第7話 付き合ってるの?
来週からテスト週間が始まる。授業は通常通り行われるけど部活や委員会はお休み。文化祭の準備や打ち合わせでの居残りも当然禁止されている。テスト明けにすぐ作業に入れるよう今日のうちに色々と決めておかなくてはならない。
放課後の教室で、いつものように僕の机を囲む。
「テーブルクロス担当はこの五人な。他に必要なモンある?」
「給仕担当にお揃いで目印付けようよ。男装や女装をするって言っても、私服だとお客さんと区別がつかないし」
当日はうちの学校の生徒だけでなく、父兄や一般の人も多く訪れる。単なる私服では誰が店員なのか、お客さん側が判別できない。
「それもそうだな。エプロンとか?」
「エプロンだと折角の服が見えなくならないかな。名札プラスなにか欲しいところだけど」
「服を隠さないものとなると、腕章?」
「いいね。じゃあ、テーブルクロス班に腕章も作ってもらおっか」
話し合いながら、土佐辺くんはどんどんノートにメモしていく。走り書きなのに綺麗な字で、とても分かりやすくまとまっている。事前準備の内訳として、テーブルクロス、看板、ポスター、内装、メニュー作成などを数人ずつの班に分けた。
「給仕係は何人にしようか。一度に表に出られる人数には限りがあるもんね。交代で休憩に入る時に腕章を渡して……」
「予備もあったほうがいいか?」
「なにがあるかわかんないもんね」
二人で案を出し合っているからか、打ち合わせはすごく順調に進んだ。土佐辺くんもそう思っていたみたいで、キリの良いところまでメモした後に小さく笑った。
「ハハ、こんだけ決めておけば安心だな」
「他に決めておくことある?」
「事前に借りられるものがどれくらいあるか確認しておきたいな。テスト明けの実行委員会で奪い合いになると思うから先に目星をつけておきたい」
「じゃあ明日先生に相談してみるね」
「任せた。最悪ミシンやアイロンは家にあるヤツに借りればなんとかなるだろ」
熱中していたら、あっという間に時間が過ぎた。気が付けば、教室に残っているのは僕たち二人だけになっていた。
そうだ、土佐辺くんに聞きたいことがあったんだ。
「あ、あのさ」
なんて言って切り出そう。亜衣のためとはいえ、クラスメイトに変なこと聞いて呆れられたくない。でも、土佐辺くんモテそうだもん。昼休みだって檜葉さんと一緒に居たし、もしかして付き合ってたりするのかな。僕が知らないだけで付き合っている人がいるのかもしれない。
「安麻田?」
話し掛けておいて急に黙り込んだ僕を、土佐辺くんが心配そうに覗き込んできた。いつもはすぐ逸らされてしまう彼の目がまっすぐ僕を見据えている。
早く何か喋らなきゃ。さっきまで普通に話せていたのに、急に何も言えなくなる。焦れば焦るほど頭の中が真っ白になって、肝心の質問がどこかへいってしまった。
「どうした。顔が赤いぞ」
「……ッ」
彼の手が僕の前髪を掻き分け、そっと額に触れる。焦りと緊張で、更に頬が熱くなるのを感じた。これ以上心配させたらダメだ。早く聞かなきゃ。
「ひっ、檜葉さんと付き合ってるの?」
「は?」
あー! 違う!!
確かにそれも気になってたけど、聞きたいのはそっちじゃない!
どうしよう、土佐辺くんがポカンとしてる。
「なんでそうなる?」
「だ、だって、昼休みに一緒に居たから」
「はぁ~?」
今度こそ彼は呆れた顔で大きく息を吐き出した。
「違う違う。たまたま自販機前で行き合っただけだ。オレが飲みたいやつ、あそこにしか入ってないから」
自販機は校内の至るところにあるけれど、場所によってラインナップが微妙に違う。確かにあの時、彼が持っていたのは他の自販機に入っていないジュースだった。
「いちごオレ好きなんだ?」
「わりーかよ。アタマ使うと甘いもん欲しくなるんだよ!」
「ううん、悪くない。意外だっただけ」
珍しく恥ずかしそうにしている土佐辺くんを見ていたら、なんだか緊張が解れてきた。くすくす笑うと恨めしそうに睨まれるので、手のひらで口元を隠して笑いを噛み殺す。
「さっきの理屈でいったら、オマエだって駿河と付き合ってることにならねえ?」
今度は僕がポカンと口を開けた。
「なんで? 男同士だよ」
「……まあ、そーだけどよ」
男友達とお昼を一緒に食べるのなんか校内でよく見るごく普通の光景だ。女子と二人で中庭を歩いていた土佐辺くんのほうが珍しい。
そう答えると、彼は気まずそうに頭を掻いた。