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なんでも知ってる土佐辺くん。  作者: みやこ嬢
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第41話 あらぬ誤解

 考え事し過ぎてぼんやりしていた僕を心配して、土佐辺(とさべ)くんが家まで付き添ってくれた。


「送ってくれなくてもいいのに」

「オレがやりたいからやってるだけだ」


 いつもなら最寄り駅近くの交差点で別れるのに、学校帰りに家まで一緒に行くのは初めてだ。


「今の安麻田(あまた)はボーッと歩いてるうちに溝にハマりそうだから放っておけないんだよ」

「そこまでぼんやりしてないよ」

「でも、授業中も昼休みも心ここに在らずって感じだっただろ。体調不良じゃないよな。なんか悩みとか?」


 やはり土佐辺くんは勘が鋭い。

 いや、僕が分かりやすいだけか。


「いま思うと、土曜に文化祭見に行った帰りくらいから少しおかしかったよな」

「……」

「遊び疲れただけかと思ってたけど、もしかして、なにかあったのか?」


 隣を歩く彼に尋ねられ、僕は思わず足を止めた。カバンを持つ手が微かに震え、唇を噛む。


 黙っていてもそのうち全部バレてしまいそうだ。嘘をつくのは得意じゃない。第一、心配してくれているのに誤魔化し続けるのも申し訳ない。


 でも、僕の迅堂(じんどう)くんに対する気持ちだけは内緒にしておかなくては。


「じ、実はね」

「うん?」


 意を決し、口を開く。


「この前の文化祭の時、亜衣(あい)がメイド服着てたでしょ? あれを僕に着せようって話になってて」


 別件だが、これはこれで悩んでいる。亜衣が文化祭で着たメイド服は、呼び込み担当の女子数名がディスカウントショップで個人的に購入したものだ。つまり、僕の家にはあのメイド服がある。元々女装用に服を貸してもらう予定だったが、せっかくだから私服よりメイド服にしたら良いんじゃないか、という話になったのだ。


「ああ、あれか。悪くないな」

「いやいやいや」


 クラスメイトのほとんどは女装や男装をするとはいえ普通の私服だろうに、僕だけメイド服を着ていたら目立つじゃないか。女装に気合い入れ過ぎだってドン引きされてしまう。


「メイド服以外貸さないとか言い出すし」

「実際に文化祭で使うかどうかはともかく、いっぺん着てみればいいのに」

「ヤだよ!」


 僕は確かに女顔だけど、普通の女子よりは肩幅もあるし筋肉もついている。フリフリの衣装が似合うとは思えない。それに、同じメイド服を着たら嫌でも亜衣との差が分かってしまう。文化祭には迅堂くんも遊びに来るかもしれないのに。


「まあまあ。おまえの妹だって一度着た姿を見せれば気が済むだろ。そうすりゃ普通の服を貸してくれるんじゃね?」

「そ、そうかな」


 どちらにせよ女装するのは確定なんだけど、フリフリのメイド服に比べれば普通の服のほうが百倍マシだ。


「着たところを写真に撮って見せてやれば?」

「うーん、それで済むなら……」

「じゃ、早速今から着てもらおうか」

「えっ今から?」

「オレが写真撮ってやるから」

「は???」


 勢いに押され、僕はまた土佐辺くんを自分の部屋に通してしまった。


 クローゼットには亜衣が無理やり置いていったメイド服が掛かっている。ツヤツヤした薄くて安っぽい生地だけど、デザインはなかなか可愛いと思う。在庫一掃セールで二千円くらいで買えたとか何とか言っていた。


「ほ、ホントに着なきゃダメ?」

「今着ないと、文化祭でクラスメイトどころか一般の客にもメイド姿を見られるぞ」

「それは絶対やだ!」


 制服の上から着ようとしたら、土佐辺くんから止められた。


「それで妹が納得すると思うか?」

「……やっぱりダメかな」


 仕方なくカッターシャツとスラックスを脱ぎ、背中のファスナーを下ろしてメイド服に袖を通す。スカートがスースーして落ち着かない。


「ファスナー上げてやるよ」

「あ、ありがと」


 首の後ろから腰辺りまであるファスナーは一人では手が届かなくて閉められない。土佐辺くんが後ろに立ち、閉めてくれることになった。

 しかし。


「き、キツい……!」

「途中までしか閉まらねーな」

「やっぱ無理があるよね」


 亜衣にはぴったりのサイズでも、男の僕にはやはり小さかった。ウエストはともかく肩周りや胸の辺りが窮屈で動きづらい。下手をすれば服が破れてしまいそうで腕を上げることすら出来ない。男女の体格差を身をもって思い知る。


「似合ってはいるんだけどなぁ。思うように動けないんじゃ文化祭で着るわけにはいかねえか」

「ファスナーが閉まらないんじゃ無理だよね」


 土佐辺くんはスマホで写真を撮っていた。サイズ的にメイド服が無理だと分かったのだから、もう撮る必要はないのでは?


「スカート、おまえの妹が着てた時より短い」

「え、そう?」

「もうちょい長くなかったか? これくらい」


 言いながら、土佐辺くんがしゃがみこんで僕の膝上くらいを指し示す。


 その瞬間、ガチャッとドアが開いた。


瑠衣(るい)~、知らない靴があったけど誰か来てるの?」


 ノックもせず、亜衣が部屋に入ってきたのだ。いつの間にか学校から帰ってきていたらしい。


「あっ」

「あっ」

「あっ」


 亜衣の視界に映るのは、メイド服に身を包んだ兄と、兄の前に座り込んで太ももを触ろうとしている男の姿。


「ご、ごめーん! お邪魔しました~!」

「ちっ違う、亜衣! 話を聞いて!」


 非常に不名誉な誤解をされた気がする。


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