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元・豪腕女冒険料理人、料理という概念が存在しない異世界で胃袋無双する ~見た目は可憐なエルフ少女、でも腕っぷしはドワーフ級!?~  作者: 霧崎薫


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第2章1節: 風渡る平原と古代の囁き

 ラルンの町を後にして、あたしたちは西へと続く街道を進んでいた。町の喧騒はすぐに遠のき、目の前にはただ、どこまでも広がる緑の絨毯――グランデール平原が広がっていた。


「ひゃっほう! こりゃすげえ!」


 思わず声が出た。地平線まで遮るものが何もない、見渡す限りの大平原。吹き抜ける風は草の匂いを運び、空は抜けるように青い。前世でも色々な場所を旅したが、これほどまでに広大で開放的な平原は記憶にない。体が自然と軽くなるような、不思議な高揚感があった。


「ウェスティア大陸でも有数の穀倉地帯、それがこのグランデール平原です。見た目は穏やかですが、時には天候が急変したり、大型の魔獣が出没したりすることもあるので油断は禁物ですよ」


 隣を歩くアルヴィンが、本から顔を上げて解説してくれた。相変わらず、重そうな荷物を背負ってとぼとぼと歩いている。よくそれで平気だな。


「へえ、魔獣ねぇ。美味いのかな?」

「えっ……食材として、ですか? グランデール・バイソンなどは肉が美味だと聞きますが、非常に獰猛ですよ?」

「獰猛だろうがなんだろうが、美味いもんは美味いんだよ。見かけたら、ちょっと狩ってみるか」

「む、無茶はしないでくださいよ! 私の護衛も兼ねているのですから!」


 アルヴィンが慌てたように言う。まあ、冗談半分だ。まずは目的の古代穀物とやらを探すのが先決だ。


 街道を外れ、あたしたちは本格的に平原の中へと足を踏み入れた。足元には腰ほどの高さまで伸びる草が生い茂り、時折、色とりどりの野花が顔を覗かせている。中には、見覚えのある薬草に似たものもあった。これもエルフの視力のおかげか、あるいは自然との親和性ってやつか?


「アル、あの草、なんか薬になりそうじゃねえか?」

「どれですか? ……ああ、それは『風読み草』ですね。乾燥させて煎じれば、軽い頭痛や風邪に効くとされています。民間療法ですが」

「へえ。じゃあ、こっちは?」

「それは『太陽の涙』と呼ばれる花です。特に薬効はありませんが、夜になると淡く光るので、旅人の目印になることも……」


 さすがは研究者。あたしが見つける植物の名前や効能を、次々と言い当てていく。こいつ、歩く百科事典みたいだな。


 しばらく歩くと、遠くに巨大な影が見えた。目を凝らすと、それは十数頭の群れをなして草を食む、牛に似た巨大な動物だった。体長は5メートルを超え、湾曲した巨大な角を持っている。あれがグランデール・バイソンか。確かに迫力がある。


「美味そうだな……」

「ミラさん、だから無茶は……!」


 あたしが涎を垂らしそうになっていると、バイソンの群れはこちらに気づいたのか、ゆっくりと移動を始めた。まあ、今は追うのはやめておこう。


「それで、アル。例の古代穀物ってのは、どこに行けば見つかるんだ? 何か手がかりは?」

「それが……伝承によってまちまちでして。『風が集まる丘の上』とか、『三日月湖のほとり』とか、『雷鳴の落ちた大樹の根元』とか……。特定の時期にしか穂をつけない、という話もあります」

「はあ? ずいぶん曖昧だな。それじゃ、しらみ潰しに探すしかねえのか?」

「残念ながら……。ですが、いくつかの伝承に共通しているのは、『魔力が満ちる場所』に生える、ということです。ですから、普通の穀物とは違う、何か特別な気配のようなものを感じ取ることができれば……」


 魔力が満ちる場所、ねぇ。魔法使いのアルヴィンならともかく、あたしにそんなもんが感じ取れるのか?

 いや、待てよ。アルヴィンは、あたしにも魔法の素養があるって言ってたな。もしかしたら……。


「まあ、やってみるしかねえか。とりあえず、日が暮れる前にどこかで野営しようぜ。腹も減ったし」


 あたしたちは手頃な窪地を見つけ、そこを最初の野営地と決めた。窪地は風を避けやすく、近くに小さな湧き水もあった。完璧なロケーションだ。


 あたしは早速、焚き火の準備を始めた。昨日と同じように、石と枝で火を起こす。アルヴィンは感心したようにその様子を見ていたが、やがて遠慮がちに口を開いた。


「ミラさん、その……もしよろしければ、魔法を使ってみてはいかがでしょう?」

「魔法? 火起こしにか?」

「ええ。火の元素魔法を使えば、一瞬で安全に火を熾せますよ。それに、調理の際の火力調整も自在です。例えば、弱火でじっくり煮込みたい時や、逆に強火で一気に炒めたい時など……」

「……ふーん」


 確かに、便利そうだとは思う。前世でも、火加減の調整には苦労した。魔法でそれが自在にできるなら、料理の幅も広がるだろう。

 だが、どうにも抵抗がある。あたしは今まで、自分の腕と知識と、五感を頼りに料理をしてきたんだ。そこに、魔法なんていう得体の知れない力を持ち込むのは……なんだか違う気がする。


「まあ、考えとくよ。今はこれで十分だ」


 あたしはそう言って、パチパチと音を立て始めた焚き火に、買ってきた干し肉を炙り始めた。味気ないとは思いつつも、空腹には勝てない。アルヴィンは少し残念そうな顔をしたが、それ以上は何も言わなかった。

 風が吹き抜ける広大な平原の真ん中で、小さな焚き火を囲む二人。これから始まる長い旅を予感させる、静かな夜だった。

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