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風通しのいいギャング

蜂の巣会(アピスドーム)業務日誌

2222年2月22日(金)

担当:アンダーボス 鷹取


「ギャングの経営にも、透明性が必要だと思うんですよね。」

 また今日も唐突にボスがよくわからないことを言い始めた。

 どうせまた、雑誌か何かで読んだ記事にでも感化されたのだろう。『ホワイト企業の作り方』とか、まるでギャングに縁が無さそうなものだ。

 会議室に集まった幹部たちも皆一様にポカンとしている。

「えっと…話が見えてこないんですけれど、どういう意味ですか?ボス。」

 そんなことを考えているとボスを挟んで俺の反対側に座った男、コンシリエーレの真嶋誠(まじままこと)がそう声をあげた。

 こんな空気の中でも会議を前に進めようとして、相変わらず真面目な男である。

「良い質問です。やはり我々もギャングという組織である以上は経営が必要なわけです。でも経営はクローズドであっては周囲に不信感を与えてしまい、上手くいかないものなのです。ここまでわかりますか?誠くん。」

「いえ…あの…まあ…はい。」

 色々とツッコミどころはあるが、このボス、神崎梨花(かんざきりか)という少女の発言に一々ツッコんでいては話が前に進まないのだ。

 そこのところを真嶋はよくわかっていて、言いたいことを全て飲み込んで、とりあえず最後まで聞いてみることにしたのだろう。

「なので、組織内の風通しを良くして、カスタマーや株主に対してもより透明性の高い組織へと改革をしたいと思います!」

 真嶋が頭を抱えた。まあそれはそうだろう。

 俺も真面目にボスの話を聞いていたはずだが、まるで意味が分からない。というか多分梨花本人もよく理解していないで感化された本で読んだ言葉をそのまま言っているだけだろう。

 というかそもそもギャングの株主って誰だよ。

「あの…ボス?色々と疑問点はあるんですが、とりあえず具体的に何をするのかだけ教えてもらってもいいですか?」

「よくぞ聞いてくれました!具体的にはアジトの窓を増設して、換気扇を増やします!」

 真嶋が深いため息をついた。気持ちは分かるが客観的に見ると大分面白い。

「なるほど!インフルエンザも流行ってますからね。」

 と、そこへ今まで黙っていたカポの一人、小田切健(おだぎりけん)がそんなことを言い始めた。

 多分そういう話では無いんじゃないかと思う。

「いえ、あの、確かに伝染病は怖いですけど、今の話はそういうことではなくて…」

「そうでしょ!?やっぱり今必要なのは風通しなんだよねぇ」

 真嶋とボスの言葉が重なった。

 真嶋は全てを諦めたようだった。

 目的と手段があっているかはともかく、確かに冬のこの時期に組織内で感染症のパンデミックが起こると怖いのは確かなので、アジトを換気がよくできる状態にしておくのも悪くないかもしれない。

「じゃあ今日は、アジトに窓をつけて換気扇も増設するってことの報告ってことで良いか?」

 真嶋が沈んでしまったので俺がまとめに入るとボスが大仰に頷いた。それを見て、幹部たちも全員が頷いたので俺は本日の会議をそこで終了とした。


「それで、換気扇とか窓とか増やすのはいいんですけど、予算とかどうするんですか?」

 会議の後、幹部たちが会議室を後にする中ボスへと話しかけたのは真嶋だった。

「うーん。榊原が反対しなかったんだし何とかなるんじゃない?おーい!榊原ぁ!」

 ボスが大きな声でそう呼びかけると丁度椅子から立ち上がりかけていた経理担当カポレジームの榊原一平(さかきばらいっぺい)が振り返ってこちらへと歩いてきた。

「どうしましたか?」

「窓とかの予算って何とかなるよね?」

「ええまぁ、お望みとあらばその程度は何とかしますが。…言っておきますが過度な装飾をしようだとかそういった贅沢する予算はありませんからね?」

「それは勿論!組織の風通しをよくするのが目的だからね!」

 ドヤ顔でそう語るボスから視線を外して榊原はこちらに目を合わせてくる。

 まあ大方ボスを暴走させないでくれというサインだろう。

 約束はできないので苦笑と肩をすくめるジェスチャーを返しておく。

 榊原は不満げな顔をすると今度は真嶋に視線をやった。

 真嶋は苦虫を嚙み潰したような顔をしていた。

「ではそういうことで、予算の申請書はしっかり出しておいてくださいね。」

 榊原はそれだけ言うと出口の方へと歩いて行った。

「じゃあボス、業者は自分の方で選定して段取りは決めておきますので、それでいいですか?」

 真島は止められない流れならいっそ自分でコントロールできた方がいいと考えたのだろう

「お?全部やってくれるの?助かる!やぁ、誠くん君は優秀だよ本当に。」

「ありがとうございますボス、では早速取り掛かるので失礼します。」

 全く感情のこもっていない謝辞を述べながら真嶋は会議室を後にした。

「それでなんですけどボス、いや、梨花ちゃん。今度は何読んだの?」

 二人きりになった会議室で、俺は先代組長の娘の梨花へ問いかけた。

「よくぞ聞いてくれました!これよこれ。」

 梨花が取り出したのは案の定雑誌だった。竹梅(ちくばい)書房の発行したもののようで、『ビジネス現代』というタイトルのようだ。

 中を見て見ると、予想通りそれっぽい特集記事があった。

『現代社会を生き残るための組織透明化革命!』という見出しの特集だ。

『かつての企業はある程度情報をクローズドにして自らに都合のいい要素を小出しにすることでアドを稼いでいました。しかし、現代の情報時代、検索すれば色々な情報が誰でもすぐに手に入る世の中、カスタマーや株主は企業により透明性を求める傾向が出てきています。組織の在り方も時代と共に変わっていく必要があるわけです。では実際に例を交えながら見ていきましょう。』

 みたいなことが書いてあるようだった。

 俺はこの文面に思い当たることがあり、最終ページを確認する。

『発行年:2035年』

 思った通りだった。

 この文中にあるような誰しもがインターネットにアクセスしてほしい情報をすぐに手に入れられる時代なんてのは100年前に終わりを告げた。

 時代と共に変わる必要があるって書いてあるのにそこをちゃんと読み取れるようになって欲しいなぁなんて思いながら俺はボスへと問いかける。

「梨花ちゃん。この記事にも『時代と共に変わっていく必要がある』って書いてあるよね?これ200年前のしかも企業の常識の話なんだわ。」

「え?」

「気が付いてなかったかぁ…そもそもこれどこから持ってきたの?」

「この前物資取りに行った廃工場の休憩室みたいなところにあったんだよね。」

「まあいいや、ともかく、これ書いてあることはまっとうだけど、現代のギャングには当てはまらないと思うんだよね。」

「ふーん…でもそれ会議で言っとけばよかったくない?何で今になって言うの?」

 こういう所だけ鋭く正論で来るからこの娘は困る。

「まあそうだね、でも目的はかみ合ってないかなと思ったけど手段として窓増やしたりするのは別にダメな事とは思わなかったからね、そこは止める必要が無いと思ったんだよ。」

「ふーん。まあ、いいならいいでしょ!」

 そう言ってケラケラ笑いながら、ボスは会議室を出て行った。

 この調子で毎回新しいことを思いついては振り回される幹部たちの顔を思い浮かべると、なんだか少しかわいそうになってくる。

 ともあれ、業者の手配も真嶋がやると言っていたし、俺が考えることじゃないか。そう自分に言い聞かせて、机に残された『ビジネス現代』をパラリとめくった。

 時代と共に変わる必要がある、か。俺はかつての自分から、どのくらい変わることができただろうか。時代に適応できているだろうか?

 透明性だの、風通しだの、どれも一理あるような気はするけど、正直ギャングに会う言葉ではない。

 しかし、その俺たちからは出てこない発想こそが、変わっていく時代を乗りこなすカギになるのかもしれない。

 そう結論づけると、俺も会議室を後にした。


設定は固めきれてはいないのですが、とりあえず1話だけ書いてみたので投げておいてみます。

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