第33話 工科高校文化祭
去年は同じ日に開催されていたから工科高校の文化祭に来たのは今日が初めて。思いのほか大盛況で驚いた。校門を入った瞬間から屋台の呼び込みがすごくて、土佐辺くんが手を引いてくれなかったら全部買う羽目になっただろう。一般のお客さんはまずゲーム系の出し物に集中していた。校舎の中には専門学科や部活の展示もあるらしい。
「迅堂たちのクラスどこだっけ」
「えーと、たしか視聴覚室でやってるって」
入り口で貰ったパンフレットには簡単な校内マップが載っている。場所を確認してから校舎に入った。
「いらっしゃーい! 寄ってってね~!」
覚えのある声が人垣の向こうから聞こえてくる。廊下を埋め尽くす一般客を掻き分けていくと、そこにはメイド服姿で呼び込みをする亜衣の姿があった。
「あっ、瑠衣! 来てくれてありがとー!」
「お化け屋敷なのに、なんでメイド服?」
「客寄せと言えばメイドでしょ!」
そうかなあ。見れば、亜衣以外にも数人の女子が同じようなメイド服を着てチラシを配っている。
「あーっ土佐辺くんだよね、ひさしぶり~! ホントに瑠衣と一緒に来たんだ! 仲良いんだねぇ」
「まあな」
僕の隣にいる土佐辺くんに気付き、亜衣はその場でぴょんぴょん飛び跳ねた。そんなにジャンプしたらパンツが見えてしまうと思いきや、スカートの下にしっかりスパッツを着用している。これには周りにいた男性陣が肩を落としていた。
そうこうしているうちに、離れた場所で呼び込みをしていたメイド服女子がこっちにやってきた。僕の顔を見るなり、きゃあきゃあと盛り上がる。
「亜衣ちゃん、この人がそう?」
「うん、あたしの双子のおにーちゃん」
「めっちゃ似てる~! 可愛い~!」
「あ、あの……」
パーティーグッズ売り場で売ってそうな丈の短いメイド服姿の可愛い女の子たちが腕を組んだり抱きついたりしてくる。亜衣と同じ顔だから、彼女たちは何の抵抗もないみたい。周りにいる男性陣から羨ましげに見られていることに気付き、腕を振り解こうとしたけど、胸に手が当たってしまいそうで下手に動けない。
「おい、オレらは見学に来たんだ。さっさと中に案内してくれよ」
「そーだった! ごめんごめん!」
土佐辺くんに促されて、亜衣はようやく本来の仕事を思い出した。メイド服の女の子たちも慌てて持ち場に戻っていく。
亜衣は僕たちを視聴覚室まで案内した。廊下の窓は一部が塞がれ、他より薄暗くされていた。入り口には電飾で作られた光る案内板がある。どうやっているのか、まるで炎が風に揺らぐようにLEDの明かりも不規則に点滅している。おどろおどろしいBGMと相まって、凝った演出だと感じた。
「ハイッ、ここがウチのクラスの出し物『絶叫お化け屋敷』でーす!」
「ぜ、絶叫……?」
「そう! 中にある脅かしポイントでより大きな悲鳴を上げた人には屋台で使えるチケットを差し上げまーす!」
そう言って亜衣が胸元から見本のチケットを出して見せた。食券のようなもので、百円券が三枚綴りになっている。お化け屋敷の参加料が百円だから、もし貰えれば元が取れる。入口の前で説明を聞いている間も中から悲鳴が聞こえてきた。締め切ってるのにこんなに聞こえるなんて、中では一体なにが起こってるんだろう。ちょっと怖い。
「それ、チケット欲しさにワザと悲鳴上げるやつもいるんじゃね?」
それは確かに有り得る。土佐辺くんの指摘に、亜衣はフッと笑った。
「実は『驚かしポイント』は毎回違うのよ。音の大きさを測る機械は中で待機しているオバケ役が持ってて、それ以外の場所では幾ら叫んでもノーカウントなの。あと、一度チケット貰った人はもう参加できない決まりになってるから」
なるほど、そういった対策はしっかり考えられているようだ。
「あと、チケットが貰えるのは『現時点での最高記録』を塗り替えた人だけだからね~。つまり、時間が経てば経つほど達成しにくくなるってわけ♡」
今はまだ開場から三十分しか経っていない。記録保持者はその都度写真を撮って廊下に掲示されていく。現時点ではまだ二枚しか貼られていないらしい。
説明が終わった頃に入口の扉が開いた。どうやら順番が来たみたいだ。亜衣がカーテンを捲ると、内部は淡い光が足元にあるだけでほぼ真っ暗だった。
「二名様、ごあんなーい!」
亜衣に背中を押され、僕と土佐辺くんはお化け屋敷に足を踏み入れた。




