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なんでも知ってる土佐辺くん。  作者: みやこ嬢
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第2話 選ばれた理由

 土佐辺くんの推薦により、僕は彼と共にクラスの文化祭実行委員に選ばれてしまった。気乗りはしないけど決まったものは仕方がない。


 文化祭までまだ一ヶ月以上ある。クラスで何度か話し合いをして『男装&女装カフェ』で出すメニューや当日のシフトを決めなければならない。それ以外にも、実行委員の僕たちは他のクラスの実行委員たちと連携して全体の準備を手伝ったりする。一年生の時は言われたことをやるだけだったから、行事を運営する側に回るのは初めての経験だ。


「クラスの奴らに好き勝手に言わせておくと話がまとまらねー。先に幾つか案を出して、その中から多数決で決めさせるか」

「う、うん」

「飲食系の出し物するクラスは多いからな。出来るだけ内容もカブらないようにしたいよな」

「そうだね」


 放課後の教室の片隅。僕の前の席に後ろ向きに座り、一緒に企画を練る。と言っても、何をやったらいいか分からない僕は彼の言葉に頷くだけ。


「あのさ、土佐辺くん」

「うん?」


 意を決して話し掛けると、机の上に広げたノートを見ていた土佐辺くんがパッと顔を上げた。でも、すぐノートに視線を戻してしまう。以前も目が合った時にすぐ逸らされたことを思い出し、なんとなく気まずい気持ちになった。


「なんで僕を実行委員に選んだの?」

「理由なんか要る?」

「そっ、そりゃあ知りたいよ」


 つい問い詰めるような口調になってしまい、ぐっと唇を噛む。僕はいつもこうだ。さりげなく聞こうと思っていたのに全然うまく言葉が出てこない。


「勝手に決められて迷惑だった?」

「め、迷惑とかじゃ」


 机を挟んで向き合っているのに、下を向いたままの彼がどういう感情を抱いているのか分からない。逆に、土佐辺くんには僕がどう思っているか筒抜けだったみたい。目を合わせないまま、彼は小さく息をついてから口を開いた。


「アイツら、いっつも成績ギリギリだから余計な仕事増やして追試になったら可哀想じゃん」


 クラスの話し合いで盛り上がっていた人たちはみな運動部で推薦入学してきた、通称・スポーツ推薦組だ。しかし、うちの高校は部活より学業を重んじる。成績が落ちれば容赦なく部活を休まされ、既定の課題が終わるまで復帰は許されない。秋には色んな大会が開催される。下手をすればレギュラーから外されてしまう可能性だってある。


「その点、安麻田は入学してからずっと成績上位をキープしてるし部活もやってないから他のヤツより余裕があると思ってさ」

「そっか」


 クラスメイトたちを事情を思い遣った結果、忙しくない僕に白羽の矢が立てられたというわけだ。


「それだけじゃない。安麻田は口数少ないけど頭ん中で色々考えてるだろ? 単なる数合わせじゃねーよ。これでも頼りにしてんだぜ」


 そう言われ、僕は思わずノートで顔を隠した。


 土佐辺くんはすごい。急に変なこと聞いちゃったのに淀みなく理由を教えてくれる。下手な誤魔化しやその場凌ぎの言葉じゃないと伝わってくる。


「や、役に立てるよう頑張るね」

「ハハッ、頼んだぜ相棒」


 ポンと軽く肩を叩かれ、過剰に反応する僕を見て、土佐辺くんは声を上げて笑った。教室内に残っていた他のクラスメイトたちから注目が集まり、僕は顔の前からノートを退かせなくなってしまった。


「でも、成績良くて部活やってない人なら他にもいるよね。駿河(するが)くんとか」

「アイツは杓子定規(しゃくしじょうぎ)なカタブツだからな~。融通利かねえヤツはこーゆーの向いてねンだよ」

「確かに」

「それに、アイツ週三で塾通いだろ? そもそもヒマがねーんだよな」


 駿河くんも僕たちと小中同じ学校だったクラスメイトだ。成績は常に学年で五本の指に入るし、真面目で実直な性格を買われてクラス委員を務めている。塾に通っているのも本当だ。土佐辺くんの言う通り、駿河くんに文化祭の実行委員は不向きかもしれない。


 土佐辺くんは本当にいろんなことを把握している。他のクラスの動向やクラスメイトの個人的な情報まで。彼には知らないことなんて何もないんじゃないかな。少し羨ましい。


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