Extra episode~貴方しかみえない~
いつからだろう。
お兄ちゃんを「兄」としてでなく「男性」として好きになったのは―。
☆ ☆ ☆
「お兄ちゃんなんだよね?」
「そうだよ。けど、あんな変態おっさんとこんな美しいオレを、っておっと」
陽奈 は陽羽 に勢いよく抱きついた。
「お兄ちゃん!お兄ちゃん!会いたかったよ~~」
「陽奈…オレも会いたかったよ」
陽羽は優しく、泣きじゃくる陽奈を抱き返す。
「って言っても陽奈が『陽羽』そっくりだから久しぶりって感じしないけど。ほら、ね?」
そう言って陽羽は、素早く「女子高生」へと姿を変えた。瞬間、陽奈の前に瓜二つの「陽羽」が現れた。
「うわ…鏡見てるみたい…」
「だろ?だから、奏多が「陽羽」で変な妄想してるのがすごいヤでさー」
扉の向こうにいる奏多に聞こえるよう、陽羽はわざと大きな声を出す。
「でもお兄ちゃんは「お父さん」「お母さん」に、んっもご」サッと陽羽は陽奈の口を塞いだ。
「しっ。まだ奏多がそこにいるみたいだから…よし、出てったみたい」
「ごめんなさい、奏多さんには知られちゃダメなんだよね」
「うん。『その時』が来るまでは、ね」
☆ ☆ ☆
「とりあえず服汚れるだろうから…うーん、オレのTシャツで我慢な」
「うん」
陽奈はそれまで来ていた白いワンピースを脱ぎ、Tシャツに着替える。
「陽奈はこれからずっとここにいるの、俺と一緒に?」
「ううん。少しだけなら、って言われて来たから。すぐに戻んなきゃ」
「そっか」
「だ、だからね。こ、今晩お兄ちゃんと一緒に寝てもいい?」
着替え終わると同時に陽奈は、どうしても伝えたかった言葉をようやく絞り出した。
「いや、奏多のベッド、使いなよ。オレはソファでいいから」
「ううん。ね、お願い?」
控えめな陽奈にとって、口から心臓が飛び出るのではないか、と思うほどの恥ずかしさだった。それでも陽羽に、どうしても我が儘を聞いてほしくて上目遣いで見つめる。
「っっ、だ、だけどさ、年頃の兄妹で一緒のベッドっていうのもどーなのかなってお兄ちゃんは思うなー」
「ひ、陽奈。あんまくっつくと…その…」
渋る兄を、どうにかベッドに寝かせた。陽奈に背を向ける陽羽に後ろから手を回す。必然的に豊満な胸元が、前にある背中に押し付けられる。
「お、お前、し、下着、は」
「きついから外したの。…いいよ、その、お兄ちゃんとだったら」
どこかで読んだ不純な誘惑方法を思い出しながら、不器用ながらも陽羽に試してみる。これなら、お兄ちゃんも。
「陽…奈…」「お兄ちゃん」
二人の間に沈黙が流れる。
ドクンドクンドクンドクン。陽羽の鼓動が、くっついている部分から陽奈に伝わる。陽奈のそれも同じく陽羽へと伝わっているだろう。
…お兄ちゃん。
突然、陽羽が大きな声をあげて、その沈黙を破った。
「いや!やっぱダメだ!そりゃ、陽奈はめちゃくちゃ可愛くて大好きだし大切だけど…でも、さ。それとこれとは」
その言葉を聞いて、“何か”を望んでる自分がバカらしくなる。
「ふふふ。もういいよ、お兄ちゃん。わがまま言ってって、お、お兄!」
次の瞬間、陽羽は陽奈の上にに覆いかぶさった。「ひ、な…」陽羽の顔がだんだんと近づいてくる。
ぎゅっ
恥ずかしさから、陽奈は力強く目を瞑った。徐々に陽羽が近くなる気配を感じる…ドクン、ドクン、ドクン…
しかし、陽羽の唇は、陽奈の唇ではなくて、頬へとキスを落とした。
ちゅ
「やっぱ、ごめん」
そう言って陽羽はベッドから出て、その傍らへと座った。
「ううん……じゃあさ、ずっと手繋いでて」陽奈は陽羽にさっきとは違うお願いをする。
「これでいいか?」
陽羽は差し出した手を握り返す。
「おやすみ陽奈」
「おやすみなさいお兄ちゃん」
この恋心が届くことはない。
だけど私はこれからも「兄」に恋をするのだろう。