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なんでも知ってる土佐辺くん。  作者: みやこ嬢
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第36話 一緒に来て良かった

 お化け屋敷を後にした僕たちは、とりあえず校内を回ることにした。


「二人ともチケット貰えるなんて思わなかったね」

「ホントにな」

「ふふ、土佐辺くんがあんなに大声出すなんて」

「仕方ないだろ、いきなり冷たいコンニャクを顔面にブチ当てられたんだぞ!」


 確かに、プロジェクションマッピングという高度な技術が使われた後に古典的なトラップが来るのは意外だった。


 いま思えば、迅堂(じんどう)くんはワザと土佐辺(とさべ)くんを狙い撃ちしたのだろう。途中まで間接的な仕掛けばかりだったから、直に何かしてくるとは僕も予想していなかった。出口を見つけ、こちらが油断した頃にやられたから尚更だ。


「近場から回るか」

「すぐそこにカフェコーナーがあるって」

「お、いいな。参考になりそう」


 パンフレットを見れば、校庭だけでなく校舎内にも飲食系の店が幾つかあった。メニューや看板、内装などを見ておきたい。あと、悲鳴をあげたせいで喉が渇いた。


「いらっしゃいませー!」


 立ち寄ったのは普通の教室でやっているカフェだった。昼前だからまだ空席が多い。会議室にあるような長机がテーブル代わりになっている。三種類のメニューがあり、ドリンクとフードがセットで、どれも手頃な価格設定だ。一つずつ注文してから席に着く。


「メニューがシンプルでいいね」

「種類が多いと準備も大変だからな」

「これならウチも出来るかなあ」

「写真撮っとくか」


 運ばれてきたジュースとフードを僕の前に置き、土佐辺くんはスマホを構えた。


「ちょっと、僕が映っちゃうよ」

「いーじゃん。記念記念」

「恥ずかしいんだけど」


 これも自分たちの出し物に活かすため、と無理やり笑顔を作って大人しく撮られる。


 ジュースは紙コップ、フードは紙皿に乗せられている。土佐辺くんはコーラとクッキー、僕はオレンジジュースとプチパンケーキ。クッキーは手作りだけど、多分前日に作り置いたものだろう。プチパンケーキは注文を受けてからその場で焼いていた。ホットプレートを使ったメニューは参考になる。小さく薄く作ればすぐに焼けるから、これは積極的に真似したい。


 土佐辺くんはさりげなく在庫置き場や調理してる生徒たちの写真を撮っている。僕もメニュー表や内装を撮った。


「紙コップとか紙皿って普通のお店で買ったら高いよね。あと、使い捨てのフォークとかも必要かな」

「専門店でまとめ買いすれば安いぞ」

「あ、ホントだ」


 土佐辺くんが最寄りの店のホームページを検索して見せてくれた。肩を並べてスマホ画面を眺めて相談する。こうして実際に体験してみなければ具体的に必要なものが分からなかった。


 カフェコーナーを出て、今度は学科や部活の展示を観に行く。華やかで騒がしい雰囲気から一転、校舎の奥へ行くほど人通りは少なくなっていった。


「こっちで合ってる、よね?」

「たぶん」


 工科高校の校舎に入ったのは今日が初めてだ。流石の土佐辺くんもあまり自信がないようで、パンフレットの校内マップを見ながら進む。手描きのポスターを頼りに目的地へと向かう。


 漫画研究部、電研部、ジオラマ部などのマイナーな展示をしている教室が並ぶ区画にやってきた。どれもウチの高校には無い部活だから、活動内容に純粋に興味がある。


 ジオラマ部にはかなり大きな展示物が飾られていた。教室のど真ん中に直径一、五メートルほどの島を模したジオラマが鎮座し、訪れた人の目を引いている。ジオラマのそばに置かれたモニターには見覚えのある映像が流されていた。


「あっ、これ『特攻列島』!?」

「マジで?」

「ほら、ドラマの」

「ホントだ。じゃあコレ、もしかして」


 なんと、映像はテレビドラマの映像で、今朝土佐辺くんと話をしたばかりの『特攻列島』だった。ジオラマは作中で主人公たちが戦う無人島が忠実に再現されていて、港や町並み、山の上にある小学校もちゃんと作られている。


「すごい! 本物みたい!」

「見てみろよ。船と車もある」

「うわあ、細かい! 感動する~!」


 僕があまりにもはしゃぐので、ジオラマ部の部員さんや顧問の先生が照れ臭そうにしていた。この展示は今年だけでなく、歴代のジオラマ部が少しずつ手を加えて作り上げたものらしい。色んな角度から写真を撮らせてもらい、お礼を言ってから教室を出た。


「今朝たまたま話したとこだから、余計にビックリしちゃった!」

「観に来て良かったな」

「うんっ!」


 もし一人で来ていたら亜衣たちのクラスのお化け屋敷を覗くだけで、すぐに帰る予定だった。もし校内を回ったとしても、こんな奥まった場所にある展示には行かなかっただろう。


「えへへ、土佐辺くんと一緒に来て良かった」


 笑う僕を、土佐辺くんは軽く小突いた。


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