4話.追放の日
朝焼けが宮廷の石畳を照らし、冷たい風が吹き抜ける。
リュシアは衛兵たちに両腕を掴まれ、無情にも宮廷の外へと引きずり出された。
彼女の身に着けているのは粗末な薄衣一枚。高貴な占い師としての装飾品や華やかな衣服はすべて剥ぎ取られ、ただの追放者として放り出されるのだ。
「これが皇帝に仕えた者の末路か。哀れなものだな。」
どこからか、そんな嘲笑が飛んできた。
宮廷の高台から、数人の貴族たちが面白がるようにリュシアを見下ろしていた。
その中には、彼女を陥れたガルダスの姿もあった。
「占い師殿、未来が見えるのなら、これからの貧しい暮らしも覚悟しているのか?」
ガルダスが嘲るように言うと、周囲の貴族たちもそれに倣って笑い声を上げる。
「これからは、路傍で小銭でも恵んでもらうのだな!」
「いや、もう占いもできないのだから、何の価値もないか。」
「みじめな姿で都をさまようのか、それとも田舎で死ぬのか、どちらだ?」
リュシアは一言も発さなかった。彼らの言葉は耳に届いていたが、それに反応する価値もない。
衛兵が門の前で彼女の腕を乱暴に振り払うと、リュシアは地面に倒れ込んだ。
「さあ、行け。もうお前の居場所はここにはない。」
冷たく言い放ち、衛兵たちはすぐに門の内側へ戻った。
重厚な鉄の扉が、彼女の目の前でゆっくりと閉ざされる。
――もう二度と、この門の内側には戻らない。
リュシアは地面に手をつき、静かに立ち上がる。
風が吹いた。
その瞬間、どこからか小さなすすり泣きが聞こえた。
リュシアが顔を上げると、宮廷の陰に隠れるようにして、数人の使用人たちがこちらを見つめていた。
彼らは涙を浮かべ、しかし貴族たちに見つからないように、ただじっと彼女を見送るしかなかった。
「……お嬢様……」
小さな声が、彼女の耳に届いた。
リュシアは微笑むと、そっと首を振る。
(大丈夫よ。)
言葉にはしなかったが、その表情がすべてを物語っていた。
彼女は振り返ることなく、歩き出した。
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宮廷の塔の一角から、静かにその姿を見つめる男がいた。
レオナード・ヴァルト将軍。
彼はこれまで無表情を貫いてきたが、今は違う。
奥歯を噛み締め、拳を握りしめ、去っていくリュシアを見つめていた。
(お前を見捨てたのは俺ではない。だが、それでも――)
リュシアが小さくなっていく姿を見ながら、彼は心の中で誓う。
(必ずお前を見つける。)
レオナードの目には、決意の炎が宿っていた。
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リュシアは宮廷から離れ、ただひたすらに歩いた。
どこへ行けばいいのか分からない。頼る者もいない。
だが――
「もう、二度と宮廷には戻らない。」
そう決めたのだから、振り返る必要などないのだ。
冷たい風が吹き抜ける中、彼女は前だけを見据え、歩き続けた。