第2章5節: 沼地の主と連携プレー
古代穀物の収穫に夢中になっていた、その時だった。
ザバァッ!!
すぐ近くの沼の水面が、突如として大きく盛り上がった。水飛沫と共に現れたのは……巨大な蛇のような魔物だった!
体長は10メートル以上ありそうだ。ぬらぬらと光る緑色の鱗に覆われ、頭部にはカエルのような大きな目玉が二つ、ギョロリとこちらを睨んでいる。口からは、鋭い牙が覗いていた。
「なっ……!?」
あたしは咄嗟に身構えた。こいつが、この沼地の主か!
「ミラさん!! 危ない!!」
岸辺からアルヴィンの悲鳴が聞こえる。
巨大蛇は、鎌首をもたげ、シューッ! と威嚇の声を上げた。どうやら、あたしが縄張りを荒らした(穀物を採った)ことに怒っているらしい。
「ちっ、面倒なのが出てきやがった!」
あたしはナイフを構える。相手はデカいが、やるしかない。沼の上では足場が悪すぎる。この丘の上で迎え撃つ!
巨大蛇が、素早い動きで襲いかかってきた! 大きな口を開け、あたしに噛みつこうとする!
あたしは間一髪でそれを躱す。だが、相手の巨体から繰り出される動きは重く、速い。掠っただけでも危険だ。
「くそっ、硬え!」
ナイフで鱗を切りつけようとするが、硬くて刃が通らない! これじゃ分が悪すぎる!
「ミラさん! 私が援護します!」
アルヴィンの声。見ると、彼は岸辺で杖を構え、何かの魔法を詠唱している。
「――風よ、刃となりて敵を穿て! ウィンド・カッター!」
アルヴィンが叫ぶと、風の刃が数発、巨大蛇に向かって飛んでいった!
シュパパパッ!
風の刃は、蛇の硬い鱗に弾かれるかと思いきや、意外にもいくつかの鱗を剥がし、浅い傷をつけた!
「グシャァァァ!!」
巨大蛇が苦痛の声を上げ、アルヴィンの方を睨む。注意が逸れた! 今だ!
「――燃えよ!」
あたしは、練習中の火の魔法を、巨大蛇の顔面目掛けて放った! 制御はまだ完璧じゃない。だが、この際、威力重視だ!
ボッ! と勢いよく噴き出した炎が、巨大蛇の目を焼く!
「ギャァァァァ!!」
たまらず巨大蛇はのたうち回る。視界を奪われ、アルヴィンの風の刃とあたしの炎に混乱しているようだ。
チャンス!
あたしは懐に飛び込み、ナイフを逆手に持ち、蛇の弱点……おそらく、口の中か、目のあたりを狙う!
しかし、巨大蛇も必死だ。やみくもに尻尾を振り回し、あたしを薙ぎ払おうとする!
「危ない!」
尻尾が迫る! 避けきれない!
そう思った瞬間。
「――土よ、壁となりて守れ! アース・ウォール!」
アルヴィンの声と共に、あたしの目の前に、土の壁が瞬時に出現した!
ドゴォン! と鈍い音を立てて、蛇の尻尾が土壁に激突する。壁は衝撃でひび割れたが、なんとか持ちこたえた。
「ナイスだ、アル!」
「今です、ミラさん!」
あたしはアルヴィンが作ってくれた一瞬の隙を突き、蛇の顎の下、比較的鱗の薄そうな部分にナイフを突き立てた!
グサリ!
確かな手応え! ナイフは深く突き刺さり、緑色の体液が噴き出した。
「グ……ギ……ッ……!!」
巨大蛇は最後の断末魔のような声を上げ、やがてぐったりと動きを止めた。
「……はぁ……はぁ……。やった……のか?」
あたしは荒い息をつきながら、動かなくなった巨大蛇を見下ろした。アルヴィンも、魔力を使い果たしたのか、岸辺でへたり込んでいる。
「やりましたね、ミラさん!」
「ああ……お前のおかげだ、アル。助かった」
初めての、まともな連携プレー。魔法使いと組むってのは、こういうことか。なかなか悪くない。
「それにしても、こいつ……」
あたしは巨大蛇の死骸を見下ろした。緑色のぬめった体。正直、あまり食欲はそそられない。
「……食えるかな?」
「えっ!? これをですか!? さ、流石にそれは……」
アルヴィンが顔を引き攣らせている。まあ、冗談だ。それよりも、今は戦利品だ。
「よし、アル! 手伝ってくれ! この穀物と、あと、塩水の確保だ!」
あたしたちは協力して、古代穀物の穂をできる限り回収し、さらに沼の塩水を水筒(アルヴィンが持っていた)に満たした。巨大蛇の死骸は……放置することにした。そのうち、他の魔物か何かが片付けてくれるだろう。
泥まみれになりながらも、あたしたちは大きな収穫物を手に、意気揚々と沼地を後にした。




