まっていく。


 数時間後。ようやく、パンを一つ焼けるくらいの量の粉ができた。見た目は粗いが、独特の良い香りがする。


「よし、これでパンを焼いてみようぜ!」

「はい!」


 あたしは粉に水を少しずつ加え、手でこねて生地を作る。酵母がないので、発酵はさせられない。いわゆる無発酵パン、チャパティやナンのようなものになるだろう。生地を薄く伸ばし、熱した石板の上で焼く。


 香ばしい匂いが漂い始めた。普通の麦とは違う、ナッツのような、甘いような、複雑な香りだ。両面に焼き色がつき、ぷくーっと膨らんできた。


「できた……! 古代穀物のパンだ!」


 あたしは熱々のパンを石板から取り上げた。見た目は素朴だが、ずっしりと重みがある。


「さあ、アル! 歴史的な瞬間だぞ!」

「ごくり……」


 あたしたちは、焼き立てのパンを半分にちぎり、同時に口に運んだ。


「…………!!!!!!!」


 言葉が出なかった。

 なんだ、この味は……!

 噛み締めるほどに、穀物の深い甘みと香ばしさが口の中に広がる。粗挽きならではの、プチプチとした食感も楽しい。塩気はなくても、これだけで十分に完成された味だ。美味い……! これは、あたしが今まで食べたどんなパンよりも、滋味深く、力強い味がする!


「ミラさん……これが……失われたパンの味……!」


 アルヴィンも、言葉を失い、ただただパンを噛み締め、その味に打ち震えているようだった。


 古代穀物、恐るべし。これなら、苦労して探し出した甲斐があったというものだ。

 あたしたちは、その夜、古代穀物のパンの感動的な味を、心ゆくまで堪能したのだった。

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