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なんでも知ってる土佐辺くん。  作者: みやこ嬢
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第15話 謎の先輩

 翌日の放課後も勉強会のために学校近くの図書館に集まった。今日は駿河(するが)くんは塾の日で参加していないので、檜葉(ひば)さんのテンションがあからさまに低い。


 スポーツ推薦組は相当テストに自信がないらしく、誰一人欠けることなく参加している。駿河くんがいないから僕と土佐辺くんがそのぶん彼らに接する機会が増えた。次々に質問され、その都度できるだけ分かりやすく解説していく。教えることで自分の復習にもなる。勉強会を通じて普段あんまり喋らないクラスメイトと話せるのも楽しい。


安麻田(あまた)の説明分かりやすい」

「なにげに教えるのうまいよな」

「そ、そうかな?」


 この前の土日に亜衣(あい)迅堂(じんどう)くんに勉強を教えていたからだろう。何が分からないのかすら自覚していない二人に理解してもらうため、可能な限り簡素な説明を心掛けた経験が今回の勉強会で役に立っている。


 亜衣たちの学校は今週テストだ。勉強の成果は出ているだろうか。亜衣が赤点を取ってなければいいけど。


「──安麻田」

「なに?」


 急に話し掛けれられて顔を上げると、隣に座る土佐辺(とさべ)くんが呆れたように小さく息をついた。


「みんなが勉強のお礼で飲みもん奢ってくれるってさ。カネ貰ったから買いに行こ」

「えっ!?」


 その言葉に驚いて前を見れば、みんながニッと笑顔を向けていた。


「あ、ありがとう、みんな」

「そりゃこっちのセリフだよ」

「そーそー。ありがとな安麻田」


 こんな風にお礼を言われるなんて、何だかすごくこそばゆい。嬉しさと気恥ずかしさで熱くなる頬を手のひらで隠し、土佐辺くんと一緒に会議室を出た。


「安麻田、顔真っ赤」

「うう……」


 隣を歩く土佐辺くんがワザと顔を覗き込もうとしてきたので手で押し退ける。あのまま会議室にいたら泣いてしまいそうだったから、クールダウンできる時間があるのはありがたい。


「自販機、一階の出入り口にしかないんだよな」

「そうなんだ。僕、ここ詳しくなくて」

「隣の市の図書館なんか利用しないもんな。でも、オレらの市にある図書館より本が多いんだぜ? 今度図書スペースも覗いてみろよ。専門書とか充実してるからさ」

「う、うん」


 僕と土佐辺くんは隣の市から通っているから、学校のそばにあるこの図書館には馴染みが薄い。会議室が借りれるのも今回初めて知ったくらい。


 話をしているうちに自販機に着いた。ジュースを買って会議室に戻る前、土佐辺くんがトイレに寄るというので、近くの通路で待つ。


「あれ、昨日の子だよね?」

「こんにちは」


 壁に背を預け、ぼんやり立っていた僕に話し掛けてきたのは昨日の男の人だった。やはり、うちの高校の制服を着ている。


「何してるの?」

「ええと、友達を待ってます」

「ここへは勉強をしに?」

「テスト週間なので」


 同じ学校の生徒なら、この人もテストのために勉強しに図書館を利用しているに違いない。


「自習スペースには居なかったよね」

「クラスのみんなで二階の会議室を借りて勉強会をやっているんです」

「ああ、だから一階じゃ見掛けなかったんだ」


 自習スペースは一階のカウンター前にあり、一席一席が仕切られた机が並んでいる。おしゃべり厳禁なので大人数での利用には向かず、僕たちは会議室を借りているのだ。


 彼はにこやかに笑いながら、当たり前のように僕の隣に立った。昨日も思ったけど、人懐っこいというか距離感がバグっているというか。会って二回目なのに、なんでこんなに話し掛けてくるんだろう。


「ねえ君、何年生?」

「二年です」

「二年生? 一年生かと思った!」


 学年を教えたら大袈裟に驚かれた。僕が童顔なのは事実だけど、驚くほどだろうか。


「俺は三年なんだ。よろしくね」

「じゃあ先輩ですね」

「んふふ、いーねぇ先輩って響き♡」


 彼……先輩は満面の笑みを浮かべ、まじまじと僕の顔を見つめてくる。だから、いちいち距離が近い。


「安麻田、待たせたな」

「と、土佐辺くん」


 対応に困っていたら、トイレから土佐辺くんが出てきた。ホッとして表情がゆるむ。


「その人、誰?」


 土佐辺くんが怪訝そうに尋ねると、先輩は「またね~」と笑顔で去っていった。後ろ姿を呆然と見送りながら、僕たちは顔を見合わせる。


「今のヤツ、知り合い?」

「ううん、知らない人。うちの学校の先輩」

「……あんな奴、見たことないぞ」


 情報通の土佐辺くんでも知らないことがあるんだ。


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