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なんでも知ってる土佐辺くん。  作者: みやこ嬢
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第55話 見回り当番

 うちのクラスの『男装&女装カフェ』は、ありがたいことにオープンしてからずっと客足が途絶えず賑わっている。


 呼び込み担当として立て看板を持ったスポーツ推薦組を校内各所に配置している。厳つい体格の彼らが可愛い色柄の浴衣を着ている姿は人目を引いた。


 教室前の通路まで来たら、お客さんは高確率で中に入ってくれる。入り口付近に立つ受け付け担当の檜葉(ひば)さんに魅せられるからだ。美人で長身痩躯の彼女は男性からの受けが良い。更に、細身のスーツをパリッと着こなした凛々しい男装姿は女性からの人気も高い。


「どうぞ。今ならすぐご案内できますよ」

「は、はいぃ……♡」


 男装姿だからか、檜葉さんはいつもより少し低めの落ち着いた声と控えめな笑顔で対応している。男女問わず魅了され、吸い込まれるようにカフェに入っていくお客さんたちの様子に、ただただ感嘆の息がもれた。


 調理係も給仕係も慣れてきた頃、先に自由時間を満喫していたメンバーが戻ってきた。腕章を渡して店番を交替する。手順を何度か実際に見せて引き継いだ後、僕たちは外に出た。


「さて、なにか食うか?」

「タコ焼き食べたい!」

「火を使う系の屋台は外だな。行くか」


 昇降口で上靴からスニーカーに替えて外に出ると、周りの視線がやたらと突き刺さった。教室内では全員そうだったから気にならなかったが、僕たちは女装したままだ。


「着替えてくれば良かったかな」

「こんなの何度も脱いだり着たりしてられるか。見回りの後にもう一回店番するんだぞ」

「それもそうだよねぇ」


 とはいえ、慣れないスカート姿で外を出歩くのは緊張する。風が吹く度に裾がふわりと浮かんで気が抜けない。土佐辺(とさべ)くんはタイトスカートだから裾は捲れにくいけど、代わりに大股で歩けないという制約がある。


 屋台で買い食いして、他クラスの出し物を見に行って知り合いに冷やかされたりしながら休憩時間を満喫した。


「そろそろ見回り当番の時間だな」

「じゃあ行こうか」


 校庭の一番目立つ場所に文化祭実行委員会のテントが建てられている。会場の案内や迷子の保護、落とし物の管理など様々な役割を担っている。一、二年生の実行委員は交代で巡回をして、三年生も交代で詰め所で待機する決まりだ。


 見回り当番を交代するために実行委員の腕章を受け取りに詰め所に立ち寄る。その時、土佐辺くんがテント内に見知った人物がいることに気付いた。例の、井手浦先輩のことを知っていたメガネの先輩だ。彼は土佐辺くんの姿を見て青褪め、座っていた椅子から腰を浮かせる。女装姿に驚いたのかもしれない。メガネの先輩から腕章を受け取る時、土佐辺くんは何やら耳打ちされていた。


「メガネの先輩、なんか言ってた?」

「オレの女装姿に惚れたらしいよ」

「あはは、確かに似合ってるもんね」


 軽口を叩きながら、校内を二人で並んで巡回する。校庭から校舎内まで隈なく周り、時にはこちらから声を掛け、困っている人の手助けをする。幸い僕たちが担当している区域には大きなトラブルは無かった。


「メイド喫茶にいきたいんですけどぉ」

「あっちに怪我人がいるから来てください」


 あとは実行委員の詰め所に戻るだけ、という時に二組から同時に声を掛けられた。どちらもすぐ対応しなくてはならないが、行き先は逆方向だ。


安麻田(あまた)、怪我人のほう頼む」

「分かった。じゃあ後で」


 二手に分かれ、土佐辺くんはメイド喫茶までの道案内、僕は声を掛けてきた女子生徒と一緒に怪我をしている人が待つ場所へと向かう。


 しかし、そこに居たのは見知った人物だった。


「ありがとー。もういいよ可愛い子ちゃん」


 立ち去る女子生徒にひらひらと笑顔で手を振るのは、二度と顔を合わせることはないと思っていた人。


「せ、先輩……」


 井手浦(いでうら)先輩は、ひと気のない校舎の裏で僕を待ち構えていた。


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