表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

7/20

7話.辿り着いた小さな町

冷たい朝の空気の中、リュシアはゆっくりと目を開けた。


洞窟の天井には細かなひびが走り、壁の隙間から差し込む光が、昨夜の嵐が過ぎ去ったことを伝えていた。


「……朝、か。」


体は冷え切り、関節はこわばっていたが、昨夜よりは幾分かマシだった。


宮廷にいた頃は、柔らかな羽毛布団に包まれて眠るのが当たり前だったのに、今は冷たい地面が寝床だ。


――でも、私はまだ生きている。


そう思うと、不思議と少しだけ力が湧いてくる。


「さて……。」


リュシアはゆっくりと立ち上がった。


次の目的は、食べ物を手に入れることだ。


このままでは、あと数日と持たない。


ーーーーーーーーーーーーーーー


岩場を抜け、荒野を越えた先に、その町はあった。


「……あれは?」


遠くに見えたのは、こじんまりとした家々が並ぶ小さな町だった。


煙突からは白い煙が上がり、そこかしこから家畜の鳴き声が聞こえる。


町の周囲には畑が広がり、農民たちがせっせと働いていた。


「ようやく、人の住む場所にたどり着いた……。」


ほっとした途端、力が抜けそうになる。


だが、安心するのはまだ早い。


この町がどんな場所かも、どんな人がいるのかも分からない。


警戒しつつ、ゆっくりと町へと足を踏み入れた。


「おや?」


町の入り口近くで、畑仕事をしていた老人がリュシアに気づいた。


「見かけない顔だねぇ。旅の人かい?」


リュシアは一瞬、答えに迷った。


「……はい。」


「そうか。ずいぶん疲れているように見えるが、大丈夫かね?」


親しげな声に、少しだけ肩の力が抜ける。


「少し……休める場所を探しています。」


「それなら、町の宿屋に行くといい。この先の広場を抜けたところにあるよ。」


「ありがとうございます。」


リュシアは丁寧に礼を言い、町の中へと進んだ。


ーーーーーーーーーーーーーーー


町の中心には、小さな広場があった。


露店がいくつか並び、パンや果物を売る声が飛び交っている。


その一角に、こぢんまりとした宿屋があった。


「風見鶏亭」


扉を押し開けると、中には木の温もりを感じる空間が広がっていた。


カウンターの奥で、大柄な男性が帳簿をつけている。


「いらっしゃい。」


宿の主人らしき男性が顔を上げた。


「すみません、一泊いくらでしょうか?」


「銀貨三枚だ。」


リュシアは、残された僅かな所持金を思い浮かべる。


銀貨三枚は、今の彼女にとっては決して安くない。


「……長旅で疲れていて、今は手持ちが少ししかありません。すぐに払うので、少しだけ待ってもらえませんか?」


「ふむ……。」


宿の主人はじっとリュシアを見つめた。


「まあ、困っているようだしな。最初の一晩はツケにしておこう。」


「えっ……?」


「旅人が金に困るのは珍しくないさ。何か仕事を探して、稼いだら払えばいい。」


リュシアは驚いた。


こんなに親切な人がいるとは思わなかった。


「ありがとうございます……!」


「礼はいいさ。部屋は二階の一番奥だ。ゆっくり休みな。」


「……はい。」


ーーーーーーーーーーーーーーー


部屋は簡素だったが、清潔で温かみがあった。


固い床や冷たい洞窟で寝ていたリュシアにとっては、それだけで十分すぎるほどだった。


ベッドに腰を下ろし、しばらく天井を見つめる。


「……ここでなら、やり直せるかもしれない。」


宮廷ではなく、小さな町。


誰も自分のことを知らず、過去を問わない場所。


リュシアは静かに目を閉じ、久しぶりに安らぎを感じながら、眠りについた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ